お弁当
俺は走っている足を止め、振り返った。
さあ、俺を殺せ…
怪物は躊躇無く、俺に殴りかかって来た。
しかしその瞬間、俺の頭に一つの雑念が浮かんでしまった。
(俺がここで死んだら、光介は無駄死にしたことになるんじゃないだろうか…)
こんなこと浮かばなければ良かったのに。一度浮かんでしまえば、もう後戻りができなくなってしまうじゃないか。
俺は急いで体勢を変え、怪物のパンチを避けようとした。
「やっぱり俺は生きる! 光介の分まで!!」
だが、
「く! 、もう遅いか…」
完全によけ切ることは出来ず、俺は怪物に殴られ近くの家の塀に体を打ち付けられた。
「すまん、光介…」
なんだか意識がぼんやりしてきた。
怪物はどんどん近づいて来ている。この程度で死ぬはずはないが、ここで意識を失えば怪物の思うがままに殺されてしまう。
なんとか意識を保つんだ…
すると突然、謎の光り輝く玉が現れ怪物を5、6メートル吹き飛ばした。そしてその光の玉は俺の体にまとわりついた。
気がつくと俺は、黄色い鎧のようなものを体全体に装着し、鋭くて長い金色の剣を握りしめていた。
「なんだ、これ…」
不思議と意識が回復した俺は、この鎧からものすごく暖かい何かを感じた。別に力が湧いてくるわけではない。ただ、暖かいのだ。体ではなく心が。
今なら怪物を倒せる気がしてきた。
俺は先程吹き飛ばされてよろめいている怪物の方へ、一歩一歩進んでいく。その度に何故か、涙が溢れ出てくる。
「くらえ。」
目の前まで来た俺は、怪物に軽く剣を一振り。
怪物は無惨に散っていった。倒した実感が湧かないほど、簡単に散っていった。
「やった…」
一人で感極まっていると、身につけていた光の鎧は光の玉に戻りどこかへ飛んでいった。
「今の鎧は、一体…」
まぁでも、考えて分かるようなものでは絶対にないので、取り敢えず帰ることにした。
気づくと俺は、この道を普通に歩くことが出来るようになっていた。
***
【次の日】
俺は今、昨日何事も無かったかのように普通に学校にいる。もちろん昨日のことは誰にも話してなどいない。
「ありがとうございましたー」
今丁度、かったるい挨拶と共に四時限目の体育の授業が終わった。
校庭から生徒がゾロゾロと教室へ戻って行く。
「無理だ…私にあれは出来ない…」
結構後ろから、そんな元気のない声が聞こえてきた。どうやらミナの声だ。おそらく先程のハードル走について話しているのだろう。
彼女の友人が答える。
「あんなの出来なくったって良いんだって!」
「いや、女子トップの人にそれ言われても〜」
「…頑張れ!」
「それしか言うことない~!? あーだめだ私…」
そうか。ミナは運動が苦手なのか。
今もだが俺はずっと何にも興味を持たず生きてきているので、今初めて知った。
本当はミナもあまり知られてほしくないことだろうが、こんなに仲良くしてもらってる人のこんなことを9月末まで気づけなかった。何だか申し訳ない気持ちになった…
***
俺は今、体育館の裏にいる。昼休みになった瞬間に、ミナに連れて来られた。
彼女は現在、先程の体育のことなんかすっかり忘れているような様子だ。
ミナは可愛らしい柄の巾着から弁当箱を二つ取り出し、
「はい! こっち霜太の分ね。」
と言って片方を俺に差し出してきた。
「ありがとう。約束通り全部食べるよ。」
「絶対だからね!」
何だか彼女はものすごくソワソワしながらこちらを見つめてきている。
そんなミナを前に俺は、落ち着いた色の四角い弁当箱をゆっくりと開けた。
「す、すごいなミナ! めっちゃ美味そう!」
そこには俺が今までの人生で一度も見たことがない、カラフルな景色が広がっていた。
内容としては、おにぎりや唐揚げ、野菜、卵焼きなどこれと言って特に変わったものは入っていないのだ。
しかし、おにぎりの具材に至るまで弁当全体の色合いがものすごく綺麗で、食べる前から「これは美味い」と断言出来る程の出来であった。
食べ物の美味さに見た目はかなりの影響を与えると聞いたことがあるが、俺は今まさにそれを実感している。
と、人生で初めて弁当に感動していると、ミナが不安そうに言ってきた。
「霜太、感動してくれてるのは伝わってるんだけど、早く食べてくれないかな…。」
「え?」
「味を言ってくれるまで安心できなくて…」
「あ、すまんミナ。じゃあ、頂きます。」
正直もう少しこの美しい弁当を見ていたい気持ちもあったが、俺はミナが持ってきてくれた箸を使い、取り敢えず一口食べてみた。
その瞬間、俺の中で衝撃が走った。
何だろう。この弁当らしいのに弁当らしくない美味さは。
時間が経つので冷めてしまうのが弁当の運命であり、そして最大の弱点であるはずなのにその弱点をむしろ長所に…
さっきの俺はバカだ! 何が「美味さに見た目はかなりの影響を与える」だ!! これはもうそんなの関係なく本当に美味しくてそして…
「ちょっと霜太! いちいち感動しすぎ!!」
「ああ、すいません…。」
「で、味は…?」
俺は心の底から答えた。
『最高です。」
するとミナは満足げに
「良かった。また作ってきてあげるねっ!」
と、ニッコリ微笑んだ。
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