少年と黒猫
「前から気になってたんだけど…」
ある日、五人が集まったとき、唐突にカティが切り出した。
「ん?なに?」
話の対象にされた気がしたアズラが聞き返す。
「なんでアズラはレムくんを学園に連れて来たの?」
「…俺が勝手についてきただけだが?」
「だがよ、たまに動物と連携して魔術戦をするヤツもいるけどさ、アズラとレムはそんな関係じゃねぇよな?」
「うーんと…ただの猫とその飼い主だからね…」
「そもそもレムくん、ずいぶん物知りだけど、いったい歳いくつ?」
「さあな…忘れた」
「アタシはそれよりレムがなんでアズラに飼われてるのか聞きたいな〜」
「ん?大して面白くない話だけど、話そうか?」
「えぇ、聞きたいわ」
「うん、わかった」
「お姉ちゃんは、魔術の学園でいなくなったの?」
話しているのは8歳のアズラだ。
「あぁ…学園で事故に会ってな…もう会う事はできないんだよ…」
会話の相手は父親、トリストだ。
「そんな…お姉ちゃん…。うわああぁぁーん!!!」
泣きながら部屋に駆け込むアズラ。無理もないだろう。8歳という年齢で姉が死んだという話をされたのだ。
三日三晩、部屋に籠っていたアズラ。やっと部屋から出てきた時には、目は真っ赤に腫れ、とてつもなくやつれていた。
「大丈夫か!?アズラ!」
アズラに駆け寄るトリスト。
「決めたよ…お父さん…僕、魔術師になる…」
「どうしてだい?」
「魔術師になって、お姉ちゃんを探し出す。お姉ちゃんがいなくなった原因をやっつける!」
「そうか…わかった。お父さんも手伝おう」
次の日、家にレムがやってきた。
「お父さん、この猫は?」
「ん、やっぱり魔術師といったら黒猫だろう?」
「それって魔女じゃないの?」
「変わらないさ。とりあえず形からだ」
「…おい主人よ…。俺はそんな理由で連れて来られたのか?」
黒猫がしゃべる。
「わ!!」
「おいおいアズラ、何を驚いている。動物が話すのは常識だろう?」
「で、でもほんとに話すとは思ってなくて…」
「…主人…?」
「悪い悪い。こいつがお前のマスターのアズラだ。ほら、自己紹介しな」
「まったく…小僧、俺の名前は……レムだ。よろしく頼むぞ」
「小僧じゃないよ!アズラだよ!」
「悪かったな、小僧」
「む〜っ!」
「えっーと…レム、その辺にしておいてやれ。ほらアズラ、少し遊んで来なさい」
「はーい…」
「こんな感じの話だよ。レムが来てから病気とかしなくなった。体、弱かったんだ。」
「そうね、いつも元気そうだもんね。それで、お姉さんの事ってわかりそうなの?」
「学園長とか教頭先生とかが知ってるらしいけど、まだ教えてくれないんだ」
「そうなんだ…。でも今の話じゃ結局、レムくんが何者なのかはわからないわね」
「…まぁ俺は主人に、アズラを見張っておくように言われているんだ。さて…俺は疲れた、寝る」
部屋に勝手に戻るレム。
結局、この日は集まってアズラとレムの話を聞いただけで、次の授業の予定も立てず、終わった。