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今日も異世界ライフを満喫中  作者: ツヴァイ
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 銀色の光が散らばる濃いコバルトブルーの瞳を細めて笑う大精霊がユーリを見下ろしていた。


「と、言う事が昔あったのよ。掻い摘まんでの話なのだけどね。それなのにこんな事を仕出かすなんて死にたいのかしら?」


 花の(かんばせ)笑っているのに空気はひんやりと冷たい。尋常ではない怒りにユーリは自分に向けられた訳ではないのに震えあがった。


「貴女はこのままだと二番目の子と一緒になるわね。そうなったら悲惨よ」


 王族と結婚させられ子供を身籠った少女の事を言っているんだと直ぐに察し、全身が冷たくなっていく。知らない人に触られたくないし、ましてや子供など絶対に嫌だ、と強く思った。


「大丈夫よ。貴女は私が守るから」


 決然と言い放った大精霊は猿轡(さるぐつわ)をされ、両手両足を拘束されて豪華な寝台に寝かせられたユーリの隣に座り、虚空を見上げた。この事態を引き起こした人に対してどうやって懲らしめてやろうかと思案してあるのが、見てとれた。


 大精霊が座った時にギシリッと音がした事で確かにこの精霊が質量を持った身体を有していると分かるがその透き通るような美貌と直ぐに空間に溶け込んで消えてしまうんじゃないかという儚い雰囲気は精霊特有なのかもしれない。


 傍らに座る精霊の横顔をじっと見ている事に気付いた精霊は、ふんわりと微笑を浮かべて振り返った。


「何?あ、ごめんなさい」


 一言謝り、ユーリがされている猿轡を丁寧に外した。やっと呼吸が楽になったユーリが深呼吸を繰り返す。


「……私が言うのもなんだけれど、随分と冷静ね?普通の女性だと悲鳴や取り乱すものだと思うのだけれど?」


 不思議そうにこてりっと小首を傾げる精霊。美しい容姿に反して仕草がとても可愛らしい。


「以前にもこんな事があったんです」


 苦笑いを浮かべるユーリに大精霊は直ぐに察しをつけたのか、合点がいったように一つ頷く。


「それは、此方での話ではないわね。彼方かしら?」


 ユーリに言い寄って相手にされなかった男が誘拐しようとユーリを拉致しようとした事がある。その時は近くにいた人が気付き、事なきを得た。


 こうして考えると私の人生ってなかなかに凄絶で濃いな、と他人事のように考えてしまうユーリ。


「そうねぇ。これからは護衛として誰かつけるわね。誰か居るかしら?」


 何もない空間に大精霊の言葉だけが溶けていく…かと思えば、応えの声が聞こえた。


「なんだ?ティアン」


 見ていた場所とは違う所から現れたのは、黒い軍服姿の男性だった。肩の片側にマントの様なものが着いている。かっちりとした軍服を身に纏い、余計なものがついていない身体は細身に見える。

 金の髪は長く片側に無造作に流し、濃く豊かな睫毛の縁取る瞳は紅い。血のような赤でなく、何処か暖かみのある紅だ。白い肌にはシミ一つなく、キメ細かく滑らかで高い鼻梁と薄い唇の端には黒子が二つ並ぶ、その容姿にこの男性は美青年と言って差し支えない程の美貌の持ち主だった。

 ティアンと呼ばれた大精霊とユーリは青年へと振り返った。


「あら?貴方暇だったの?」


「暇と言う言葉が適切かどうかは分からんが、まあ、時間的に余裕はあるぞ」


 形の良い眉を器用に片方だけ持ち上げ、男性は未だに寝台の上で寝転がったままのユーリを見下ろした。その男性の視線を追うようにティアンもユーリを見た。


「初めましてかな。俺はグラナトと言う。こっちはティアンだ」


 ゆっくりと瞬きする瞳を覆う睫毛は長い。ティアンとグラナトが並ぶと著名な画家が描いた絵画の如く美しい。


「そう言えば私、ユーリに名前を教えてなかったわ。改めまして、私はティアンよ。宜しく」


 ふんわりと微笑むティアン。それを横目にグラナトは髪を指でくるくると巻きながらユーリを注視する。

 何故そんなに自分を見るのだろうかと不思議に思ったが、自分も自己紹介をしていないと感じたユーリは、寝転んだままで申し訳無いながらも名乗る事にした。


「あ、えっと初めまして。ティアンさん?様?グラナト様。私はユーリです。ユーリ・モリス。改めまして宜しくお願いします」


 お辞儀も出来ないながら自己紹介して、ちょっと満足げなユーリ。それに対してのティアンとグラナトの反応は目を見開くといったものだった。その反応にユーリは首を傾げていると何故かティアンが吹き出して笑いだした。


「ぷっ、くすくすくす」


 ユーリはティアンの反応の意味が分からずにグラナトの方に目を向けると何故か彼もうっすらと笑っていた。


「ごめんなさい。あまりにも可愛らしいから。それと私達の事は呼び捨てで良いわよ」


「はい、ティアン」


「本当に素直で可愛いわ」


 ティアンがユーリの頭を優しく撫でる。それをグラナトはティアンの手を叩き落とした。


「先ずは、縄を解いてやるのが先ではないか?」


 そう言うとグラナトはユーリを抱き起こすと鍵式の手錠と足枷だった筈なのに鍵もなく、あっさりと拘束を解いてしまった。

 一方のティアンはグラナトに手を叩き落とされた自分の手を擦っている。痛そうな表情はしていないので特に強く叩かれてはいないようだ。


「非力な女性に対して、この行いは赦せないな」


「そうよね。暴れられたら危ないからなんでしょうけれどね」


 グラナトは自分で解いた拘束具を握り締めて憤ると拘束具はどろりと彼の手の中で溶解された。大部分は床へと流れて落ちたが、少しグラナトの手に付いてしまっている。それを彼は煩わしげに無造作に振り払う。


「さて、此処を出るぞ」


 先程の怒りの雰囲気は霧散し、ユーリの手を取ると部屋を仕切っている扉へと歩いていく。ティアンは部屋の豪華な装飾を何とはなしに見ていたが、二人が脱出すると聞いて彼女も扉の方へと移動する。


「えっと、別に良いんですけど歩いて帰るんですか?」


「空間を飛ぶ事も出来るのだけれど、今回は貴女を守護している精霊の存在を肌で感じ取ってもらう必要があるのよ。あれだけ言ったのに性懲りもなく、こんな事をする愚図で浅はかな屑に思い知らせないとね」


 花の顔で美しい笑顔に艶やかな唇からは毒を撒き散らすティアンにユーリは彼女を怒らせたら駄目だと感じた。それは長く付き合いのあるグラナトも感じているらしく。


「ティアンを怒らせてはならないと大抵の精霊が知っている。殆ど、怒る事はないが、ユーリもなるべくティアンを怒らせるな」


 それを全力で肯定し、首がもげそうな勢いで頷く。その間もティアンは黒い笑顔で笑っている。彼女の背後に黒い禍禍しい力の波動を感じて、ユーリとグラナトは冷や汗を流した。













諸事情により投稿できなくなってました。

読んでいただきありがとうございます。

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