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グラナトは排除すると決めるが早いか、対面する騎士や魔術師の魔法の力を封じた。
魔法の力を封じる方法が二つあり、一つは現象を起こす精霊に今後彼等に力を貸す事を赦さない事ともう一つが体内を巡る魔力回路を遮断する方法。グラナトが取ったのは、後者の方法だった。これで、今後魔法を使う事が出来なくなった。これによって彼等の出世は断たれた事になる。
そうとは思っていない騎士達は三人を睨んでいる。
「ふんっ」
憤慨するグラナトだったが、傍らに立つティアンは、やはり根本的に彼は優しいのだと思った。彼の力を持ってすれば、灰燼に帰する事など造作もない。なのに魔力回路遮断という甘い処罰で済ませたのはユーリの為か、もしくは彼の優しさ故か。
「私が手を出しても良いかしら?」
彼が甘い飴ならば、自分は鞭の役割だろうと決め、畳んでいた扇を開く。
ティアンが不敵に笑う様は好戦的でグラナトがそっと嘆息する。
「何をゴチャゴチャ言っている」
貴族の青年は苛立たしそうに二人を見、ユーリへと視線を戻す。そのユーリを舐めるような視線にユーリは鳥肌が立った。
「お前が戻ると言うのであれば、此方からは手出ししないと約束しよう」
勝ち誇った物言いにユーリ、グラナト、ティアンはそんな言葉が信じられるか、と心の中で思った。彼の今までの言動で彼の言葉は上部だけだと知っている。彼の心中では、ユーリを手に入れたら二人を総攻撃して殺し、ユーリの心を折る事を画策しているのだと分かる。見え透いた嘘に騙されるほど浅はかではない。
青年は数で勝っている自分達が有利だと思い違いをしており、ユーリ達を敵ではないと侮っているのが言動からも明らかだった。
「駄目だな。ここは物理的に黙らせるか」
言うが早いか地を蹴って騎士達に肉薄すると目で追う事も出来ない程の早業で当て身を食らわせ、意識を刈り取っていく。
瞬き一回でのその惨状に気付いた時には、貴族の青年しか立っている者がいなかった。
「な…え?は?」
風が吹き抜けたと思ったら、周りにいた手下が一斉に倒れた事で状況を上手く飲み込めない青年は動揺している。
「ふん、他愛もないな。何故こんなに弱い者が精霊である俺に楯突くのか」
青年の横を通り過ぎながら、さっぱり理解できないという表情をし、悠然とユーリ達の方へと歩いていく。
ティアンが出れば死傷者が出るとの判断でグラナトが出たが、当のティアンが頬を膨らませてご機嫌斜めの様子にうっかりグラナトは吹き出してしまった。
「なんで、笑うのかしら?」
「いや、ぶふっ…別に…ぐっ」
必死で笑いを噛み殺そうとしているが、上手くいかずティアンは更にぷりぷりと怒る。
「まあまあ、ティアンもそんなに怒らないで下さい。貴女は笑ってる方が素敵ですよ」
二人を諌めようと言った言葉にティアンがユーリを振り返る。
「…………ユーリ、好き」
「おい」
真顔でユーリに迫るティアンにこのままだと不味いと感じたグラナトがユーリの手を引っ張り、この場を離れようとする。
「待て!何処に行く!!」
立ち去ろうとしている三人に手下を失った青年は青い顔で声を荒げて呼び止める。
「帰るんだ」
一瞬だけ振り返り、そう言うと三人は連れだって歩いて真っ暗な屋敷の庭を歩く。
整えられはいるが、敷石などがあるわけではない道を小石を踏みながら進む。するとユーリの後ろでグラナトとティアンの不穏な会話が漏れ聞こえてきた。
「お前は何も言わなかったが、今更ながら魔力を封じただけで良かったか?」
「そんなわけないでしょう。ユーリに手を出したのよ。あいつの家が繁栄しないようにと後継を残せないようにしたわよ」
「良い笑顔でえげつないな」
貴族青年にはティアンが呪いをかけた。それは次期当主の青年に後継を設けられないというものだ。では、青年の兄弟に次期当主の座が転がってくるだろうが、如何せん彼は一人っ子だ。これにより彼の一族の直系は絶たれる。
そうなると遠方の血筋などから優秀な子供が養子と迎えられ、次期当主となるだろうが、そこは抜け目ないティアンが誰が彼の一族の当主になっても後継が出来ないような呪いを一族全体にかけている。
では、関係ない者から養子を取れば良いと思うが、それはもう彼の一族ではないので、結局血は絶える。
もう一つの繁栄させないという呪いは彼の一族が行っている事業を悉く失敗させるというものだ。
青年の親は金融業や運送業などを主とした事業を行っていた。最近はその事業が好調で次は鉱山採掘にも手を出そうと考えていた。
鉱山採掘にいくらお金を注ぎ込んでも精霊達の力で何も出てこないようにする。
当たれば大きな利益を得られる鉱山採掘に多方面に借金を作ってでも躍起になり、それでも何も出なかった時、莫大な借金だけが残るという呪い。
なかなかに恐ろしい呪いを与えたティアンだったが、まだまだ嫌がらせをしたそうにしていたが、これ以上すると危険なので止める事にした。主にティアンではなく青年が危険なのだ。
青年を呪い殺したいわけではなく、生きながらの地獄を味合わせてやりたいだけなのだ。
「この件に関わった連中もどうにかして良いかしら?」
艶然と笑うティアン。 まだまだやり足りないようだ。広げた扇で口許を隠している姿にグラナトは寒気立った。
徹底した報復に粘着室な怒りは流石は女性と言うべきなのかと言葉を飲み込む。言えば確実に自分にもなんらかの報復がある。
ティアンに気取られないように唾を飲み込むと意を決してティアンに視線を向ける。
「お前の思う通りにしたら良い」
否と答えて自分に被害が出てはたまったものではないとの判断だ。結局、グラナトはティアンに勝てない。実力的には甲乙つけがたい程に拮抗しているが、内面的にはどうあってもグラナトは彼女には勝てないと本能で知っていた。
屋敷の門扉を潜り抜けて通りへと出る。見慣れない町並に此処が何処なのか見当がつかない。途方にくれて立ち止まるとティアンがユーリの手を取った。
「送っていくわ。大丈夫。ここはまだ王都よ」
真っ暗な町並は昼間と違い見知った建物が見えない。ティアンが言った言葉を本当かどうか断ずる事が出来ないユーリは、ティアンを信じる事にした。
ユーリの中の『異性に対する好意』の高性能レーダーでガンツやグラナトが安全であると判断した為、彼等に触れられようが鳥肌や嫌悪感などが感じられないので普通に接してます。アンリに至っては年下で保護対象の位置付けの為アンリにベタベタされてもそこは子供だと思っているので平気。アンリの方にも高性能レーダーを搭載してますが、ユーリに振り切れているのでもっか故障中。
読んでいただきありがとうございます。




