悪役令嬢、婚約破棄される
王家主催の魔法学園卒業パーティーの場は重苦しい沈黙に包まれていた。
玉座の前に引き立てられた1人の少女。
黒髪は漆のような艷やかな光を放ち、白き肌は白磁を思わせるほど一点の染みもない。紫水晶色のドレスを纏い、貴族の子息令嬢たちの視線を一身に浴びる。
ハルデンブルク伯爵家の令嬢、名をエリシアと言う。
相対するのは皇太子、クリストファー殿下。エリシアの婚約者である。
クリストファーはゆっくりと立ち上がり、冷たい声で言い放った。
「エリシア・フォン・ハルデンブルク。
貴殿の罪はもはや見逃せぬ。
学園での不穏な行動により、我が婚約者としてふさわしくないと判断した。
よって、貴殿との婚約を破棄する!」
皇太子殿下の言葉に、周囲の取り巻きがうんうんと頷いた。
エリシアは首を少し傾げ、眉根をひそめる。
「お言葉ですが、殿下。学園での不穏な行動とは解せません。
わたくし、そのようなことをした覚えはございません」
「なっ?! この期に及んでそんな白々しい嘘をよくもつくことができるな。厚顔無恥とはこのことだ。
ならば、動かぬ証拠を突き付けてやろう。フェルミア令嬢、ここへ!」
殿下の呼びかけに一人の女性が現れ、殿下の横へ立ち並んだ。
フェルミア・コーデリウス男爵令嬢。
コーデリウスは最近貴族に取り立てられた元は商人の家柄であった。その美貌で学園の人気が急上昇。エリシアを差し置き、殿下へ急接近しているともっぱらの噂の女性であった。
「さあ。フェルミア、君がこの女にされたことを包み隠さず話してくれたまえ。何も恐れることはない」
「はい。エリシア様は、私がこの学園に入学したばかりのころ、学園を案内してくださったのですが、その時、あそこには首なし騎士がでるとか、屋上の彫像の中には本当の悪魔がいて、夜になると空を徘徊するとか、井戸には女の幽霊がいるとか、それはもう怖い話ばかりをされて、私死んでしまうかと思ったのです」
フェルミアはその時のことを思い出したのか、目には涙があふれ、ぶるぶると体を震わせ始めた。
それを見た子息令嬢たちはくちぐちに「ひどい」とか「お可哀そうに」と囁きあった。
「それだけではないぞ。生徒会からも、貴殿が呪いのアイテムを持って、他の生徒を追いかけまわしたと報告を受けている」
「はて、そのようなことをした覚えはわたくしとんと……」
「ええい、黙れ!
まだ、そんな言い逃れが通ると思っているのか。証拠はそろっている、その罪は明白!
もう婚約破棄では生ぬるい。王家の名を持って、貴様のような邪悪な存在は魔族領への追放とする!!」
「ま、魔族領へ追放!!」
魔族領への追放と聞き、それまで冷静であった、エリシアの顔がみるみる赤くなり、ぶるぶると肩を震わせ始めた。
「ふふふ、さすがの貴様も、魔族領への追放は恐ろしかろう。だが、もう裁は下れた、もはや変えることはできぬぞ。まあ、伯爵家がその領地を王家に差し出し詫びるならば、考えなくもないがな。
わはははは。さあ、下がれ、お前の顔などもう一秒とも見たくはないわ!」




