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SS15 サクラとシンティの出会い(1)

三人称一元視点に挑戦中です!

サクラが5歳の時のお話です。




「ふふ、わたし、ここが好きだわ」


 サクラがいる場所はパルトの店と呼ばれている工房だ。


 工房なのに店となっているのには理由がある。


 昔は本当に商品を売っていたのだ。


 しかし、パルトが作る製品の技術と美しさが認められるにつれて、王族や有力貴族、大商人からの直接受注が増えていき、お店で売る品物がなくなってしまった。 


 今は非売品である見本が展示されている。どれもパルトのお気に入りであり、盗難にあわないように厳重な管理がなされている。


「ここって、落ち着くのよね。それに、陽気な歌も聞こえるもの」


 サクラは名前と同じ桜色をした髪の毛の先をくるくると指に絡めさせながらそうつぶやく。


 窓からは若い芽が伸び始めた樹木が見える。空は真っ青だ。小さな椅子にちょこんと座った5歳の少女からは、少し見上げる位置にガラスがある。


「ナツメ兄様のお仕事、まだまだ時間がかかりそうね」


 開放された足をぶらぶらと揺らしながら、店の中を見渡す。


「パルトおじさまが作る家具って、どれも凄くきれい」


「あの飾りは何かの動物なのかしら」


 装飾を近くで見ようと思い腰を浮かしたとき、


 カラン


 来客をつげるベルが鳴った。


「あら、めずらしい。お客さんかしら?」


 このベルを鳴らすことができる場所まで入ってこられる人物は限られている。怪しい人ではないだろう。


 サクラはピョコンと飛び降りると、自分の背よりも高い位置にあるドアのカギに手を伸ばした。が、それでも確かめた方がいいかと外に呼びかけた。


「どなたでしょうか?」


「ん、その声はサクラの(じょう)ちゃんか。おれだ、カルコスだ」


「カルコス親方でしたか。わかりました。今鍵を開けますね」


 (かかと)を上げてつま先立ちになる。そして腕をいっぱいまで伸ばしてやっとレバーに手が届いた。


 ガチャリ ガチャリ


 魔道具になっている特殊な(じょう)が音を立てて開いていく。


 ガチャリ チーン!


 その音を合図にドアノブがゆっくりと周りドアが開いた。


「助かったぞ。いつもならもう5、6回ベルを鳴らさなければパルトのやつは気がつかないんだ」


 そう言って、カルコスは顔中を(おお)っているひげを揺らして、ガハハハと笑った。


「パルトおじさま呼んできましょうか」


「大丈夫だ。おれが勝手に工房まで行く」


「今、ナツメ兄様とお仕事の打合せをしています」


「マジか、それならここで待つか」


 カルコスが近くの椅子にドカッと座ると、その後ろにもう1つの頭があったことにサクラは気がついた。


(小さな頭だわ。きっと子どもね。誰かしら?)


「おう、忘れておった」


 カルコスが、その大きな体を少しずらすと、隠れていた体の全貌(ぜんぼう)が現れた。


(やっぱり子どもだわ。かわいい女の子ね)


「いま、かわいいと思ったでしょう。多分だけど、うちの方があなたより年上よ」


 小さな女の子はそう言って、ふんぬーとふんぞり返った。


(ふふふ、かわいい。でも、ドワーフ族だから本当に年上ね)


 純粋なドワーフ族の背は、エルフ族や人族よりも一回り小さい。エルフ族であるサクラと同じぐらいの背格好(せかっこう)だが、年齢が見た目と同じではないことをサクラも知っていた。


「ごめんなさい。その通りよ。初めまして、私はサクラ、今5歳です」


「まあー、素直に認めたから許してあげるわ。私はシンティ、7歳よ」


 2人のかわいい少女の自己紹介が終わったときに、奥から2人の男が歩いてきた。


「来客か。おう、カルコスか」


 パルトの目尻(めじり)が下がった。歓迎の表情だ。


「サクラが鍵を開けてくれたんだね。ありがとう」


 そう言って、水色の髪の毛をしたエルフが優しくサクラの頭に手を()えた。


「ナツメ兄様、ちゃんとどちら様ですかって、言ったわよ」


「ははは、分かっているよ。我が妹殿はしっかり者だ」


「サクラ、このかっこいい男性はあなたのお兄さんなの」


 シンティは、ちょっともじもじしながらナツメの端正(たんせい)な顔を見上げていた。


「ん、このかわいい女の子はサクラのお友だちなのかな」


「ええ、今知り合ったばかりのお友だちよ」


「初めまして、うちはシンティです」


「がはは、子どもはいいな。直ぐ仲良しになれる」


 カルコスは大きな手のひらでシンティの頭をガシガシと撫でながらそう言うと、懐から封をされた手紙を取り出した。


「今日来た用事のひとつだ。後でこいつを読んでくれ」


 パルトは黙ってそれを受け取りうなずいた。


「カルコス、丁度いい。ナツメの樹魔車両の事で相談がある。工房まで一緒に来てくれ」


「もしかして、まだらの(つの)のことか」


(さっ)しがいいな。そうだ」


 パルトのその言葉にカルコスの目が見開かれた。


「願ってもない話だ。直ぐいくぞ。シンティ、おまえはここで待っていろ」


 3人の男がそそくさと工房に向かって歩いていく様子をかわいい2人の女の子が黙って見送っていた。


「親方、嬉しそうね」


「サクラ、まだらの角って何よ」


「この間、ナツメ兄様がまだらという強い魔物の角を折ったの」


「すごい、まだらって脅威度(きょういど)Aの魔物よ。そして、角という事は狂乱(きょうらん)状態だという事になる。ならば、脅威度Sになる。とんでもない強さのはずよ。あなたのお兄さんて、何者なの」


「S級案内人で、A級冒険者よ」


「は、何それ。冗談よね」


「兄様は今3周期よ」


「あー、わかった。なら納得よ」


 エルフの寿命は長い。一周期が50年なので、ナツメの年齢は150歳以上という事になる。

 

 シンティは、まじまじとサクラ姿をもう一度見直した。


 そして、何かを考えているように見える。


「うちの姉様も、今132歳よ」


 シンティがそう言うと、サクラは少し驚いて、それから彼女の手をしっかりと握った。


「私と同じ人に初めて会ったの、シンティも『大樹(たいじゅ)(いと)()』なのね」 


 シンティは、『大樹の愛し子』の言葉を聞くと、「やっぱりね!」とでも言うように、ニコッとしてサクラの手を握り返した。


「うちもよ。ちょっとうれしいかも」


 しばらくそのまま顔を見合わせていたサクラは、握っていた手を離すとちょこんと長椅子に座った。これもパルト作の逸品(いっぴん)だが気にする様子はない。


「サクラ、それ、パルトさんの作品でしょう。売れば金貨数十枚になるのよ。よく平気で座れるわね」


 シンティがジト目でサクラを見た。


「大丈夫よ。私小さい時からここで遊んでいるの。それにね、パルトおじさまは『椅子は座るもんだ』っていつも言っているの」


 そう言うと、サクラはニコッと笑って隣をトントンと手で叩いた。


「はー、分かった。私も座る」


 シンティは、そうっとサクラの隣にお尻を降ろした。


「すごい、ゆがみが全くない。そして、凄くきれいでゆったり座れる」


 感動した様子で椅子の手触りを確かめているシンティを見てサクラは考えた。


(シンティは純粋なドワーフ族よね。家族は有名な工房の職人さんね)


「カルコス親方の子ども、ではないのよね」


 サクラはちょこっと首を傾げてシンティのほうに目を向ける。


「ええ、違うわよ。私の家はアルエパ公国にあるもの」


 シンティは、取っ手の()り具合を確かめている。


「なら、カルコス親方の工房に遊びに来たのね」


「違う、私は修行に来たの」


 え、予期しない返答にサクラは小さな声を上げた。


「どういうこと?」  


「うん、私もよく分からないの。姉様が、ここにいると面倒なことになるからカルコス親方のところで修行してきなさいって言ったの」


(これは、詳しく事情を聞いてはいけない気がする)


 サクラはピョコンと椅子から飛び降りた。


「わかった、ということは、しばらくはこの町にいるのね。うれしい」 


 シンティもピョンと飛び降りる。


「うん、実はちょっと寂しかったんだ。お友だちができてうれしい。よろしくね、サクラ」


 シンティがサクラに抱きついた。


「うん、私もシンティみたいなお友だちが欲しかったの。よろしくお願いします」


 そう言って、サクラも腕をシンティの背中に回した。




 サクラが『大樹の愛し子』の意味を知ったのは、つい最近のことだ。それまでは、大人達が自分を見ながら話すこの言葉のことを不思議に思っていた。


 エレフ族とドワーフ族の寿命は長い。エレフ族の長寿は500歳を超えることもある。


 そして、ごく(まれ)にだが、100年以上の年の差で生まれてくる子どもがいるのだ。その子達を『大樹の愛し子』と呼んでいる。


 その子ども達は、決まって何らかの優れた資質(ししつ)を持っていた。なので、自分の能力について大人達はきっと気にしているだろう。


 実は、サクラ自身も気になっている。自分には、エルフとしての能力の他に、何か特別な才能があるようには思えないのだ。




「あの顔の親方だと、当分戻ってこないわね」 


 サクラが、目を輝かして工房に向かったカルコスの姿を思い出してそう言うと、


「うちも同じ考えよ。ああなると、お酒も飲まないで仕事をするわ」


 ドワーフ族の酒好きは有名な話しだ。つまり、しばらくはここでまちぼうけになる事を覚悟しなければいけないという事を、2人の少女は確認できた。


「ふふふ、仕方ないわね」


「ええ、仕方ないわ」


 そう言って、2人の少女は笑い出した。


「シンティ、パルトおじさまの作品に興味があるでしょう。私が案内してあげる」


「うそ、いいの。やったー!」


 シンティが小躍りして喜んでいる。サクラも自分の事のように嬉しくなってきた。


「じゃ、このお店にある物から説明するわね」


「うん、ワクワクしてきた!」




 お店の広さは、縦が子どもの足で50歩ぐらいだ。横は30歩ぐらいになる。昔は、作業もこの中でしていたらしいのでそれなりの広さがある。


 今は、作業は別棟の工房でしている。なぜかというと、その工房の倉庫には、貴族の屋敷が丸々買えるぐらいの貴重な素材がたくさん保管されているからだ。


 かなり特別な方法で大切に保管されているので、いちいち取りに行くのが大変なのだ。


 なぜサクラがその事を知っているかというと、A級冒険者である兄が捕獲した魔物素材を搬入するときに、よく一緒に来ていたからである。




「ここに置いてある作品は全部売らないの。おじさまのお気に入りだからよ」


「ええ、凄い物ばかりだという事はビシビシ感じるわ」


 シンティが身震いしている。目がキラキラ輝いている。わたし、その目が大好きよ。


「こっちはテーブルよ」


 大人が3人位寝ることができそうな大きさのテーブルがトンと置いてある。その周りには、椅子も備わっている。


 食事をしたり手仕事をしたりするときに使う一般的な実用品だ。平民の家庭においても違和感はないシンプルな作りである。


「わたし、なんでこれが金貨数十枚になるのかよく分からないのよね」


 サクラが、トントンと机の天板を叩きながらそう言うと、


「何言っているの、この板1000年魔杉の一枚板よ。あの素材、凄く堅くてなかなか削れないのよ。板の声を聞きながら削るとよく言われているわ」


 シンティはピカピカに磨かれている天板の滑り具合を手で確かめながらそう言うと、中央に彫られている模様に目をとめた。


 しばらくその模様をじっくりと観察し、指で彫りをなぞりながら何かを考えている。


 おもむろに顔を上げ、ため息をひとつはいた。


「はー、参ったわね」


「どうしたの?」


「パルトさん、人族よね」


「ええ、そうよ」


「この中央に彫られた模様ね、ドワーフ族の200年級職人の技術よ」


「え、どんな技術なの」


「魔杉はね、特定の場所だけ修復機能があるの。そこを彫るとその模様を埋めるように樹液が出て固まるの」


 テーブルをあらためてみてみた。中央にきれいな模様が彫られている。そこを手でなぞってみると、すべすべしている。


 サクラには、彫られた溝を埋めるように塗料を塗ったようにしか見えないが、シンティのような職人が見ると、魔杉の自己修復機能を利用した技術であることが分かるようだ。


「問題は、どこにその場所があるか見極めることなんだけど、それが分かるのが200年級の職人なのよ」


 なるほど、そう考えると、模様がテーブルのど真ん中に来るように一枚板を削り出すことがどんなに高等技術であるかがサクラにも理解できた。


「すごい、パルトさんて、たぶん100歳にもなっていないわ」


 職人であるドワーフ族が200年掛けて身につける技術を数十年で使いこなしているパルトの凄さがサクラにもよく分かった。


「しかもよ、この椅子の背もたれの真ん中にも模様があるでしょう。これも同じよ。6脚全てに同じ場所同じ模様よ。信じられない」


 シンティが椅子の背もたれにある模様を指さし興奮している。


(シンティって、7歳よね。子どもよね。パルトおじさまの凄さが分かるあなたも凄いんじゃないかな)


 サクラの周りの大人達は、みんな一流の案内人であり冒険者であり職人であり商人なのだ。


 凄い人たちを見慣れているはずのサクラがびっくりするほど、このシンティという小さなドワーフ族は飛び抜けた才能を持っているということだろう。 


 他にも、ベット、本棚、食器棚など、どれもシンプルな作りであるのに洗練されたデザインで装飾も丁寧な作りになっていた。


 ひとつひとつ、サクラが案内をするが、その作品の何が凄いのかを小さな女の子がスラスラと説明していく。もし、大人が近くにいたらさぞかしびっくりするだろう。


 いつも、自分が大人達から向けられていた視線や心情を今、自分が他人に向けている。その事に気がつきサクラは嬉しくなった。


「シンティ、すごいよ! わたしびっくりしているの。そしてうれしいの」


 いきなりサクラに飛びつかれてシンティが目を丸くしている。


「な、なによいきなり」


「ううん、いいの。わたし、シンティに会えて良かった」


「なによ、へんなの」


 顔を見合わせて、「ふふふ」と笑う。


「これが最後よ、そして、パルトおじさまも私もこの家具がとても気に入っているの」


 それは、両開きの小物入れだった。高さは、サクラの背丈(せたけ)とほぼ同じぐらいであり、横幅はやはりサクラが両手を広げたぐらいだ。


 しかし、貴重な素材が惜しげもなく使われていて、様々な形の動物たちが今にも飛び出してきそうな姿で彫り込まれている。


 売るとしたら、いったいいくらの値がつくのだろう。想像すると怖いぐらいだ。


 その家具の前でシンティが息をのんだ。そして、ツーと一筋の涙を流した。


「え、どうしたの?」


「うん、感激しているの。この作品の凄さを私では説明できないわ」


 この作品を見たときの大人達の反応を小さいときからサクラは見ている。だいたいの大人達は、どのぐらい金貨を積み上げればこれを手に入れることができるんだ。


 そういう顔だった。


 シンティみたいに感動したのは、サクラの家族やカルコス親方の知り合い達ぐらいだった。


 そして、サクラはあることが気になっていた。


 シンティはどうなんだろう。じっと、様子を見つめている。


 シンティから表情が消えた。何かを確認している顔だ。


「サクラ、うち耳が変になったのかしら」


 そう言って、首を傾げている。


「シンティ、もしかして、聞こえているの」


 シンティが驚き、サクラを見つめる。


「サクラにも聞こえているの」


 サクラが黙って頷いた。


「はっきりは聞こえない、でも、確かに何かをつぶやいている。そして、凄く楽しそう」


「ええ、たぶんだけど、『うれしな』『たのしいな』って言っていると思う」


「誰の声なの」


「わからないわ。でも、父達は精霊の声だろうといっているわ」


「精霊……まだ、誰も見たことがないはずよ」


「ええ、見たことはないけど居ることはみんな気がついているの」


 シンティはそれっきり黙ってしまった。そして、いつまでも目をつぶって立っていた。





本日3回投稿します。

2回目は12時10分です。

3回目は17時10分です。

活動報告があります。お時間がありましたらご覧ください。

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