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平民街の道を豪華な馬車が通るのを街の人々は呆気に取られながら見ていた。
好奇な視線で見られるのが嫌でカーテンを締め切ったユーリをアーサーは恥ずかしがっているのだと勘違いしたままに暖かい目で見ている。それをアンリは凍えきった視線で射抜くが、当の本人には届かなかった。
その空気は馬車が止まり、扉が開くまで続いた。一番最初に外に出てきたのは、王太子だった。馬車を護るように立っていた衛兵は、王太子の晴れやかな笑顔を見て、心の中で首を傾げていた。こんな笑顔全開の王太子を城の人々は見た事がなかったからだ。
続いて出てきたのはアンリだ。不機嫌そうな表情で馬車を降りているが、たまたま通り掛かった貴族の令嬢や城の下働きの少女達はアンリの見事な銀の髪に人形のように整った完璧な容姿に見惚れ、立ち止まる。
最後に出てきたユーリは憔悴したように暗い表情で馬車の外へと出ると新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込んだ。
馬車から降りようとすると手を差し出して、降りるのを手伝おうとしたアーサーを押し退けてアンリが手を出して支える。
小さなアンリに押し退けられて愕然としたような表情をしたアーサーは悔し紛れに自分よりも年下のアンリを睨み付けた。
アンリにユーリはニッコリと笑い、お礼を言った。すると、途端にアンリの機嫌が回復し、花が綻ぶような笑顔を見せた。その笑顔を見た令嬢達はざわめく。
アーサーはそんな二人の様子を不機嫌そうに眉を顰め、口を尖らせている。端から見るとアーサーの表情は子供の駄々なのだが、本人は無意識だ。
衛兵に連れられて王城内へと入った。天井や壁、床の全てが白く、所謂白亜の城だ。
そして金で装飾され、床には真っ赤なカーペットが敷かれている。何処までも続く廊下を歩く。何度も角を折れるが、一向に目的地まで着かない。
ユーリは隣を歩くアンリの様子を伺うと少し元気が無いように見えた。
「アンリ、大丈夫?まだ歩ける?」
「歩け…」
――ます、と答えようとしてアーサーが様子を伺っているのに気付き、アンリは少し考えると、
「…けません。ユーリ、僕疲れました」
潤んだ瞳でユーリを見上げ、腕を持ち上げて、抱っこを強請る。それを見たユーリはいつもはこんな甘えた行動をしないのに始めてくる場所で緊張してるのかな?と思いながらも常にない甘えん坊になったアンリが年相応で可愛く見え、嬉しそうに抱き上げる。するとアンリはユーリの首に腕を絡めて、甘えるようにユーリと自分の頬をくっ付ける。
「アンリは甘えん坊ね」
「はい」
クスクスと可愛らしく笑うユーリとくっ付けて幸せそうに微笑むアンリを歯軋りしながらアーサーは見ていた。アーサーはこの時、ユーリの隣は私のものだ、お前はユーリと私の仲を邪魔するのか、ユーリの笑顔は私だけのモノだ、と既にユーリと自分が結ばれる前提での思考がアーサーの中でぐるぐると巡る。
それから暫く廊下を歩き、豪華な両扉の前まで来た。他の扉よりも豪華絢爛に作られたそれは細部まで精緻な紋様が刻まれ、ドアノブさえも芸術品のように美しい造りをしていた。扉の両側には衛兵が立ち、アーサー達が到着した事を室内へと伝えた。
控えていた衛兵が扉を開くと多くの王候貴族が謁見の間に詰め掛けていた。
アーサーはそんな大勢の視線にも物怖じせずにずんずんと進んでいく。ユーリは流石に抱き上げていたアンリを下ろし、歩ける?と視線で問うと大丈夫だという意思表示に頷いてみせた。アンリと手を繋ぐと謁見の間の奥で待つ王の前まで歩く。
両側に犇めく貴族達の視線は様々だ。下卑た視線から憎々しげなものまで悪意ある視線を向けられて、ユーリは居た堪れなくなる。不安でいっぱいのユーリの手は暖かな小さな手がぎゅっと握り返される。それを心強く感じ、下がっていた目線を上向けた。それをアンリは満足そうに見ていた。
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