新月の決戦、牙の双王
「なぁ…今回の本当にやめにしないか?」
弱気なテムダ。その理由は…?
新月の夜の出発前、学園南門付近の集合場所にミランダが現れた。
で、その時彼女が言ったセリフが…
「おそらくあなたたちもウルフキングとクイーンに遭うだろうけど、絶対に倒しちゃだめよ?」
なぜ、と聞いた時の答えは
「私の遊び道具が減るじゃない?万が一倒しちゃったら…表裏草、二倍入れるわよ?」
表裏草は一枚でちょうど逆になる。
逆の逆は正。課題は毒薬なので毒を飲むハメになる。
「ちなみに私は見ただけで薬が何かわかるから、倒しちゃったから回復薬作るなんてことしても無駄よ?量を調整して意地でも毒にするから」
どこかおかしいが、一応薬学教師の能力は持ち合わせているようだ…。
そんなこと話しているうちに、月夜の野原に着いてしまった。
「もう着いたんだし、行こ〜」
「……そうだね……」
二人を説得するエンカとサクヤ。
「…わかってるよ、いつか行かないといけないんだろ?」
「倒さなければいいのよ、倒さなければ…」
嫌なことはさっさと終わらせようと納得するテムダ、絶対に失敗しないように自己暗示をかけるカティ。
一応、準備はできたようだ。
「クオーン!」
普段は月光草のある地帯にたどり着いた五人。そこには薄い青色を帯びた銀色のウルフと、薄い桃色を帯びた同じく銀色のウルフが一頭ずついた。青色のウルフ―ウルフキングが五人に気づくと、高く遠吠えして親衛隊であろう数匹のウルフを呼びよせる。
《キインッ!》という音が二ヶ所で鳴った。
次の瞬間には槍を持ったテムダが走り、弓を持ったカティが矢を放つ。
瞬く間に二匹のウルフが倒れる。
ただウルフたちもやられっぱなしではない。ウルフが一匹テムダに向かって体当たりする。
向かってきたウルフを軽く倒すテムダだったが…
「ぐわっ!?」
背後からウルフクイーンの体当たりを受ける。
かなり高く宙を舞うテムダ。落ちる先にはテムダを見上げるウルフキングがいた。
「ガァァッ!」
回転しながらの強力な体当たり。しかも、当たる瞬間に思いきり牙を立てた。
「《防いで》」
「《ハイ・シルドッ!》」
エンカとアズラが護法と術式でなんとか守る。
「がぁっ…!」
ただ、ウルフキングの攻撃力は非常に高かった。
盾を突き破り、防御魔術で守られているテムダを余裕で吹き飛ばす。
「《足を速く!》」
高く打ち上げられたテムダを助けるため、サクヤが強化術で駆ける。
しかし、ウルフの群れがサクヤの行く手を阻む。
「邪魔だよ〜」
蹴りでどんどん倒すサクヤ。しかしいつの間にかウルフの数が凄まじい事になっている。まったく減らない。
「減らないよ〜」
「どいてっ!《メガ・ブラストッ!》」
サクヤを退かして術式7のメガ・ブラストで一気にウルフを殲滅するアズラ。
道ができたので、落ちてくるテムダを受け止めることに成功した。
「《止まれ》」
再び攻撃を始めようと走りだすクイーンをエンカが結界術で止める。強力な相手には短時間しか効果がないが…?
「みんな!集まったわ!」
四人に呼びかけるカティ。その手は結構な量の新月草を抱えていた。
「わかった!《ブライン!》」
「《…スリープ》」
盲目魔術でキングを無力化するアズラ。
睡眠魔術でクイーンを無力化するエンカ。
「《ハイ・ブラスト!》こっちだよ〜」
逃げ道を作ったサクヤ。
「《ハイ・ヒール…》ふぅ…《皆に疾風の足を!》」
自分を回復してから、かなり上級の強化術で一気に全員の速度を上げたテムダ。
一直線に学園に向かう。親衛隊も追いかけてきたが、追いつくはずもなかった…。