その10-3 ふんわり桃色ディフェンサー
フルクスは、スノーフィの能力を深くまで知らない。
しかしそれは当たり前。
基本的に『魔法道具』の性能は隠蔽するものだからだ。
それでも『魔法道具』を使っていれば、自然とその能力が何なのかは想像されてしまう。
だから、ある程度までは割り切っている。
それに、多少能力の正体がバレたところで困る人物は『政府』には居ない。
能力の正体が割れてしまったのなら、それを逆手に取って新たな『魔法道具』に切り替えるなり、現在の『魔法道具』を改造してしまえば良いし、単純に弱点を克服してやれば良い。
破られたのなら、もっと強固なものを作れば良いだけだ。
強固なものを作られたのなら、それを破る方法を考える。
能力とはそうやって高めるものだ。
高め合うものだ。
だが当然、他人の能力を見破るのは容易くない。
フルクスは、スノーフィが使う能力の全貌を知らない。
それでも、彼女の能力は何度か目にしているので、ある程度は分かっている。
スノーフィ。
『凍った炎』の名を持つ彼女。
手に持った燭台は、当然のことながら『魔法道具』だ。
絶対に揺らがない三つの炎を灯す燭台、『不完全燃焼之蝋燭台』。
その火が灯されている限り、彼女への攻撃は通らない。
見えない壁。
ほぼ不意打ちの攻撃ですら完璧に弾かれるその能力。
魔法が発動した様子を見受けられないことから、それは自動で発動する能力……もしくは、常に発動している能力なのだろうと推測できる。
防御特化。
確かにそれは強力な能力だ。
驚異的な、『魔法道具』だ。
ならば。
「……ふむ」
と、フルクスは瞳を細め、鎌を引いて下がる。
スノーフィと距離を置く。
「……あら……どうしたの……? ……私をボコボコにするんじゃなかったのかしら……?」
「あー、あー、あー? 確かにそれはやってやりたいが……しかし、ワシの目的は、お前の足止めにある」
つまり、相手が防御特化でしかないのなら、こちらから攻撃を仕掛ける必要がない。
打ち倒す必要がないのだ。
ボコボコにする必要があるのは――むしろ、スノーフィの方。
「お前こそ、ワシを潰すんじゃなかったのか? メリーゼを引き渡して欲しいのなら、ワシを潰さんとイカンぞ?」
フルクスは舌を出して中指を立てる。
防御に特化した能力なら、攻めるのは得意ではないはず。
ならば、そこが弱点になり得る。
攻撃してきたときに、なにか隙が出来るかもしれない。
ほころびが見えるかもしれない。
「……ンフフ……」
挑発するフルクスに対し、スノーフィはそんな風に口を歪めた。
フルクスが浮かべる邪悪な笑みとはまた違う、暗黒に満ちた不気味な笑顔。
長く伸びた桃色の前髪から覗く、薄っすらとしたジト目。
「……ねぇ……フルクス………貴方が使う『魔法道具』は……どちらかと言えば攻撃タイプよね……」
「あぁ? そうかもしれんな」
唐突に何を言い出すのだろう、とフルクスは訝しげにそう答える。
フルクスの血液操作は、攻撃に特化したものでもないが、それでもそのほとんどは戦闘にリソースを割いている。
そしてそれは、スノーフィも分かっているのだろう。
「……だから……防御にはあまり……自信が無いんじゃないかしら……?」
「…………」
何が言いたいのだろうか。
フルクスは少しだけ警戒度を上げる。
「……それでも……攻撃は最大の防御とか……言うわよね……。……攻める側は守る側よりも有利……とか……そういうことなのだけれど……」
ゆらり、とスノーフィは顔を傾ける。
ふわりとした桃色の髪が揺れる。
「……でもそれって……私に言わせれば……逆もあると思うのよね……。……つまり……」
不敵に唇をつり上げ、スノーフィは両手で持った燭台を、ゆっくりと左方向に振る。
「……防御は最大の攻撃ってこと……!」
フルクスの小さな身体が吹き飛んだ。




