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その6-3 小悪魔の居場所

「あー、あー、あー」

 そのとき、飴玉を転がしたようなコロコロとした声音が聞こえた。

 声のした方を向くと、少女がテコテコと歩いてくるのが目に映る。

 少女の手には、巨大な鎌。

「小悪魔審判ではないか。さっきぶりじゃのう」

 フルクスだ。

 先の戦闘で汚れてしまったからか、着ているドレスが新しくなっている。

 白黒なのは相変わらずだが、若干露出度が上がっていた。

 お風呂に入っていたのか、髪がしっとりしている。

 大きなお友達に見せたら喜びそうな絵面だ。

「こんなところに何か用かのう……って」

 そこで明らかに、フルクスは嫌そうに顔をしかめた。

「あー、あー、あー。『巨大根暗オッパイ』が出たー。ワシはやっぱ部屋に戻る」

『巨大根暗オッパイ』とは、おそらくスノーフィのことだろう。

 なんというか……ネーミングセンスが酷すぎる。

 そういうところは、見た目通りのお子様だ。

 言われたスノーフィは、やれやれと言った表情で溜息をつく。

「はぁ……待ちなさいよ……『ナチュラル貧乳』……」

 同レベルのネーミングセンスだった。

 両方共、酷い。

「あー、あー、あー? 誰が『スタンダードおっぱい』じゃって?」

 一文字も合っていなかった。

 そんな無理矢理すぎる聞き間違いをしつつ、フルクスは巨大な鎌を振り上げて構える。

「その燭台ごと斬り刻むぞ」

「……怒っているのは……事実を言われたのがショック……だからかしら……?」

 見下すようにして、スノーフィは両手で燭台を持ってフルクスに向けた。

「よし、切り刻まれろ」

 瞬間。

 ギィンッ!

 と、金属音が鳴り響いた。

 目にも留まらぬ早さで振るわれたフルクスの鎌。

 それが、スノーフィの目前で、まるで見えない壁に阻まれたかのごとく、空気中で制止した。

「ッチ、相変わらずしょうもない魔法じゃのう」

「……そのしょうもない魔法も突破できないのは……誰かしら……」

 二人の間に火花が走る。

 超怖い。

「なっはっはっは! まーまー、二人共、喧嘩はよくないですよ」

 キュクロはヨロヨロと立ち上がって二人の間に割って入る。

 この場にキュクロが居なければ、プレッシャーに耐え切れず小悪魔は立ったままお漏らしコースだったかもしれない。

「んで、どーしますかね。実際、今メリーゼちゃんは超絶フリーダム状態ってことだからね。リアルタイムで居場所も分からないし」

「……キュクロちゃん……魔法の再構築は無理なのよね……?」

「無理だねー。さっき言ったとおり、糸が切れちゃってるからさ。壊されただけならその場で再構築させちゃうけど、殺されちゃってるからそれが出来ないわけ。ここで一から組み立てるしか無いんだけどー……やっぱ時間掛かっちゃうよ」

「そう……いえ……それならそれでいいわ……。『先読み(バイナリツリー)』から……そのパターンなら次にどうするか聞いているから……」

 小悪魔はその『先読み(バイナリツリー)』と呼ばれる『役人』も知っている。

 とはいえ、知っているのはその存在だけであり実際に見たことはない。

 だが、その能力は有名だ。

 曰く、複数パターンの未来予知だとか……。

 それも、詳しくは知らない。

「ちょっとちょっとー、スノーフィさーん、『先読み(バイナリツリー)』が動いてるってマジ? こりゃメリーゼちゃんも今回はお仕置きどころじゃ済まなさそうだね」

 両手を広げてキュクロは驚いたような素振りを見せる。

「ねー、フルクスちゃん」

 そして、どこか思わせぶりな笑みを浮かべてキュクロはフルクスに言った。

「ふん、そうじゃな」

 しかしフルクスはそんな感じで、特に興味無さそうに答えた。

「それで……『先読み(バイナリツリー)』の指令なのだけれど……」

 そんなやりとりを無視してスノーフィは続ける。

「『羽衣の扉(オープンコール)』メリーゼの追跡について……『定点観測(トロージャン)』キュクロの追跡が何らかの都合で断ち切られていた場合……その後始末を『残忍幼女(スパイシードロップ)』フルクスに一任する……。これが『先読み(バイナリツリー)』の指令よ……」

「はぁあああ?」

 フルクスは大袈裟に声を荒らげた。

「いやいやいやいやいや、どうしてワシがそんなことせなあかんのじゃ。ワシは『傍観派』なんじゃけどー?」

「あら……断るのかしら……?」

「いや、断らんけども……あーもう、くっそムカつくわ、あのボケナスめ……まぁ、『先読み(バイナリツリー)』には勝てんから仕方がないのう……」

「あら……私には勝てるみたいな物言いじゃない……?」

「あー、あー、あー? そんなもん、当たり前じゃろう?」

 再び飛び散る火花。

 飛び火が来そうで物凄く怖い。

「だーから、喧嘩はー、らめれすってー。それにー、『先読み(バイナリツリー)』の判断は結構、的を射てますよ」

 酒瓶を抱いてキュクロはソファに寝そべった。

「フルクスちゃんの魔法があれば、私の魔法を回収してこられるじゃーないですか」

「あー、まぁ、確かにのう」

 小悪魔は知らないフルクスが扱う魔法の正体。

 キュクロはそれを知っているようだ。

「ん……? というか、そりゃワシがキュクロの尻拭いをするってことか! このボケナス目玉め! お前のせいでワシの仕事がー!」

 不機嫌そうに言って、フルクスは寝そべるキュクロの髪をワシャワシャと両手で掻き混ぜる。

「なっはっは、やめてくらさいよー」

 この人達すげえ仲良いな。

 お固い分類の『保守派』と比べると、『傍観派』の緩さが際立つ。

「…………」

 小悪魔は、この『世界』が好きだ。

 人間族も魔族も入り混じって、ごちゃごちゃで、それでも人々がそれぞれに治安を保って、圧倒的な力を持った『政府』が直接的に支配しない以上、誰かの独壇場ということもない、そんなこの『世界』が好きだ。

 だから、この『世界』を守ろうとする『政府』の……『保守派』のお手伝いがしたくて、ここに居る。

 スノーフィの部下として、『決闘祭』の審判という役目も貰って、ここに居る。

 ここは、小悪魔にとって大切な居場所だ。

 フルクスやキュクロに不満があるわけではないが、しかし、この件については、どこか不安を覚えた。

 少しくらい、小悪魔自身も、何か行動がしたかった。

『世界』を守るため。

 居場所を守るため。

『保守派』の……スノーフィの、力になりたかった。

「……それじゃ……小悪魔……あなたも行ってらっしゃい……」

「はぇ?」

 間抜けな声を出してしまった。

 いや、唐突にそんなこと言われたらそりゃあ驚く。

「ど、どうして私がフルクス様と一緒に?」

「……まぁ……監視よ……。……フルクスは絶対にサボって何もしないから……。……なんだったら……あなたが主導を握っても良いわよ……どうせフルクスは自分から動かないでしょうし……。……というか……こういう時のために……あなたを連れてきたのよ……」

「マジですか」

 それはつまり、キュクロの魔法を殺せるくらいにとんでもない輩と鉢合わせになる可能性がある、ということである。

 いくらフルクスと一緒と言っても、最終的に自分の身は自分で守らなければならないのが魔法の戦闘だ。

 そして、弱肉強食であるこの『世界』の必然だ。

「……任せても大丈夫かしら……?」

「が、頑張ります」

 お手伝いが出来るというのは、願ったり叶ったりではあるが……それにしても直接的すぎるお手伝いだった。

 それでも、スノーフィから直々に任された使命である。

 誇りを持って任されよう。

 そんな感じで、小悪魔はフルクスと共にメリーゼの行方を追う。

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