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リゼVSレティシア その2

 三度に渡って業火が爆せて燃え上がる。一帯が紅蓮に染め上げられた。

「これは決まりました!」

「流石は星村様」

「あの魔族もひとたまりはないでしょう!」



 熱波が去った後、そこには煤を被ったリゼが倒れ伏している。

 星村の勝利を確信した喝采が湧く。



 しかしレティシアが灯らせたランプは二つ。決着はまだついていない。

 やがて、地面から彼女は起き上がり顔を拭った。

「直前に【シールド】を貼りましたわね。しかし、しのげたのは一発のみ。当然ですわ、従来の減衰する突貫力を改善したものですから」

「……やってくれたね、レティシア」


 そんな台詞をリゼは口にする。次同じ手を使われたら後はない。

 追いつめられているにも関わらず、何故だか楽しそうな笑みを浮かべていた。


「まだ続けるおつもりなのかしら」

「当たり前でしょ。此処で終わらせるのは、勿体ない」

「勿体ない?」


 レティシアは柳眉を動かした。リゼは高揚した様子で続ける。


「この試合をもっと続けたい。元々あたし達が夢見た念願の舞台だから」

「それはまた光栄ですこと」



 呆れて嘆息を吐くも、満更でもなさそうに苦笑を漏らす。

「しかし此処からどう巻き返すおつもり──」

「こうするの!」


 杖を差し向けたリゼに対しすかさず杖で構えるレティシア。警戒は怠らない。

 だが、外見上の変化はなにも起こらない。


(【北の暴風(ボレアス)】!)

「がはっ」


 しかし星村レティシアの全身が見えない壁にでも叩かれたようにひとりでに跳ね上がる。ただ風の唸りだけが起こった。

 詠唱も目に見えた魔法現象もない点を生かして不意をついた。

 転がっている間にリゼの方にある得点ランプがひとつ灯る。


「もう一発! そしてトドメ!」


 体勢を崩している隙に同じ魔術を数発繰り出す。



「あぐっ──っ【シールド】!」

 二発目も被弾し転がりながらも慌てて盾の魔法でどうにかしのいだ。

(さっきのは緑の二階の【ゲイル・ハンマー】……? にしては風魔法特有の気流の動きを目視できなかった……! こうも透明にできるものでして!?)

(今ので点をどうにか取り返せたけど、レティシアには多分同じ手は通じない……別の方法で攻めないと!)


 戸惑いながらレティシアは復帰。リゼも次なる攻撃手段を模索した。

 これで互いの点数は2対2。次に先手をとった方が試合を制す。


 そんな戦局の動きに歓喜の合唱が打って変わって、相手側の観衆から非難が湧いた。


「なんですかあれは! 魔法!?」

「完全なる不意打ちではありませんか!」

「最低……!」

「おやめなさい」


 レティシアの一声がそれを治める。


「今のを見極め……いえ聞き分けて反応できなかったわたくしの不手際。責めるのはお門違いでしょうに」

「ほ、星村様……」


 意識を試合の方へ戻す。今は二人だけの時間。


「この勝負──」

「あたしが──」



 勝つ。言葉にした想いが重なる。

 すぐさまレティシアとリゼの勝負が再開。お互い後悔がないように今この瞬間に全霊を尽くすことを決意した。

「【シールドプリズン】」

「【サンダー・ブレード】!」


 再度リゼの周囲に何層もの障壁を張り巡らせようとするもその途中で横合いに産み出した雷剣で貫き脱出。そのままレティシアのもとへと駆けだした。

 レティシアの合成魔法は強力無比だが攻撃までのインターバル要する。それを妨害する戦略に打って出た。


 両者が次に繰り出した魔法は同じ。

「「【ソーディア】ッ!」」


 杖に顕現された光の刃が伸び、剣戟が繰り広げられた。どちらもウォーリアーではないのだが、距離をとって戦うという定石を捨てて白兵戦でぶつかり合う。

 幾度となく火花が散り、鍔迫り合いとなった。


「ぜったいぜったい、ぜぇったい負けない!」

「望むところですわ! こちらは年季が違いますの!」



 試合は膠着状態に陥り、長らく戦闘は続いていた。

 どちらも魔力の総量が高いことでガス欠が起こりにくく、絶え間なく炎や雷に風の嵐といった魔法の数々が生じる。


「なんかリゼ、楽しそうっスね」

「あァーいいなァーオレももっと試合してー」

「おぬしは今回の教訓を次回に活かせドゥーゴ」



 観戦するウィズウッド達はその様子を見守る。一挙として窮地に追いやられた時は冷や冷やしていたのだが、巻き返していい勝負となっている。


「結果がどちらに転ぼうとも、此度の試合はあやつにとって得難いものになるだろう。……しかしリゼめ、【南の逆風(ノトス)】に続いて【北の暴風(ボレアス)】まで習得していようとは」

 ウィズウッドと同じ魔術を扱っているリゼであったが、実はまだ前述の魔術と同じくそれほどの種類を教えているわけではない。初歩的な魔術の習得と徹底的に魔力のコントロールといった基礎を磨かせていただけだ。


 言ってしまえば彼女はほとんどの魔導のいろは(・・・)を見て覚えてしまったのだ。【愚者の鬼火(イグニス・ファトゥス)】も又聞きではあるが【焼ける雷(セント・エルモ)】も、目の当たりにしたのは一度だけの筈である。



 彼女自身は落ちこぼれと自認しているのだがとんでもない才覚を持ち合わせていると魔王は睨む。まだまだ改善の余地はあれど、この短期間でよくぞここまで力をつけた。

 ウィズウッドはひとり、言葉をこぼす。


「……そろそろ、後継として学ぶ段階を次に進めるとしよう」




 魔法の交戦がやまぬ膠着状況──スワンプが続いたこの試合も遂に佳境を迎える。もう数十の魔法あるいは魔術が放たれ、当人達からすれば気の遠くなる時間が流れただろう。

 疲弊が出始めたリゼとレティシアは息切れしながらその場で踏みとどまっている。


「……流石に、魔力が……枯渇してきましたわね」

「……こっちも、そろそろ……限界」



 マラソンの終盤にまで進んだように汗だらけで、今すぐにでも休みたいほど苦しい筈なのに、晴れやかな面持ちで向き合う。

 それは思いの丈と力の限りをぶつけ合い、言葉で語らずともわだかまりを解いて競い合っていた。


「では……次の衝突で、決着といたしましょう」

「……つまり、最後の一発勝負、というわけ」


 星村レティシアが頭上に携えるのは火球と炎槍を組み合わせた三発の合成魔法。

「【フレイム・ボンバー・ファランクス】……!」

 田中リゼも杖を掲げ、唱える。


「……銀の三階──」

「! まさか……」



 リゼが立つ周囲の気温が急激に冷やされていく。煌めく白い結晶がかき集められ、長く先端の枝分かれしたそれは形作られた。

 巨大な冷気を発する氷の矛が、空中に鎮座する。



「【コキュートス・ジャベリン】……!」

「三階級の色魔法だなんて、熟練者でやっとの芸当……いつの間に」


 使えるようになったのか、という疑問に対し、


「おばあちゃんの得意魔法で、昔見たことあったから、やり方は知ってた」

「……?」

「実は、今この場で初めて出したけど……上手くいっちゃった」


 即興での成功。カミングアウトにレティシアは面を食らい、そして声に出して笑う。


「おほほほ! 面白いですわリゼ! それでこそ、わたくしのライバルなだけはありますわ」

「それバカにしてないよね!?」

「もちろん。さぁどちらの魔法が上か、決めようではありませんか……!」


 かくして両者の最大威力を誇る攻撃魔法は出揃った。

 炎と氷、対照的な属性の三本の槍と大矛が同時に射出される。



 ──接触。耳をつんざく爆音がステージを揺るがした。

 熱波と冷気が交互になびき、視界を赤と銀の光が点滅する。


 せめぎ合い、一進一退を繰り広げ、そして最後に水蒸気爆発へと変わった。観客の驚きの悲鳴が戦闘の幕を下ろした。



 もうもうと周辺に白い蒸気の煙が立ちこめ、誰にも結果を窺い知ることはできない。

 そしてそれが晴れた時、舞台には誰ひとり残っていない。


 ざわめきが支配し、二人の安堵と行方を確認しようとしていたその時だった。

 ステージの両端で先ほどの衝突した膨張する風圧によって弾き出されたと思わしきリゼとレティシアの姿を発見する。倒れているが意識はあるようで、どちらも身を起こした。


 試合終了のブザーが鳴るも、お互いのランプは三つとも光に満たされどちらに軍配があがったのかを示すことはない。


「これって、もしかして」リゼは顔をしかめながら呻く。

「引き分け、ということでしょうね」レティシアはため息を吐いた。



 田中リゼ、星村レティシア、両者場外の為、脱落。

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