豪快!男の料理?の話。2
豪快!男の料理?の話。2
迷走を始めそうな、何が豪快なのかよくわからなくなりそうなこの副題。今回は、祖父が作ってくれたお味噌汁の話です。
ある日の夕食。懐かしむように両親はあるお味噌汁の話をしたのです。
「じいちゃんが川蟹で作った味噌汁は本当に旨い。身の少ない蟹だけど蟹の出汁が凄かった。また飲みたいが最近は手に入らないんだよなあ」
ご飯を食べているというのにその話を聞いただけで食欲が増すという恐ろしい体験をしました。
休みの日、私は祖父と母を連れてドライブに出かけました。
目的地は祖父の故郷の近くにある、川の側のドライブインです。
そのドライブインで、話に聞いた川蟹が売られていました。期待のこもった母と私の『作ってじいちゃん』攻撃に負けた祖父はそれを買い、「帰るぞ」と車に乗り込みました。否やはありません。私たちはさっさと家路についたのです。
家には弟がいました。
祖父は有無を言わさず弟に生きた蟹をゴシゴシと束子で洗わせます。
祖父は蟹を殻ごと砕けるような料理道具はないかと母に言いました。流石に無いので私と母は家電量販店に行き、店員さんイチオシのフードプロセッサーを買い込みました。
帰ると弟が祖父の指導の元、蟹をザクザク切り刻んでいました。
買ってきたばかりの家電を洗い準備を整えると、切った蟹を入れスイッチを入れます。
ゴリッガリリッと、してはならないような音を響かせ、蟹は細かくなっていきます。
私は不思議に思ったことを聞きました。何故こんなに砕くのか、と。
「そのまま煮ても食べる所が少ない。割って食べられない部分を取り除いたら全て砕き、煮る。殻を濾したら、後は味噌汁にする。川蟹の汁は具なしだ」
……後に祖父はかなり細かく砕かれた蟹を見て「やり過ぎた」とボソッと呟きました。
大変なのは弟でした。蟹は固いし疲れるし。蟹を多く買ってきたのが仇になりました。祖父と交代しながら蟹を切り砕いているのを見て、ああ、これは女には無理だと確信しました。だから『じいちゃんのお味噌汁』と両親が呼ぶのだと気が付きました。
祖父と弟は力を合わせ殻を濾し、最後に祖父が味付けをしました。
出来上がった味噌汁を飲み、ため息が零れました。何も具はないというのに蟹の全てが出汁になり、とても美味しいのです。なるほど両親がしみじみ話す訳です。
ぐったりした弟にも感謝しつつ、我が家族は大量に作られたお味噌汁を堪能したのです。
祖父のこのお味噌汁はこの一回限りでした。ある意味体力勝負な上、一人では絶対作りたくはありません。祖父もそうであるらしく、それ以来作ってはくれませんでした。生きた蟹を触れない時点で私には無理です。
おまけ。
親戚から川蟹を貰いました。
嫁ぎ先のお義母さんが作ってくれたお味噌汁は蟹が丸々そのまま入っていました。どんな形であれ、この蟹のお味噌汁はやっぱり美味しいのです。私は久しぶりに堪能しました。
そして私は確信しました。
あの特殊な『じいちゃんのお味噌汁』は祖父のオリジナルだったのだ、と。