第4話
きっかけはニコラスからの提案であった。
「魔王軍への慰問?」
「はい。魔女様がいらっしゃれば士気が上がります」
「魔王軍なんてあるんだね」
「ございますよ。サーズ国とは開戦していないけれども、不穏な空気。周辺国とは友好的ではない緊張関係ですから」
「・・・お友達いないんだね」
そんな会話を繰り広げたミノリがカミラをお供に訪れたのは、城から少し離れた所にある魔王軍の訓練所であった。
「私が行っても良いのかな」
「大丈夫ですよ。皆さま感動されるのではないでしょうか」
「いらっしゃいませ魔女様。ニコラス様からお話は伺っています」
ミノリ達を迎えたのは2メートルはある巨漢であった。
「は、初めまして。ミノリです」
「ご丁寧にありがとうございます。私は四将軍の一人、アキレウスです。この度は、訓練をご覧になるとのこと。皆の士気も上がります」
「はあ・・・私が見学するだけで良いのでしょうか」
「もちろんです・・・訓練に参加されますかな?」
「いえいえ!!無理です」
魔女が強いと思われてたらどうしよう。訓練に参加とか本当に無理なんですけど!などとミノリが思っていると、3人の魔族がこちらへと近寄ってきた。
「魔女様、ご紹介します。こちらの女魔族がレミア。魔法に特化しています。レミアの隣ががルシア。レミアの双子の弟です。最後に、この若いのがゲオルグです」
「よ、よろしくお願いします!!」
「「よろしく魔女様」」
「・・・よろしく」
(あれ・・・?)
レミアとルシアの2人と違って、ゲオルグは明らかに不服という顔をしていた。その様子に気づかないアキレウスでは無かった。
「ゲオルグ!!貴様はまだ不服なのか。魔王様がお認めになっているのだぞ」
「だが、アキレウス。ただの人間の小娘ではないか」
「なんと失礼なことを・・・!!」
「あーいや、ゲオルグさんのおっしゃるとおり、ただの人間の小娘ですから・・・」
その言葉に、何故かますます不機嫌になるゲオルグ。
「小娘。俺と勝負しろ!!勝ったら魔女様として認めてやるよ」
「・・・別に認めて貰わなくても良いんだけど」
「あぁ!?」
「いえ。でも、私、戦うなんてできないですよ」
「魔女のくせに戦えもしないのか」
「う~ん。戦えないというか暴力反対?」
「・・・これだから人間は。どの武器を使っても良い。俺に一発入れられたら認めてやるよ。俺は素手だ」
「いや、武器とかちょっと」
「・・・舐められたもんだな。武器はいらないってか。・・・そういや、聖女はお前の姉なんだってな。魔女がこの程度じゃ、聖女もたかが知れる。魔国は安泰だぜ」
「・・・反則とか無しですよね?」
「そんな、みみっちい事は言わねえ」
「では、受けて立ちます」
「ミノリ様!?」「魔女様!?」
「カミラちゃん。アキレウスさん止めないでください。私の事は良いけど、お姉ちゃんのことを馬鹿にされるのは我慢ならないんです」
「いやミノリ様。聖女に力が無いのは魔族として喜ばしい事ですぞ」
「そうなんですけど、とりあえず、この勝負受けて立ちます!!」
訓練場の真ん中へと移動するミノリとゲオルグ。
「いつでも良いぜ」
「では遠慮なく」
ミノリは管狐を呼び出した。
「なんだ、そいつらは」
「この子たちは管狐。私の力の一部です。反則は無いんですよね」
「男に二言は無ぇ。かかってこい」
「いわれなくとも、みんな『狐火』!!」
アリ・ヲリ・ハベリが火の玉となって、三方からゲオルグを襲った。
「何!?」
予想していなかった攻撃に、ゲオルグは体勢を崩した。その瞬間
「やあ!!」
ゲオルグに接近していたミノリはゲオルグの腕を取って思いっきり投げた。いわゆる一本背負いであった。背中から落ちたゲオルグは目を白黒させていた。ミノリはゲオルグに近寄っていき、頬を叩いた。
「・・・これで一発になりますか」
予想していなかった展開に訓練場が沸いた。アキレウスが大股でミノリたちに近づいてきて言った。
「いや、魔女様。お見事でした。見た事のない技でしたな」
「えへへ。柔道って言うんです。昔、習っていたので体が覚えてました」
「いや見事見事。おいゲオルグ。何を呆けている」
「っく」
「貴様が言ったな、魔女様として認めると」
「・・・ああ。認めるよ。人間のくせに使い魔が居て、魔法まで使える・・・魔女として認める!!」
「いやいや、この子たちは使い魔じゃないし、魔法でもないし・・・ってか、何で勝負しちゃったんだろ。お姉ちゃんの事となるといつもこうだ」
「あぁ!?勝ったくせに喚くんじゃねえぇ!!」
「す、すみません!!」
「ゲオルグ。魔女様に失礼だぞ」
こうして、ミノリは魔王軍の中でも魔法ではない不思議な力を操る魔女として有名になった。
これも、魔王の思惑だったのかもしれない。
(・・・なんか、少年漫画みたいなことしちゃったな)