↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
1/5

第一話 婚約破棄は突然に

 

 第一話 婚約破棄は突然に


「レティシア・フォン・ローゼンベルク! 私は今日をもってお前との婚約を破棄する!」


 王立学園卒業記念パーティーの会場に響き渡った王太子エドワードの声に、貴族達は一斉に息を呑んだ。


 誰もが視線を向ける中心で、侯爵令嬢レティシアはグラスを傾けながら静かに瞬きをした。


 ついに来たか。


 率直な感想はそれだけだった。


 驚きも悲しみもない。


 むしろ少しだけ嬉しい。


 彼女は十歳の頃に前世の記憶を思い出していた。


 日本という国で働く普通の会社員。


 忙しくも平穏な人生だった。


 その記憶を取り戻して以来、彼女は思っていた。


 王宮生活、面倒くさい。


 社交界、面倒くさい。


 王太子妃教育、もっと面倒くさい。


 婚約者であるエドワードの機嫌取りなど最たるものだった。


「お前は聖女ミレーユを虐げてきた!」


 隣に立つ少女を抱き寄せながら叫ぶエドワード。


 白銀の髪を持つ可憐な少女。


 最近になって突然現れた聖女ミレーユである。


 会場がざわめく。


 しかしレティシアは平然としていた。


「証拠はありますか?」


「なっ!」


 静かな一言だった。


 エドワードの顔が歪む。


 ミレーユが慌てて口を開いた。


「わ、私はレティシア様を恨んでなど……」


「そうですか」


「え?」


「それなら解決ですね」


「ち、違っ……!」


 会話が成立しない。


 正確にはレティシアに争う気が無い。


 するとエドワードが大声で怒鳴った。


「婚約破棄だ!」


「はい」


「さらに辺境へ追放する!」


「ありがとうございます」


「だから何で嬉しそうなんだ!?」


 会場が静まり返った。


 レティシアは本気で嬉しかった。


 辺境。


 素晴らしい響きだ。


 社交界がない。


 夜会がない。


 面倒な貴族もいない。


 最高ではないか。


「私、畑をやってみたかったんです」


「畑?」


「野菜好きなので」


 エドワードは人生で初めて言葉を失った。


 悪役令嬢が追放を喜ぶなど聞いたことがない。


 こうしてレティシアは辺境送りとなった。


 そして二週間後。


 南部辺境ローゼリアへ到着する。


 豊かな自然。


 澄んだ空気。


 穏やかな人々。


 レティシアは初日から幸せだった。


 朝は畑を見て回り、昼は薬草を摘み、夜は読書をする。


 理想の生活である。


「王都より百倍幸せですわ」


 本気だった。


 しかし運命は思わぬ方向へ転がる。


 ある日。


 薬草採取のため森へ入ったレティシアは魔物の咆哮を聞いた。


 慌てて駆け付ける。


 するとそこには十体近い魔物に囲まれた一人の青年がいた。


 黒髪。


 端正な顔立ち。


 漆黒の軍服。


 その姿を見た瞬間、彼女は息を呑む。


 北方大公。


 アレクシス・ヴァレンシュタイン。


 冷酷公爵。


 戦場の鬼神。


 数々の異名を持つ大貴族だった。


 だが現在は重傷らしい。


 剣を支えにして立っている。


 レティシアは反射的に叫んだ。


「危ない!」


 石を拾って投げる。


 魔物達が振り向く。


「何をしている!」


 アレクシスが怒鳴る。


「助けます!」


「君が死ぬ!」


「死にません!」


 根拠はない。


 だが放っておけなかった。


 そして。


 次の瞬間。


 足元の地面が崩れた。


「え?」


 レティシアが落ちる。


 魔物も落ちる。


 アレクシスも巻き込まれる。


 全員まとめて谷底へ転落した。


 盛大な悲鳴が森に響く。


 数分後。


 レティシアは恐る恐る目を開いた。


 生きている。


 どうやら助かったらしい。


 ほっとして下を見る。


 硬い感触。


 自分の下敷きになっている人物。


 アレクシスだった。


「……」


「……」


 気まずい沈黙。


 しばらくして。


 冷酷公爵として知られる男は真顔で口を開いた。


「結婚を前提にお付き合いしていただきたい」


 レティシアは瞬きを繰り返した。


 たぶん落下の衝撃で。


 この人の頭もどこかにぶつかったのだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。