甘い?の話。
甘い?の話。
「はい、あーん」
「ふふっ。君に食べさせて貰えるなんて嬉しいね」
などという甘い会話は若い恋人たちの特権であります。周りが見えていない彼らの世界を邪魔する者は、馬に蹴られる定めなのです。
さて我が旦那様はというと、付き合っていた当時から硬派な人でした。まあ、それは今もたいして変わらないのです。
私もまた、どちらかといえば恋する乙女とやらからは程遠く、一歩下がって自分たちを観察できる位には冷静さを持っていました。
故に、甘い恋人たちのようにはする気も無かったのです。恐らくお互いに。
だというのに、なんということでしょうか。
今、目の前に旦那様がたこ焼きを差し出しています。
周りの人の視線が痛い中、私は、恥ずかしさのあまりどうしたらいいのだろうと固まりました。
「わ、私は後でいいから、先に食べて」
「……」
無言で差し出されたままのたこ焼きを凝視し、隣のオバサマの視線を感じ、ちらと旦那様を見ます。
無表情でした。
『箸がこれしかない。食え』
という、無言の圧力を感じます。
『いいからさっさと食え』
何となく、心の声が聞こえてくるようでした。
旦那様の態度は甘いものでは無く、寧ろ合理的な思考のもとに成される行為のようです。
つまり、自分一人で食べるつもりはないが箸はこれしかない。自分が持っている以上、こうするのが早いだろう。だから、食わせる。
そんな旦那様の思考を読み取った私は、顔を真っ赤にしつつ食べさせて貰ったのです。
『し、仕方ねえよな。俺だって恥ずかしいけど仕様がないから食わせてやるぜ』
と照れた雰囲気を醸してくれればまだしも、こういう突拍子も無いことを真顔でやってのけるのはどうなんだろうかと思います。
内面を見れば程遠いことなれど、端から見れば頭にお花が咲き乱れる二人。
走って逃亡したい、と思いました。
食べ終えた時、す、とまた1つ、目の前にたこ焼きが現れました。私はこんな恥ずかしいことは早く済ませようと、さっさと食べることにしたのです。




