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ミルグラム戦記 ―悲愛界変の綴り―  作者: 井藤司郷
第6章<先輩冒険者編>

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第94話「鋼鉄の相棒」

 ニョスニさんと別れて借家へと戻るとルミルとココハも帰って来ていた。神殿の前で会った女の子に街の中を案内して、お手頃な宿を一緒に探してあげたそうだ。明日からは加入させてくれるパーティーを探すんだろうな。二人のことだから俺たちのパーティーにって連れて来るのかと思ったけど、そうはしなかったみたいだ。


「ここは居心地がいいな」

 ナナトさんもまだ居間で寛いで待っていた。


「…ナナトさんも、こっちで暮らしますか?」

「そうだな。それもいいかもしれないね」

「あの宿はどうするのですか?」

「どうなるんだろうね? おれにも分からないかな。まぁ、まだしばらくは向こうにいるつもりだけど」

「あら、こっちへ来たらレイトと一緒に雑用係として働いてもらおうと思ってたのに」

「ははっ、普段のおれはあんまり働き者じゃないよ?」

「……そうですね。いつもベッドの上でゴロゴロしています」

「それは、マキアが家事とか全部やっちゃうからさ」

「それならもう、マキアを行かせるのは止めようかしら?」

「……そうしようかな?」

「そっかー。残念だなー」

 ナナトさんがまた棒読みみたいに言った。


「二人とも、ナナトさんにそういう揺さぶりとかは通用しないよ。全然動じないんだよ……この人は」

「レ、レイトくんは何度も仕返ししようと……してたよね?」

「うん。いろんな意味で、ナナトさんには勝てる気がしないよ」

「はははは……」

「はぁ……。まぁ、何を言ってもマキアが行きたそうにしてるのはバレバレだしね?」

「そんな……こと……」

「…マキアさん、バレバレです」

「おれはマキアが来てくれたら嬉しいけどね?」

「…………」

 マキアが照れて固まってしまう。そろそろ話題を変えてあげようかな?


「みんな、いいかな? 魔界(アント)の報酬は一人銀貨四十枚だったわけなんだけど、生活費としては今のところ十分だと思う。それで……改めて次の狩りについてなんだけど」

「あたしは……ユトの丘でいいわ」

「……いいの?」

「あたしはあの場所で二度も仲間を失ってる。その時のいろんな気持ちを払拭しないといけないと思った。この前レイトが言ってたけど、アイツの仇討ちとか……そういうことじゃなくて、あたし自身が前へ進むために必要なことだと思うのよ」


 ルミルのような強い女の子でも人の死に何も感じないなんてことはない。ジェニオのことはもちろんだけど、最初のパーティーのことも気にしてないように見えて、実は引っ掛かりになってるんじゃないかなって思えた。


「…私も、あの時は怖くて何もできなくて……泣いてばっかりで。強くなりたいって思ってたのに、また立ち止まっちゃった気がして。だから……やり直したいの。もうジェニオくんはいないけど、ジェニオくんの分まで強くなれたらいいなって……思うの」


 ココハはジェニオのことはどう思っていたんだろう? いきなり大きな声で驚かされたり、あの不快な話し方で怖がらされたりしていたけど。でも、風鋭刃(シャープネスウインド)をイメージした時のことなんかは感謝しているんだろなって思う。なんだかんだ、ココハの魔法についてはあいつ……いつも褒めてたよな。


「ボ、ボクは、ジェニオくんにさよならも言えなかったのが……悔しかった。ボクはみんなを守る盾なのに……守れなかった。ボクもココハさんと同じ。強くなりたい。あの場所に行って何かを見つけられたらいいなって……思うんだ」


 ブレンは誰よりも体格が優れてて、一番危険な場所で一番危険な攻撃を受ける役だ。でも、人間だから怖いって思うのは当たり前で、それを勇気で振り払って踏み留まっていてくれる。きっとブレンにとってのジェニオは、前しか見ることのできない自分の背中を預けられる……そういう存在だったのかもしれない。


「わたしは……みんながわたしにしてくれたみたいに手伝いたい。ブレンとは違うけど、わたしにもみんなを守れる力があるはずだから」


 仲間を失った時のつらさはマキアが誰よりも知ってる。俺たちの時とは違って一緒に泣いたり、慰めてくれる人もいなかった。忘れることなんてできないけど、それでも立ち直ることはできた。前へ進もうという気持ちさえあれば。


「みんなが納得できる答えは出たみたいだな」

「……はい!」

「それぞれに課題もあるだろうし、おれはそれを監督することにするよ」

「ありがとうございます」

「それにしても……不可解だな。どうしてユトの丘にワイバーンがいたのかっていうのは」

「そう……ですよね、やっぱり。竜人族が飼ってる翼竜ってことらしいですけど、こんな街の近くにいるんですかね?」

「んー。どうだろうね。上位五種族や下位五種族っていうのは種族間の力関係だけで決まっているわけではなくて、人間族に匹敵する知性を持っている種族ってことだったり、人間族を超える圧倒的な何かを保有しているってことなんだけど……ワイバーンは正確には竜人族には当てはまらない」

「それじゃあ……えっと?」

「おれたちにとっての獣族みたいな感じかな。言うなれば竜族ってことになるのかな? つまり……竜人族じゃないと飼えないってことではない」

「そ、それって、人間族でもワイバーンを飼えるってこと……ですか?」

「飼える。でも、普通は飼おうなんて思わないけどね。飼い慣らせるとも思わないし」

「ですよね。あんなの……人間には無理ですよ」


 仮に誰かが飼い慣らしているのだしたら、俺はその人を許せないだろう。シシノ平原、コイマの森、ユトの丘は新人冒険者もよく通う狩場なんだ。そんな場所に野放しにしているなんて考えられない。きっと、運が悪かっただけなんだ。たまたま翼を休ませる為にユトの丘の頂上で休憩してて、腹が減った頃にたまたま俺たちがやって来たから襲った。そんな感じだと思う。


「とにかく、明日からはユトの丘に……あ、ダメだ……」

「どうかしたの?」

「……ごめん。俺……剣が無いんだった。忘れてた」

「そういえば折れてたわね」

「…買いに、行く?」

「うん。悪いけど……明日は午後からでいいかな?」

「ええ」

「あたしも一緒に行こうかな。替えの冒険着を買っておきたいのよ」

「…私も、一緒に行きたい」

「そっか……じゃあ三人で行こうか。ブレンはどうする?」

「ボ、ボクは……留守番しておくよ」

「分かった」


 ちょっと意外だった。だって、ルミルならココハを連れて二人でって言いそうだったのに。俺が一緒で良かったのかな?



 ――次の日の朝。俺たちは武具屋の並ぶ通りへとやって来た。まずは俺が扱える片手剣のある店を探す。


「行きつけの店とかはないわけ?」

「ないよ。というか、俺が使ってた剣って修練室にあったやつだから、武器を変えるのって初めてなんだよね」

「…大事に、してたんだね?」

「そうかな……うん。変えるタイミングがなかっただけかもしれないけど」

「どういうのが良いとかってあるの?」

「うーん、今までと同じような感覚で使えるものがいいかな」

「それなら実際に手に持ってみた方がいいわね。適当に入りましょ?」

「うん」


 ルミルの買い物はわりと手際よく進めるんだな。女の子ってもっとのんびりするものだと思ってたけど。


「…たくさん、あるね?」

「うん。デザインが違うだけで重さや長さ、値段もだいたい一緒みたいだ」

「この辺にあるのはそうかもね。より良いものはあっちじゃない?」


 そんなに広くはない店内。扉から入ってすぐ右側の壁沿いには一般的な片手剣がデザイン毎に柵の中に差し込まれている。店の中央には似たような見た目なのに値段の高い剣が机の上に並べられている。


「これはなんで高いんだろう?」

「向こうにあったのは鉄製の剣で、こっちのは鋼鉄製の剣だからじゃない?」

「ああ、こっちのは鋼なんだ? 分からなかった」

「まぁ、あたしたちみたいな素人には見た目じゃ分からないわよね」

「うん……ってルミルは分かってたんじゃないの?」

「……あたしもナナトに教えてもらったからね」

「ああ、なるほど」


 ルミルの小剣を買いに行ったであろう時に聞いたのかな? ルミルのは鉄製……だよな。練習用も兼ねてたんだろうし、最初から高価なものには手を出せないよな。


「…あの、壁に飾ってあるやつは?」


 店の左側の壁には派手な剣が飾られている。一応値札もあるし……売り物ってことなのかな?


「あれは何かしらの魔法効果が付与されてる武器らしいわよ?」

「へぇー、そういうのもあるんだ」

「買ってみる? 買えるなら……だけど」

「ん?」

 俺は一番近くに飾られていた剣の値札を見てみる。


「は!? 金貨五十枚!?」

「ちょっと! うるさいわよ!」

「あ、ごめん……でも、金貨五十枚って」

「…銀貨一枚で銅貨百枚、えっと……金貨は?」

「金貨はね、一枚で銀貨千枚分なのよ」

「…えっと、それじゃあ金貨五十枚は……銅貨何枚分?」

「さぁ……何枚だろうね? ちょっと数えたくないかも」


 俺もルミルも答えないからココハは仕方なく指を折って数え出した。いやいや……指足りないでしょ? というかその数え方だと何日かかるか分かんないって。


「どうするの?」

「うん、鋼鉄製のやつにしようかな。今までの貯金もあるし、また折れたら嫌だしさ。少しでも耐久性のあるやつがいいな」

「そうね。鋼鉄製なら銀貨数十枚ってところだけど……予算は?」

「とりあえず、魔界(アント)の報酬分で」

「銀貨四十枚ね。これなんかはどう?」


 ルミルの選んだ剣を持って構えてみる。長さは八十センチくらい。重さは……前のと同じくらいかな。加工されていて、きちんと鍛え込まれている。その手間賃で高値になってるんだろうな。


「うん。これ、いいかも」

「…レイトくん、かっこいい」

「そう? かっこいいのはレイトじゃなくて剣なんじゃない?」

「ははは、そこは訂正しなくてもいいんじゃないかな?」

「あはは!」

「それじゃあ、買ってくるよ」

「…うん!」


 新しい剣を背中で担ぐ。なんだか心が踊るような気持ちになる。喜んでるのかな? うん、喜んでる。早く試し斬りとかもしてみたいな。


 そのまま次はルミルたちが冒険着を見に行く。そうだ、俺も新しいマントを買おうかな。クテルさんに貰った漆黒のマントは赤い兵隊蟻(ポーン)の火の玉に燃やされちゃったからな。


「俺もちょっと見てくるよ」

「分かったわ。あたしたちはこの辺りの店にいるから」

「うん」


 適当に軽装備の防具を扱っている店に入ってみた。冒険着は動きやすい服なら何でもいいんだけど、ジェニオが着ていた軽量の鎧くらいなら俺でも着れるかな? 重くて動きが鈍るのはちょっと困るんだけどね……。しばらく悩んで、やっぱりマントにすることにした。夜の闇に紛れ込みやすかったり、投げて相手の視界を塞いだりするのが性に合ってる。色は……漆黒。これは単に俺の好みかな。


 時間をかけすぎたかなと急いで戻る。でも、ルミルとココハはまだ一軒目の店で服を選んでいた。あれ? 手際よく進んでないな。……もしかして、自分たちの服選びに時間を使いたかったから俺の時は適当に済まされた?


 ……まぁいいけどさ、気に入ってるし。そんな風に自分に言い聞かせながら、ルミルとココハの買い物が終わるまで店の外でボーッと立ち尽くしていた。

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