Snipe(1)
その青年が微笑むと、周囲の空気が変わる。
シルバーカラーに染めた髪を掻き上げ、後ろへ流すと、その指先と髪の揺れに、どこからか溜め息が漏れてきた。
青年の瞳は、この島の海の色を切り取ったような、エメラルドブルーだった。
整った顔立ちと、透き通るような白い肌。長い手足。細身の体躯にぴったり合わせた、グレーのスーツ。
観光地には不似合いなスーツ姿だが、そのスーツ姿が一番、似合っていた。
青年の佇まいに、すれ違った人が振り返る。
電話しながら歩いていた人は立ち止まり、会話をやめて、見入ってしまう。
人が行き交う昼下がりの繁華街に、一瞬の静寂が訪れる。
みな、喋るのをやめ、その姿を目で追った。
華やかで厳かな青年の容貌には、芸術品のような風格すらある。
青年の周りには、同じくスーツ姿の男が何人か、取り囲むようにしていた。だが、青年の圧倒的な存在感に、彼らはすっかり霞んでいる。
「あっ! ヤシの実ジュース、みんなで飲まない?」
芸術品のような佇まいを見せていた青年は、露店のヤシの実を指差すと、ぱあっと笑顔になる。幼さすら感じる、楽しげな笑い顔だ。
「やめなさい。ホテルに行けば、もっといいもの食べられるんだから」
うんざりした様子で答えたのは、青年のすぐ後ろにいた男だった。
青年と同じ髪色で同じ髪型、同じ色のスーツを着ていた。
ほぼ同じ背格好なので、後ろから見たら見分けがつかない。
「えぇぇ……」
自分と背格好がよく似た男からの、気のない返事に、青年は不服そうに唇を尖らせた。