その8-5 傍観者の選択は?
血。
かつての『大戦争』では多くの血が流れた。
小悪魔はまだ生まれていない時の話なので、それは全て聞いた話でしか無いが、それはもう、血で血を争う、とてもえげつない殺戮の繰り返しだったらしい。
殺し殺されを繰り返す『世界』。
死が蔓延した『世界』。
それから二十年。
安定していた『世界』に、再び血の臭いが漂う。
赤色に塗れたメリーゼ。
思わず小悪魔は駆け寄る。
「メ、メリーゼ様! 大丈夫ですか!?」
ぐったりと重く冷たいメリーゼの身体。
明らかに血を流しすぎている。
血はまだ、固まりきっていない。
それほど時間は経っていないようだ。
メリーゼの胸元を見ると、そこが特に赤く汚れていることに気づく。
「メリーゼ様! しっかりしてください! ふ、フルクス様、ど、どうしたら」
「うろたえるな小悪魔よ」
言って、フルクスはメリーゼの胸元に耳を当てる。
「まだ鼓動はある。息も……微かにしておる。早急に処置すれば、助かるかもしれん」
大量出血。
人間族も魔族も、血を大量に流せば死んでしまう。
メリーゼは人間族だが、この出血量は明らかに致死量!
今は息があるようだが、いつ息を引き取ってもおかしくない。
「な、なら応急処置を……! あ、フルクス様の血液操作で……! 軽い治療魔法の『魔法道具』なら私も持っています」
治癒魔法。
それは、身体の損傷を修復する魔法だ。
その規模が大きいほどに『代償』も増す。
この出血量では、小悪魔の持っている『魔法道具』では意味を成さない。
だが、『血液の生成』部分をフルクスの魔法で補助できれば、小悪魔が持っている『魔法道具』でも、メリーゼを救えるはずだ。
「いや、輸血用の血は、さっき吐いちゃったじゃろ」
「あ……」
心臓の奥から冷えて固まるような感覚が小悪魔を駆け抜けた。
あまりにもタイミングが悪い。
悪すぎる。
「で、では早く帰還を……」
『政府』の城に戻れば、十分な治療を行える施設が整っている。
小悪魔は帰還するための水晶……『魔法道具』を慌てて取り出そうとした、その時。
それとは別の水晶が、強い光を見せた。
これは、先ほど玄関に張った結界に使用した水晶……!
「ふ、フルクス様、誰かが玄関に入りました……!」
誰か。
それはメリーゼの召喚した『何か』である可能性が非常に高い!
メリーゼが召喚し、キュクロの魔法人形を殺戮し、メリーゼをこんな目に合わせた『何か』!
「ど、ど、どうするんですか」
「……ふむ」
震えて慌てる小悪魔とは裏腹に、フルクスは冷静な面持ちで瞳を細め、扉の向こう側を見つめる。
メリーゼは一刻も早く『政府』の城に運ばなければ命が危ない。
だが、すぐそこにはメリーゼの召喚した『何か』がいるのかもしれない。
この場に留まり、その『何か』と対峙するのか。
メリーゼの命を救うために城に帰還するのか。
『政府』『傍観派』序列『第六位』『残忍幼女』。
フルクス。
傍観者の選択は?




