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養女の件をユーリが快諾した翌日にガンツとナンシーは早速養子縁組した。
これで晴れてユーリとガンツとナンシーは親子となった。ガンツとナンシーはこの機会にとアンリの事も養子にしようとしたが、本人がやんわりと辞退した。
元々、訳ありだと知りながらアンリの事を住まわせていた事もあり、辞退した理由については深く聞かない事にした。
ユーリとガンツとナンシーは親子になったのだと従業員であるベンとヴァオレットに話した。ベンはやっとですか?という顔をし、ヴァオレットは自分の事のように嬉しそうに喜んだ。
白鹿亭をお休みし、ユーリがガンツとナンシーの養女となった事をお祝いする為に細やかなパーティーを開いた。
常連客や賑やかな声に誘われて関係がない人も混じって白鹿亭の食堂は騒がしかった。そんな雰囲気をユーリは楽しそうに見ていたが、アンリがいない事に気付き、居住スペースに行ってみるがいない。
次はどこを探そうかと思案し、いつも世話をしている花が咲き乱れる庭に行ってみた。
するとしゃがみこんで花を見ているアンリを見つけた。
「アンリ?」
「あれ?ユーリ、どうしたんですか?」
声をかけられたアンリは、キョトンとした表情で振り返り、立ち上がると少し離れて立っていたユーリに駆け寄る。
「食堂でアンリがいないなぁと思って、何処かに行っちゃったのかと思って探してたの」
心配したんだよ、と言いながらユーリは柔らかく微笑んだ。その表情を見たアンリは瞠目し、直ぐに同性でも見惚れるような笑顔を作った。
「そうだったんですか。すみません。花に水を遣るのを忘れていたんです」
そう言われ、ユーリはアンリが眺めていた花を見遣るとつい今しがた水遣りしたのか、花や葉っぱに雫が着いていて、日の光を受けてキラキラと輝いている。
「そうだったんだ。でも、せめて一言言ってからにして欲しかったな」
ユーリが手を差し出すとアンリが手を握る。庭に生える芝生を踏みながら歩いていると、
「ユーリ」
「ん?」
「僕、ユーリが好きです」
「ありがとう」
「僕、本当にユーリが好きです。異性としてです。ちゃんと考えてください」
アンリがユーリの手を引っ張って自分の方を向かせる。
ユーリは子供特有の年上の異性に憧れを抱くと言う感情かと思い、対して取り合わなかったが、アンリ自身は本気だと言う。
ユーリに向けられたアンリの感情を好ましく思った。男性が苦手なユーリは相手から好意を示されると嫌悪感を抱くのだが、始めからアンリには嫌悪感も無く、すんなりと受け入れられた。そして、好意を示された筈なのにそれでも悪感情を抱かなった。
きっと彼がまだ幼いからこそなのだろうと結論付けたユーリはしゃがみ、アンリと目線を合わせる。
「じゃあ、アンリが大人になったらお嫁さんにしてくれる?」
ユーリが拒否するのでは無いかと泣きそうな表情をしていたが、ユーリから前向きな返答が返ってきたのでアンリは頬を染めて花が綻ぶような笑顔になった。
「はい!きっとですよ」
アンリは嬉しそうに笑い、小指を差し出した。地球の指切りを知っている筈はないので、此方にも同じような習慣があるんだなと感慨深かった。
「ふふふ」
頬を赤られて笑うアンリは、誰もが見惚れる程に美しかった。風に靡く柔らかな銀の髪や様々に色を変えるアイオライトの瞳は繊細で柔和なアンリは芸術品のようだ。
街でアンリの事を聞き付けた画家や彫刻家などがアンリをモデルにしたいと押し掛けた事がある程だ。アンリはこれを素気無く断っていたが。
この美貌の少年は何故か異常にユーリに懐いている。懐かれているユーリもそんなアンリを大変可愛がっている。そんな少年が自分の事を好きだと言われて、ただ一時の感情だろうと思いながらも嬉しくないわけがなかった。
ユーリはここまで慕ってくれているアンリが時と共にこの約束を忘れてしまう事に少しの寂寥感を感じた。
「今日はもう寝ようかな」
ポツリと呟いたユーリの言葉にアンリも同意した。まだ食堂では皆が騒いでいるが、ユーリはアンリを伴ってガンツとナンシーに先に寝る旨を伝え、居住スペースへと引き返した。
さっとお風呂に入り、着替えを済ますとベッドの中へアンリを入れ、ユーリも自分のベッドへと入った。
目を閉じて、明日も忙しくなるだろうと思いながら食堂でドンチャン騒ぎをしている彼等が明日は二日酔いになっていなければ良いけれどと案じていた。するとベッドが軋んだ。驚いて目を開けると寝衣を纏ったアンリと視線が合った。
「アンリ?」
「すみません。久々にユーリと寝たくなりました」
頬を染めて照れたような気不味そうな表情のアンリはそれだけ言うと俯いてしまった。
アンリはいつも柔らかな笑顔を絶やさない。絶やさないが、ある特定の条件の元だとその笑顔を崩す。ただ、もしかしたらその笑顔の下に色々な悩みや鬱屈とした感情を隠しているのかもしれない。そう感じたユーリは自分の寝具を捲り、入ってくるようにと促した。
するとアンリは嬉しそうに笑い、早速ユーリの寝具の中へと入るとユーリに抱き付いた。
「!」
まさかアンリが抱き付いて来るとは思っていなかったユーリは驚いて身体を揺らした。
「ユーリは良い匂いがします」
「え?どんな?」
「桃みたいな甘い匂いで…す」
アンリは抱き付いたまま、頬をユーリに擦り付けるとそのまま健やかな寝息をたて始めた。ユーリはどうしようかと迷っていたが、アンリの高めの体温を感じるうちに目蓋が重くなってきた。
アンリから香る花の匂いを嗅ぎながら抱き締めて深い眠りへと落ちていった。
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