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その8-4 流れ出る赤い液

「フルクス様、重いんですけど……」

 体調不良のフルクスをおんぶして歩く小悪魔。

 それほど距離は歩いていないものの、すでに限界が近かった。

「誰がデブじゃ」

 ぽふん、と軽く頭を叩かれた。

「違います、フルクス様が背負っている鎌が重いんです」

 フルクス自体の体重は見た目通りだ。

 しかしフルクスの鎌は別である。

 フルクスの『魔法道具』。

 血液を操作する『黒鉄回路之鎌(プライオリティキュー)』。

 これが見た目以上に重たい。

 普段のフルクスはこんなものを振り回しているのかと思うと驚きだ。

 それに加え、フルクスが持ってきた日傘とバスケットという、完全に余計なものの重さまで加わっている。

 勘弁して欲しかった。

「全く、情けないのう……仕方がない、下ろせ」

「え、あぁ、はい」

 言われて小悪魔は屈み、フルクスを背中から下ろす。

「ちょっと吐く」

「へ?」

 小悪魔が振り返ると、フルクスは地面に両手をつき、口から真っ赤な液体を滝のように吐き出した。

「……って、フルクス様! 血、血、血! めっちゃ血出てる!」

 思わず言葉が崩れる小悪魔。

 慌てる小悪魔を尻目にフルクスは大量の血液を吐き続ける。

 えげつない嗚咽。

 これはちょっと……特にフルクスのファンにはお見せできない絵面である。

「……かはっかはっ……あー、あー、あー。ふいー、スッキリしたわい」

 驚くほどの血液を吐き終え、フルクスは清々しい笑顔を見せて口元を拭った。

「あ、あの、大丈夫ですか……?」

「うむ問題ない。ワシは、もしものために輸血用の血液を常備しとるんじゃよ。それを吐き出した。これなら許容の範囲内じゃ」 

 輸血……。

 なるほど、フルクスの血液操作は、吸収だけではないのだ。

 つまり、供給もできる。

 それでこその血液『操作』。

 メリーゼにロリババアの血を輸血した話とも重なる。

 フルクスはこの血液操作能力で過去にメリーゼを助けたということだ。

「さて、先に進むとするかのう」

「は、はい」

 フルクスの能力は戦闘に特化したものだとばかり思っていたが、それは思ったよりも汎用性の高いものらしい。

 ……否、フルクスはむしろ、サポートに適した『役人』なのか。

 血液を吸収する力は、相手に少しでも傷をつけ、血液を奪い取り動きを鈍らせる。

 血液を供給する力は、治癒系の魔法と組み合わせ、驚異的な回復を実現させる。

 治癒系の魔法は、程度にもよるが難しい部類の魔法で、『代償(コスト)』もそれなりに高い。

 しかし、フルクスの血液供給を併用することで、その『代償(コスト)』が削減できるはずだ。

 小悪魔も軽い傷を治せる程度の『魔法道具』は持参してきているが、その『軽い』魔法でもかなり大きな傷を治すことが可能になるかもしれない。

 そんなことを思いつつ、フルクスの横について歩いていると、進む先に小さな家が建っているのが見えた。

 森を抜けた先。

 切り開かれた丘の上。

「フルクス様……あれは……」

「あれがメリーゼの隠れ家じゃ」

「隠れ家というか、別荘じゃないですかね、あれは」

 どう見ても隠れるつもりが全くない場所に建っている。

 隠れ家のつもりなら森の奥深くに建てるべきだろう。

「いやぁ、ワシが見晴らしの良い場所に建てるべきじゃって押したからのう」

「……なんでフルクス様がメリーゼ様の隠れ家作りに口出ししてるんですか……」

「休暇でワシも使おうと思って」

「やっぱり別荘じゃないですか」

 メリーゼも不本意だったに違いない。

「兎も角、隠れ家に潜入じゃな。正面から『こんにちは』しても良いが、一応慎重に行くぞ。小悪魔よ、戦闘の準備はしておくのじゃ」

「は、はい分かりました」

 急に真面目な態度をとるフルクスに小悪魔は少しだけ戸惑う。

 しかし日傘とバスケットは持ったままだったので、どこかチグハグだ。

「とりあえず外から中の様子を見てみるかのう。グルリと建物の周囲を見て回るぞ」

「分かりました」

 小悪魔とフルクスは気配を殺し、中の様子を伺いつつ建物を一周する。

 その途中で、小悪魔はある物を見つける。

「フルクス様、これ何でしょうか」

 小悪魔は『それ』を指さして言う。

 それは、見慣れないデザインの服だ。

 地味な紺色を基調として、白色のラインとリボンで飾られた、上半身と下半身に別れた衣類。

 それが、なんか干されていた。

「ふぅむ。もしかすると、メリーゼが召喚した『何か』が着ていたものかもしれんのう」

「それは……つまり」

「うむ、少なくともその『何か』は人型であるってことじゃな」

 服を着ている、ということは、それなりの文化力があるということだ。

 コミュニケーションの取りづらい『魔物』タイプよりかは、まだ安心できる。

「一応これも回収しておこうかのう」

 言ってフルクスはその地味めな服をバスケットの中に押し込んだ。

 ……先ほどのナイフもそこに仕舞っていたが、見た目に反して結構色々入るらしい。

 ひょっとしたら四次元にでも繋がっているのだろうか。

 さておき。

 それ以外は別段気になることもなく、結果として、人の気配も感じられなかった。

「どうしましょう、フルクス様」

「うぅむ……とりあえず中を探ってみようかのう」

 言って、フルクスは小気味良い金属音をガチャリと立てて玄関を開ける。

「……あれ? フルクス様、今鍵開けました?」

「ん? いや? そういえば掛かっておらんかったのう」

 鍵が掛かっていない。

 それが意味するのは……?

「……単なる不用心なら良いのですが……」

「ふむ。まぁ、お互い緊張は解かないようにしようかのう」

「……はい」

 もしかしたら、この隠れ家に『何か』が潜んでいる可能性がある。

 外から見た限りでは気配を感じなかったものの、小悪魔とフルクスが察知できないほどの『何か』がいるとすれば……。

「そうだ、フルクス様。一応、玄関に結界を張っておきますね。何者かが出たり入ったりした時に、検知できます」

 小悪魔はポケットから小さな水晶を取り出し、手のひらに乗せ、結界を展開する。

 探知しか出来ないし、その効力は一度切りだが、こういう時には便利な魔法だ。

「うむ、では、入るぞ」

 息を呑み込み、小悪魔は室内に入るフルクスに続く。

 薄暗い室内。

 少しだけ、埃っぽい。

 あまり使われていないせいだろうか。

 みしり、みしり、と床が軋む音。

 普段ならば気にしないであろうレベルの些細な音が、とても大きく聞こえる。

 自分の心臓が奏でる鼓動でさえも耳障りだ。

 どくり、どくり。

 こんなにも心臓とは五月蝿いものだっただろうか。

 そして小悪魔とフルクスは、一つの部屋に近づき――その扉をゆっくりと開ける。

 息を殺し、二人同時に、隙間から中を覗き見る。

「……ふ、フルクス様……!」

 どくり、と一段と高鳴る小悪魔の心臓。

 目に映ったのは、床に伏せたメリーゼ……!

 そして周りを濡らす、大量の赤い液!

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