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棄却と魔王会議


「どういうつもりもなにも、言葉通りの意味ですよ」

「言葉通りって……そんな決まりはないでしょう!」

「決まりがなければなにをしても許される? これはまたモラルを蔑ろにした物言いですなぁ。先生?」


 川上ムンナは特徴的な突き出た顎を掻く。

 面談室で清水ニーナに問い詰められた彼であったが余裕を崩さない。



「彼等の活動は誰にも迷惑をかけておりません。そもそもチームメンバーが四人では認められないという話がおかしいんです。現にハンデとして扱われた上での出場される例はいくつも御座いますし、最悪校内のチーム同士であれば生徒を組み替えられることだって可能な筈ですが」

「それって他のチームとも提携できる前提でのお話ですよね。貴女が不思議と目にかけていらっしゃる魔族の田中くん森野くん、獣人の鈴木くん、ついこの前編入した半蜥蜴人(デミリザードマン)の坂本くん……実に異色の組み合わせだ。あえて悪く言い換えれば、あぶれ者の集まりです」



 向き合うエルフの女教師はわずかに顔をしかめそうになった。ぐっと堪えて反論する。

「あまりに侮蔑的な発言です。生徒と向き合う教職員としてあるまじき不公平ではありませんか」

「綺麗事にも限度というものがありますよ清水先生。真の公平ならば人種個性、特異性、というものを含めて生徒それぞれに判断を下すべきです。必然的に起こり得る不条理や格差も時には受け入れなくてはならない。その上で貴女のように苦言する者が現れる、そこが問題なのですよ」

「問題……?」

「そう。浅い公平を訴え、そこで生じる被害を周囲が被ることを私は懸念しています」


 巧みな話術によりあたかも中立で互いのことを考えた上での判断に見せかけているが、薄っぺらい笑みと同じようにその陰湿さが透けていた。


「具体的に申しますと、人でない種族が寄せ集まった頭数の揃っていないチームなどが活動しようものなら、あたかも我々が仲間外れにしているようで世間体に我が校の管理責任が問われます。そこはお分かりですよね?」

「……」

「そして顧問であるこの私が目を光らせるべき案件なのです。チームの欠員を集まらないからと依怙贔屓するわけにはいかないんですよ」

「……それで彼等の公的な活動を認められない、と?」

「ええ、このまま許可を出すなんてとてもとても……」




 ニーナが帰宅するなり早速四人は机を囲って会議が始まる。

「うぇぇん面目次第もございませぇぇん陛下ぁぁー」


 彼女はことのあらましを話し終えるなり、クッションを抱いて年甲斐もなくわっと泣き出した。

 主君や教え子を馬鹿にされてかつ言いくるめられてしまったことが悔しくて悔しくてしょうがなかったらしい。リゼは最近の彼女に慣れつつもあまりこんな風に泣きつく姿は見たくないなぁと思って苦々しく目を細めた。


「仕方あるまい。そやつの申すことにも一理ある。アレスター殿もその意見には賛同していたのであろう」

「……ぐすっ、そうなんです。校長先生にもお話ししたところ、その言い分はもっともであり、顧問の川上先生の決定ならばそれを口出しする権利はないと」


 更なる上の立場への直談判も既に失敗していたようで、鶴の一声は叶わなかったらしい。


「あァーん? なーんかいけすかねェなその川上ってセンコー。いっちょ今から家まで飛んでいい具合に火柱立ててくっか?」

「よさぬかドゥーゴ、ちからずくでは元も子もない。それは最後の手段だ」

「いや手段の視野に入れちゃダメなやつだから! 放火は犯罪ダメせったい!」


 魔王とドラゴンの物騒なやりとりにリゼは焦って諫める。二人は「冗談だ冗談」「そのような野蛮な真似早々行う筈なかろう」と軽い調子で流していたが何処まで本気なのかは定かではない。


「ともあれ、現状我らの活動はのっぴきならぬということだな」

「そうですね。個人で出場する試合ならば参加できます故、ひとまずはそちらの分野でのご健闘を推奨いたします」


 ニーナは言った。近日中にも魔戦興行(ウォーゲーム)の大会が開催を予定している。

 Dランク──決闘(デュエル)方式の個人戦は中高大と学年を問わず学生達がごぞって参加する選手を目指す者達にとって大イベントである

 一行は既に登録を済ませている。集団戦でなければ参加資格ができる以上、見逃す手はなかった。



「じゃあそれが終わったら他にも生徒をまた探さないといけないね。どうにかボルタとドゥーゴが入ってくれたけど」

「お力になりたいのは山々ですが私は教職の身ですし……」

「んなの他の生徒に入らせりゃいいじゃねェか」

「同志を募る試みは既に失敗しておる。それにおぬしやボルタのような見込みある手駒でなくては意味がない」

「そこまで言うならウィド、その見込みがある生徒は他にいるの?」

「いない、とは断言せぬ。が、懐柔させるにあたって一筋縄でいかぬ者達よ」

「誰?」



 腕を組み相も変わらず憮然とした態度てウィズウッドは答えた。



堀門(ほりかど)ギルバート、あるいは星村レティシア」

 聞くなりリゼはドキッとしたり青ざめたり忙しい変化を起こす。



 ギルバートは容姿端麗の貴公子然とした容姿で、ウィズウッドに関心を抱き接触してきた少年。その振る舞いと甘い声に魅了され、校内でも学年問わず女性ファンが後を絶たない。


 レティシアは女子グループの派閥のトップにして大企業のお嬢様。

 気丈で高飛車な性格から以前ウィズウッドととも衝突した過去がある。

 金髪碧眼や容姿端麗な容姿から絵に描いたような貴族を彷彿させる二人である。


 田中リゼにとっては憧れと気後れをそれぞれ抱く人物達だ。



「ほ、堀門先輩はさすがに無理でしょ……以前も言ってたじゃない『先約がいるから断っておく』って」

「うむ、私情を交えるが余としても御免被るわ。風聞だけで未だにあやつの力量を測りかねてもおる」

「……じゃあ星村、なの?」

「まだまだ未熟であるが人間の身でありながら魔力の潜在能力も高く独創性も豊かで伸びしろもあった。検討の価値はあろう」

「確かにあの子は多分……あたしより強いと思うけれど……あたし達に組入るつもりなさそうだよ」


 そこはかとなく仲間に入れる案が採用されないような流れに誘導した。やはり本人としても気が進まないらしい。

 

 そこでウィズウッドは次なる手を打った。


「現状としては、であろう。よって田中リゼよ、余の名において命ずる。こちらの軍門に降るよう、星村レティシアを説得して参れ」

「……はぁああああああああああ!?」


 仰天するように目を剥いた魔族の少女。

「いやいやいや! なんであたしがやるの!? ボルタやドゥーゴの時みたいにアンタが丸め込めばいいじゃん!」

「あやつを引き入れるにはおぬしとのわだかまりを解くことも課題になっておる。なればおぬしが交渉に向かうことが最適解ではないか」

「あーそりゃァあれだな、一回のことで二つの益をとるっていうことわざの……一擲二頭(いってきにとう)ってやつだろ?」

「正しくは一石二鳥(・・・・)、ですねドゥーゴ様。ですが陛下、それはあまりに酷な話では……」

「そなたがこの先似た問題に直面する度べそを掻くよりかは幾分話が早い」

「うっ」


 といったやりとりを尻目に、うにょうにょと不自然な形に口をゆがめてリゼは彼女との苦々しい想いを反芻させている。

 これまでのことを思い返せば結論は既に分かりきっていた。あえてことわざで言えば二兎を追う者は一頭も得ず、になるだろう。



「あのね、あたしが言っても絶対断るよ。それどころか逆効果。だって星村、あたしのこと毛嫌いしているから」

「ではぬしはどうなのだ? 微かながらこれまでのやりとりを聞き様子を見た限りでは、なにやらあやつと因縁浅からぬ仲のようではあるが、現状を鑑みれば改善を検討してもよかろう」

「うぅ……またそうやってこの前みたいに引っ掻き回す~……。たまたま上手くいったかもしれないけど、星村とはまた別」


 しかしウィズウッドは折れない。


「ではあやつを実力で認めさせればよい。この度の試合、恐らくは星村レティシアも出場するであろう。おぬしが軽い挑発でもすれば容易く乗るぞ?」

「ないない、ないないない。そもそも試合でぶつかるとも限らないし歯牙にも掛けてこないと思うからねー。はい終わりこれでこの話はここまで、大会に向けて特訓頑張ろうねはいはいー。さぁ今の内に勉強もしないと」

 すくっと立ち上がり、そそくさとリゼは二階へ直行する。


「完全に逃げたぞアイツ」

「それは逃げるでしょう……繊細な年頃なのですので陛下ももう少々……」

「侮るでない。曲がりなりにもアレは余の後裔だぞ? 必ずややり遂げよう」

「どっから出てくんだがその自信は」

「さ、さぁ……」




 そして後日。


「貴女がこのわたくしを呼び出すとは随分と思いきった行動をとりましたわね、田中さん」

「ほ、星村、急にごめんね」


 結局学校で彼女を呼び出したリゼは、外の渡り廊下で向かい合う。

(やっぱりおかしいよこれぇえええ! ウィドのあんちくしょぉおおお!)


 後悔と逆恨みが募った心の叫びは、誰にも届かない。

今年最後の投稿です

皆様よいお年をお迎えください

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