リゼVSレティシア
「どうやら始まるみたいっスよ」
場所は変わって観客席にてボルタは呟く。ドゥーゴの騒ぎはどうにかして沈静化したようで竜女はちょっぴり拗ねた様子。
「星村とリゼが遂に衝突、ってところっスか」
「大丈夫かしら、あの子は」
ニーナが心配そうにその後ろ姿を見つめている。
彼女の前にはレティシアが、そしてそのとりまき達が向こう側のフェンスで睨んでいる。完全にアウェーだった。
「案ずるな。あやつとて余の後裔だぞ。これしきのことで遅れはとらぬ」
魔王は腕を組み、普段通りの態度でこう続けた。
「だが油断するでないぞ、リゼよ」
†
そうして舞台に立つ金髪令嬢と魔族の少女。ウォーロック同士の対戦である。
互いに杖を突きつけ、その瞬間を待った。
鳴り出したブザーを皮切りにそれは振るわれる。
「【スパーク・ダガー】!」リゼは雷撃の短剣。
「【ウィンド・カッター】!」レティシアは烈風の刃。
最小限で繰り出される魔法が同時に放たれ、衝突することで開戦の合図となった。
「【フレイム・ランス】!」
「【ロック・ブラスト】!」
矢継ぎ早に二階級の色魔法が激突。炎の槍と岩石の散弾。威力は互角、どちらも一歩も譲らない。
リゼは彼女と拮抗していることに高揚しながらも募っていた懸念に実感を覚えた。
(やっぱりスワンプに陥った……!)
それは、魔力総量の高い者同士がこうして魔法をぶつけ合い、しのぎを削るこの泥仕合な状況の呼び名である。
こうなると隙を作るか相手を上回る力で圧倒しなければ攻勢は変わらない。
さぁどう打って出る、とリゼは彼女の挙動を警戒していると、
「【ファイア・ボール】」
レティシアが仕掛けた次なる手は、無数の火の球を己の周りに漂わせるという行為。
疑問を浮かべる前に金髪令嬢は動いた。
「【フレイム・ランス】」
一つ一つの【ファイア・ボール】を炎槍に貫かせ、一斉に放つ。
田中リゼは前回とは異なる合成魔法を目の当たりにした。
「【フレイム・ボンバー・ピアス】!」
不規則な挙動で飛び交う燃え盛る玉針がリゼを襲う。
だが彼女は逃げる気配を見せなかった。ボロボロの杖を振り上げた。
轟、と風が唸った。
仰せて力強い上昇気流が彼女を中心として巻き起こる。レティシアの魔法はコントロールを奪われ、空へと吹き上げられていく。
「な、なんですの!?」
「風の魔法の応用だよ」
当たらずとも遠からずの返答を返した。
【南の逆風】。ウィズウッドが得意とする四陣の風魔術のひとつであり、未熟なリゼでは相手にそっくり返すという芸当までは難しく、代わりに上に逸らした。
やがて、制御を失った彼女の魔法がやがてステージに落ち、爆発。周囲を激しく揺さぶった。
爆風で土煙がステージを覆う。
(今だ……!)
足場の地面が隠れた隙にリゼは群青のシジルを展開した。上級魔術を気取られぬように発動させる。
上空に数多の青白い人魂が張り巡らされた。見たことのない光景に会場の見物客からは戸惑いと感嘆の声が漏れる。
「これは……」レティシアも例外なく見渡した。
(──【愚者の鬼火】!)
「行くよレティシア……!」
リゼの指揮の下、蒼炎の火球が四方八方から相手を中心に集う。
目も眩む連鎖爆発が起こった。
だが、自分の得点ランプを確認しても三つの内いずれも光を灯っていない。決定打になっていない証拠だ。
「んなっ!? なにそれ!」
やがてその場に現れたものをリゼは一瞬光る建築物と錯覚した。
その正体は丸い魔法障壁──【シールド】なのであるが、正面体に貼り巡らせていた。
しかもそれが三層にも積み重なり、堅牢な結界と化している。
「【シールド・プリズン】。あの者の屈辱から学んだオリジナルの防御魔法ですわ」
どうやら以前ウィズウッドにこっぴどく敗北した経験からこのような魔法を編み出したらしい。
結界を解き、土埃を払うような仕草を見せてレティシアは言う。
「さきほどお見受けした貴女の魔法も初めて見ましたわ。名前は?」
「え?」
「魔法において名はその魔力現象の体を為す。反覆する上でも安定させるのに不可欠なもの。まさか名付けていらっしゃらないので?」
「あ、あー……【アズール・ファイア・ボール・スウォーム】……」
「少々長たらしくありませんこと? まぁ、そんなことよりも」
即興で考えた魔法名にレティシアから不評をいただくがこころなしかその声音は朗々としていた。
しかも不敵な微笑までたたえている。
「変化を主張するだけはありますわ、それでこそ待ち続けた甲斐があったというもの」
「レティシア……あのね」
「杖を降ろしてはなりません。試合の途中ですの」
戦意すら解こうとしたリゼを彼女は制止する。
「ええ、わたくし、ずっと怒っておりましたとも。貴女がこの世界から脱落しうらぶれたことへのやるせなさもさることながら、お止めできなかったわたくし自身の無力さにも」
後悔をしていたと打ち明ける。
「そんなことも露知らず、このまま和解をしようだなんてそうは問屋は降ろしませんわ」
「……」
「この場で証明なさい。このわたくしと対等に立てるという実力を」
それが二人の仲を元通りにする為に必要な過程であると。
リゼの心臓が再び早鐘を打ち始める。ずっと背けてきた恐れ、重圧感と遂に向き合う時がきた。
いや、それだけではない。これまでとは違ってそれが不思議と不快にはならなかった。
その言葉に強く頷いた矢先、
「さぁ、油断大敵、ですわ」
「え?」
彼女が杖を差し向け、さっきの多重防御魔法が今度はリゼを取り囲んでいた。
「お忘れかしら? これは【シールド・プリズン】なのですわよ?」
その由来は言うまでもなく相手を閉じこめる為のもの。
「うわズルい! 人が言い分をきちんと聞いていたのに!」
「赤の二階【フレイム・ランス】。赤の一階【ファイア・ボール】」
それからレティシアは合成魔法を組み立て始める。
リゼは当初、ウィズウッドに扱き下ろされた【フレイム・ボンバー・ランス】なのかと思っていたが様相がやや異なっていた。
火球を炎槍に貫かせるのではなく。槍の後尾に火球を乗せるという芸当に変更している。
ゴルフボールを乗せたピンのような形状のものが三発ほど完成した。
「【フレイム・ボンバー・ファランクス】」
「また新技の披露。でもまた逸らして……──あっ!?」
言い掛けて魔族の少女は気付く。自分はこの障壁の牢獄で逃げ場を奪われただけではないのだと。
密封されたこの中では強い風を起こすことはできない。ましてや、他の攻撃魔法で迎撃しようにも内側から阻害されてしまうであろう。
「さて、これをどうなさいますか!」
そして差し向けられたそれらが目前まで迫った時【シールド・プリズン】は解除され、リゼの懐で着弾する。




