新任講師、姉の足跡3
「どうだ、驚いたか?」
「驚いた、じゃすまないよ…」
「ごめんなさいね、ヴァンが面白がって『絶対に教えるな』とか言ったので。…二人も来ているのですか?」
「はい。…ヴェク、マリィ来なよ」
アズラが呼ぶと、少しムスッとした顔のヴェクと、何かをとても怖がっている様なマリィが小屋に入ってきた。
「どうした?二人ともそんな面白い顔をして」
「…師匠のウソツキ…始めからそう言ってくれればよかったじゃんか…」
「アズラにも言ったが、この方が面白いと思ったからな。別にいいじゃないか、学園にいる事に変わりはないんだし」
「あ、あの、あんな態度とってしまいましたけど、また魔術を教えて…」
「当然だ。そもそもわたしたちの仕事は森林エリアの治安維持と特定の生徒の指導だからな。その特定にお前たちは入っているのだよ」
「よかったぁ…」
ホッと胸をなでおろすマリィ。よほど心配だったようだ。
「ごめんね、邪魔するよ」
そこに一人の男性が入ってきた。年齢は二十代の後半だろうか?
「確か…今年新任の空間干渉の教師か。名前は…?」
「シェル、だよ。アズラくん、君に用があって来たんだ」
「僕に?」
「うん、よろしくね」
そう言うと握手を求めるシェルと名乗った教師。
当然、それに応えるアズラだったが、その手を握った瞬間…?
セピア色で映し出された、学園に飛ばされた…?
そこで話している一組の男女。
片方は若き日のシェルだろう。なんとなく面影がある。
もう片方は…?
「姉…さん…?」
アズラが最後に見た十二年前より少し成長した実の姉、レイカの姿があった…。
「姉さん!」
レイカに近寄ろうとするアズラ。しかしその足は動かない。
「どうなってるの!?これ!!」
ひたすらに動かそうとする。しかし動かない。
そんなうちにシェルが話し始めた。
『ダメだ!俺も行く!』
『…いいえ、どうせ無理なんだから、あなたは残って』
『でも!『その代わり、やってほしい事があるの…』…え…?』
『きっと私は死ぬ。その事を聞いた私の弟…アズラって言うんだけど、それが学園に入学すると思うの。アズラ、運が良いのか悪いのか、十歳差なのよ。だから九年後、私とあの子のために、ここの教師になってほしいの』
『だけど…そんなこと…』
レイカがその言葉を遮る。
『じゃあはっきり言うわ。あなたがいても、邪魔なだけ。…誰かが行かないといけない。幸い、後一回は大丈夫みたいだし、派手に失敗してくるわ』
『そんな…』
『準備があるから、行くわね。…頼んだわよ?』
『…わかった…』
しぶしぶといった感じで了承するシェル。
『ありがと』
満面の笑みをシェルに見せ、この場を去るレイカ。
レイカが歩くとアズラも勝手に動き始めた。
『ごめんなさいシェル…。あなたまで殺したくないのよ…』
その言葉を最後に、アズラの意識は途絶えた…。
「……ラくん!アズラくん!」
気がつくとヴァンの小屋にいた。まわりを見るとこの場にいた五人全員が心配そうな顔をしていた。
「あれ…?姉さんは…?」
「姉さん…?レイカのことかい?」
アズラはパッと考える。
(さっきのはなんだったのだろうか?作り話?いや、違う。姉さんも、おそらくシェル先生も、ふざけてあんなのを見せる人じゃない。ならあれは真実。さらにシェル先生が若かった事を考えると…?)
「シェル先生…」
「ん?どうした?」
「姉さん…レイカはどうなったんですか!?」
「え?え?」
「知ってるんでしょ!さっき握手した時に昔の姉さんと先生の話を聞きました!」
「…どんな、話だい?」
「姉さんがもうすぐ死ぬと!その事を僕に伝えるために教師になってほしいと!」
「なんで…その話を…。…そうか、記憶の伝達か…」
「記憶の伝達…?」
少し落ち着いたアズラ。
「あぁ、レイカのオリジナルさ。確か…対象とした物質に自分が伝えたい記憶を記録し、条件を満たした時に再生する…っていう能力だった」
「じゃあ…さっきのは…」
「たぶん俺にかかっていたんだろう。おそらく条件は君が触れること。…わかっていると思うけど、俺の君への用事は、レイカの事だ」
そう言うとシェルは話し出す。
「つまり…この学園には姉さんが僕のために遺してくれたいくつかの遺物があるってことですか?」
「そういう事だ。で、その一つに案内するように頼まれている」
「どこにあるんですか!?」
「草原エリアの忘れ去られた地域、『名も無き庭園』だ…」
―姉の想いを求めて、少年は進む―
実は明後日からテストなのです。けっこう書き貯めているので更新をしないという事はないと思いますが、更新の時間が遅れる可能性があります。ご了承ください。