悪役令嬢、魔王に求婚される
魔王デクリファスとヴァレンチーノ2世との会見直後、「グルドグラハム砦壊滅」という報が王都を駆け巡った。それはのちに、逃げ帰ってきた司令官による誤報だと判明するのだが、その報告が決定打となった。
ヴァレンチーノ2世は退位、クリストファー皇太子は廃嫡となった。
コーデリウス男爵は爵位、財産没収。今はどこで何をしているかはよくわからない。
それから2か月、ようやく次期王はヴァレンチーノ2世の叔父の息子、ロレンス3世と決まった。
「さて、ようやく折衝も終わった。貴殿の尽力に感謝する」
王都の城の一角からデクリファスとエリシアの二人は町並みを見下ろしながら話をしていた。
「しかし、貴殿の父親のハルデンブルク伯爵は政治の中枢に入りたがっていたようだが、本当に口を利かなくてよかったのか?」
「はい。父は良き人ですが政治の世界には向きません。変な気苦労をしょい込んで命を削ってほしくはありませんもの」
「貴殿は身内にも手厳しいな」
「いえいえ、孝行娘とおっしゃってくださいまし。ふふふふふ」
「なるほど、孝行娘か。ははははは。
……、ところでこれから貴殿はどうするつもりなのだ?」
「わたくしですか? 勿論、魔族領へ追放されますわ」
「お、おお、そうだった。貴殿は魔族領へ追放だったな。今からその追放を取り消してもらわねばならないな」
「なにをおっしゃるのですが! 魔王様もわたくしの夢を奪おうというのですか?」
「夢、夢とはどういうことだ?」
「あら、お話していませんでしたっけ? わたくし、魔族領で現地調査することが夢ですのよ。追放ですごく喜んでいましたのに、今度の騒動でそれを2か月もお預けにされてしまってすごく悲しんでいたのです」
「そ、そうなのか。魔族領へ来るのか」
「はい。その節はよろしくお願いいたします」
「勿論だ! 勿論だとも。だ、だが、魔族領は危険だぞ。貴殿ほどの知略と胆力があればめったなことはないと思うが、それでも魔族領は広い、危険な輩や無法な輩も多い」
「はい。存じております。でも今は、それも含めてわたくし、ワクワクしているのです」
「さ、さようか。なるほどな。うむ。良き心がけだ……
……
そ、そうだ。だが拠点はどうするつもりだ?」
「拠点……ですか?」
魔王の指摘に、エリシアはきょとんとした顔になった。
「うむ、拠点だ。衣食住を確保しなければ、充実した調査、研究ができないのではないか?」
「……そう言われますとそうですわねぇ。
あら、困りましたわ。しばらくは拠点を構築することから始めないといけませんかしら。
ああ、また研究が遅れますわぁ」
「だ、だったら、我が居城へ来ないか?」
「魔王様のお城ですか? いえ、それはいくら何でもご迷惑でしょう」
魔王はぐっとエリシアの方へ体を乗り出す。
「いや、いや、そんなことはないぞ。
貴殿は此度の始末の最大の功労者だ。
城の一角、いや、いやすべてを自由にしても構わない。ぜひそうすべきだ」
「え、……そうおっしゃっていただけるのなら、そうですね。お言葉に甘えましょうか」
「うむ、そうしろ。そうしろ。
……それでだな。
もし貴殿が良ければの話なのだが、我の正妃になってはもらえないか?」
その二人のやり取りを四天王たちが固唾をのんで見守っていた。デクリファスの一言に
「魔王様が求婚されたぞ」と、ギュルタイコスが息をのんだ。
「うむ、求婚されたな」とドラギリアスが同意し。
タイタロスは無言で涙ぐみ。
サクラントスは「さすがお姉さま」とぐっとこぶしを握った。
一方、エリシアは無言でデクリファスを見上げる。デクリファスもエリシアから視線を逸らさない。
永遠とも思える時間が過ぎたのち、エリシアが口を開いた。
「うーん、お言葉は光栄ですけど、今は、結婚とか殿方のことは考えたくありませんわ。
申し訳ありません。でも、お城は使わせていただけますととても助かります」
「あ、あ、そうか。そうか。
うむ、居城は好きに使え。魔王に二言はない。うわはははは」
「おおう、魔王様、振られたぞ」、とギュルタイコス。
「うむ。完全に振られたな」、とドラギリアス。
タイタロスは無言で大粒の涙を流し。
サクラントスは「いいえ、まだチャンスはあります。魔王様、ファイトです!」とさらに固くこぶしを握るのだった。
その後、エリシアは魔族領で復活した魔狂龍ドラグマグナスをデクリファスと協力して討伐したり、人間領に現れた勘違い勇者をきっちりわからせお仕置きするなど、波乱を巻き起こした後、ようやくデクリファスと結婚することになるのだが、それはまた別のお話である。




