その7-5 当たり前のコストとリターン
『殺す』ということは『断ち切る』こととは違う。
関係は切れない。
繋がりは消えない。
途切れない。
理由はどうあれ、その場しのぎにすぎない。
むしろその『殺し』によって、また別の厄介な関係が新たに生まれたりする。
ほとんどの場合、『殺す』ということはデメリットやリスクしか産まないのだ。
殺し屋である加賀は、そのリスクを最小限に抑えるように考えて仕事をしていた。
そういう点、殺人鬼である黒瀬は考えたことがあるのだろうか。
殺すことが仕事である加賀と、殺すことが日常である黒瀬。
「ちなみに、日常で使う『魔法道具』はたくさんあるけどね。天井のシャンデリアもそうなんだよ」
言って、アルマは人差し指を上に向ける。
「あれは光の魔法を閉じ込めた水晶なんだよね。そういう『魔法道具』なのさ」
「うひゃー『魔法道具』オシャレっすねー。シャレオツっす!」
元の世界でいうところの電気にあたるのが、魔法……といったところか?
少なくとも、この世界において魔法は生活に溶け込んでいるものなのだろう。
「んで、魔法を発動するには『代償』が必要なわけ」
「『代償』……? 魔法を使うために対価が必要ってことか?」
「えー、魔法って無料で使えないんすか?」
「そりゃ当たり前だよ。無料でポンポン魔法を使えたら、たぶんこの世界は崩壊してるね」
アルマは再びペンを走らせる。
「例えば天井のシャンデリアは、『光に当たっていた時間だけ光を放出できる』っていう縛りがあるわけ。日中に光を吸収させておかないと光らせられないのさ」
「ふぅん、なるほどね。言い換えると、『光を放つ』ために『光を当てなければならない』という代償が必要ってことか」
「その通り。さっき言った血液を操る『悪人』は、その『代償』として非常に過酷な肉体トレーニングを毎日行っているとかなんとか。あんまり想像したくないけどね。私、マッチョなのは嫌いだし」
「それは逆に言うと、『非常に過酷な肉体トレーニングを毎日行う』……マッチョになれば、僕とか黒瀬後輩でも血液を操れるってこと?」
「んー、いや、個人差があるね」
とても便利な言葉を使われた。
「『代償』って言っても、そう単純な話じゃないのさ。さっき言った『手動魔具』ってのがここで重要になるのね」
と、アルマはカウンターの下に潜り込みガサゴソと何やら漁りつつ続ける。
「『魔法道具』には色々種類があるけれど……細分化しても意味不明だろうから、まぁ大きく分けて二種類あるわけ」
言いつつ、アルマは黒色と白色に塗られた二つの剣を取り出した。
「ずばり、『手動魔具』と『自動魔具』ね。簡単に言うと、前者は自分で『代償』を決定するタイプで、後者は自動で『代償』が決定されるタイプ」
アルマは片方の真っ白な剣に触れる。
「両方共、『物体を斬りつけた時に炎を発生させる』っていう魔法が埋め込まれた剣だけど、こっちの白い剣は『自動魔具』。埋め込まれた魔法に対して、勝手に『代償』が決定されて、勝手に魔法が発動するのね」
「……ん? 自動で『代償』が決定される……ってことは、何を犠牲にして魔法が使われるのかが分からないってことか?」
「確かにそういう『魔法道具』も存在するね。使ってみるまで、何が犠牲になるのか分からないっていう『魔法道具』」
「それはさすがに……リスキーすぎるんじゃないかな」
「二十年前ならともかく、今時そんな危なっかしい『魔法道具』はそんな出回ってないよ。もちろん、私の店にはそんな危なっかしいものは売ってないよ!」
アルマは両手を腰に当てて威張るように胸を張った。
「この剣だって、『ある一定の速度で振り下ろさなければならない』っていう『代償』が予め組まれているから、魔法の知識が無い人でも、その条件をクリアできれば扱えるってわけ」
「ふぅん、なるほど。魔法の『ま』の字も知らない僕達には『自動魔具』ってのしか扱えないってことか。どうだ? 黒瀬後輩、分かったか?」
見ると、黒瀬は子犬のように首を傾げて微笑んだ。
これは全く理解していないパターンである。
「よく分かんねえっすけど……じゃあその、何も考えなくて良いっぽい『自動魔具』の方くださいっす!」
「これなら銀貨五枚だね」
「あ、やっぱりお金は必要なんだ」
「うん、まぁ、当たり前だけどね」
アルマは呆れたように呟いた。
この世界でも通貨は存在するらしい。
なるほど、武器も魔法も無料ではないということだ。
そう考えると……メリーゼはどういう『代償』を払って加賀や黒瀬を召喚したのだろうか。
『代償』。
そのリスクはリターンに見合うものなのか?




