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白いレクサスがやってきた。樹音はナンバーと運転席の顔を確認した。いちおう交差点のところで待ち伏せていたが、ちょうど信号が赤になるような幸運はなく、そのまま通過していく。だから、ナンバーも四つの数字を読みとるので精一杯だった。運転者の顔もちらっと見ただけだが、こちらについては事前に朱音からもらった一枚の写真が頼りだから絶対に父親だと断言できるはずもない。
しかし、いままでのところ身代金を払う気はあるようだし、わざわざ替え玉を使う必然性もない。計画は順調にスタートしたとみていいだろう。
最初に指定したのは地下鉄の一社駅。しかし、そこにたどり着く前に場所を変更することになっていた。一社駅のまわりは事前の手紙に書いておいた場所だから、見張りを置くこともできるだろうが、いまから携帯電話で場所を変更すれば、あらかじめ張り込みするのは難しくなる。
「荷物は運び出された」
『了解』
「それらしい車が三台くっついてる。白のミツビシ・ギャラン。白のトヨタ・クラウンと黒のクラウン」
『たった三台ということはないから、他にもいるかもね』
「かもね。で、そっちはどう?」
『現場には到着した。いま写真を撮ってるところ。そろそろ電話してもいいよ』
「了解。そっちに向かわせる」
樹音は電話を切り、今度は朱里の父親の携帯電話にかけた。身代金の受け渡し場所を変更すると伝える。名古屋高速に入り、それから東名高速に乗るように指示した。
待ち合わせの場所は守山パーキングエリア。
*
その守山パーキングエリアでは若葉が駐車場全体を写真におさめていた。いまここにいる車が捜査関係者ということはないだろう。しかし、朱里の父親が警察に相談していれば、さっき樹音から電話で指示されたことが伝わり、いまごろ覆面パトカーが何台か緊急出動しているはずだ。
身代金を積んだ車よりも先にここに到着し、長距離運転して疲れたドライバーが休憩しているようなふりをして張り込むだろう。それらしい車がやってきたら、あれだけ警告したのに朱里の父親は警察を介入させたということになる。
もし、そういう事態になったら計画を練り直さなければならない。
ノートパソコンに撮ったばかりの画像を表示させた。これからパーキングエリアに入ってきた車も写真を撮ってチェックするのだ。
*
本田和幸はイライラしながら携帯電話の『おかけになったお客様は電源を切っているか……』という音声を聞いていた。
集合時間を知らないわけがない。事前に何度も念を押したし、昨夜はメールを送っているのだ。
逃げた。
そう判断するしかない。
まあ、いい。しょせん、その程度のヤツだったのだろう。
「どうやら曽根はこないらしい。あとで探し出してブッ殺す。とりあえず車はあるし、スクーターも手に入った。やるぞ」
「この場合、分け前はどうなりますか?」
金髪をライオンのたてがみのように逆立てた男は狭山透といって、自称プロサーファーだが、それが金になるようなものではないのは、こんな仕事を二つ返事で請けただけでもわかる。それどころか、ヤバい筋に借金を抱えているという噂があった。
「曽根の分はこの三人で山分けだ」
狭山に返事をしつつ、小谷のほうを見る。元ホストということだが、無残に太ったいまの姿を見ると冗談にしか聞こえない。酒で体を壊してホストを廃業してから太ったらしいのだが、こうなっては金を貢いでくれる女はいない。
「この件はな、約束した金額だけでなくて、ちょっとしたボーナスがつくんじゃないかと思う。まあ、期待してろよ」
本田は二人に笑いかけた。




