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ミルグラム戦記 ―悲愛界変の綴り―  作者: 井藤司郷
第6章<先輩冒険者編>

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第93話「新人冒険者たち」

 魔界(アント)の討伐遠征から戻った翌日の昼前。俺たちはその報告をするためにアムリス神殿へと足を運んだ。


剣士(フェンサー)レイト、盾士(ガーディアン)ブレン、弓使い(アーチャー)ルミル、神官(プリーステス)マキアよ。魔界(アント)の駆除および、女王蟻(クイーン)の討伐ご苦労であった。今後も神殿を守護する戦士としての働きを期待する」


 確か……司教と名乗っていたこの老人は、修練室を出たばかりの俺に剣士(フェンサー)のクラスを与えてくれた人だ。


「あの……いいですか?」

「申してみよ」

「はい。なんでココハの名前は呼んでくれなかったんですか?」

「んん? おお、そうか。これは失礼をした。その娘にはクラスが与えられておらぬようだが?」

 何か資料のようなものに目を通しながら言った。


「ここを出るときはそうでしたね。でも、今では精霊術士(エレメンタラー)を名乗る俺たちの大事な仲間ですから」

「ほう……それは申し訳なかったの。では、精霊術士(エレメンタラー)ココハよ。そなたもご苦労であったな」

「…は、はい」

「それと、あたしは剣弓士(ソードアーチャー)。レイトは幻影剣士(シャドウフェンサー)って名乗ってるから……それも改めておいて」

「……承知した」


 意外と素直に聞いてくれるんだな。赤い十字の刺繍が入った黒いローブの人間でも司教と司祭では違うのかな? いや、ヤルミさんも話を聞いてくれる人だし、神殿の位とかは関係ないのかもしれない。


「では、行きなさい。女神アムリスのご加護があらんことを」

 その老司教は額の前で右手を十字に切っていた。


 俺たちは神殿の入り口にある門へと向かう。もう衛兵から出入りの度に紋様を見せろとは言われなくなっていた。同行者の中にマキアがいたからなのかもしれないけど、きっと、以前のやり取りがあったから、ヤルミさんが手を回してくれたんだと思う。そのヤルミさんとはしばらく会えてはいない。命の契約のこととか、できれば紋様のことについても、もう少し詳しく聞いてみたいと思っていたんだけどな。


「ちょっとぉ! いきなり追い出されても困るんやけどぉ!? これからどうすればええんかくらい教えてやぁ!!」


 門の前で少し訛ったような話し方をする女の子が衛兵に向かって怒鳴っているのが見えた。以前のココハのような黒いローブを着て、茶色っぽい髪を首の横辺りで両側を髪留めで縛っている女の子。背はマキアと同じか少し低いくらいかな?


「なぁ、聞いてんのぉ!?」


 女の子は再度問いかける。しかし、衛兵は軽くあしらうだけで相手にしようとはしない。女の子は「意味分からんわぁ!!」と言って階段を下りていく。


「も、もしかして、新人冒険者の……人?」

「そういえば、半年に一度集められるって言ってたね」


 そう言っていたやつの顔が頭に浮かんで、不快な気分になった。


「…声、かけたらダメかな?」

「え? あーダメではないと思うけど」

「いいわ。あたしが行ってくる」


 そう言ってルミルが階段を駆け下りていく。女の子に追いつくと何か声をかけている。本当にルミルはこういう時の行動が早いよな。


「…私も、不安だったから……分かるの」

 ココハが小さな声で言った。


 思い返してみれば、ここでココハと再会してから冒険者として歩み始めたんだよな。懐かしいな。もう半年か……まだ半年? 短いようで長いような……でも、濃い内容の半年だったな。


 思い出に浸っていると、ルミルが女の子を連れて戻ってきた。女の子は強がっているような表情をしているが、不安そうな感じは隠せていない。


「レイト、あたしはこの子に街の中を案内してくるわ」

「あ、うん。分かったよ。素材の換金とかはこっちでやっておくよ」

「悪いわね」

「…私も、行ってもいい?」

「ココハも一緒に案内してくれるの?」

「…うん」

「それじゃあ、ココハも連れて行くわ」

「分かった。行ってらっしゃい」


 ルミルとココハが女の子と一緒に再び階段を下りていく。


「あ……」

「……ブレン?」

「あ、ううん。なんでも電話ないよ?」

「そっか」

「わたしたちは……換金屋へ?」

「うん。あ、その前にニョスニさんを探したいかな」

「そう。分かった」


 俺とブレンとマキアの三人で市場へとやってきた。商人は街の至るところで商いに勤しんでいる。ニョスニさんも今日はどこにいるのかとかは分からない。この街は大きい。一日では回りきれないほどに。


「い、いないね。どうしよう……か?」

「うーん。できれば先にニョスニさんに素材を見て貰いたかったんだけど」

「もう少し探してみる?」

「そうだね。ごめん、悪いけど手伝ってくれる?」

「ええ」

「ボ、ボクは武具屋の方に……行ってみるよ」

「うん。俺は裏通りを探すよ。マキアはこのまま市場を回っててくれる?」

「分かった」

「それじゃあ、次の鐘が鳴ったらまたここに集合で」


 俺たちは手分けしてニョスニさんを探す。いつもは困ってると向こうから現れるんだけど、いざこっちから探してみると見つからないもんだな。


 大通りから外れた先に、通称……裏通りがある。酒場など主に夜になると活気立つ店が並んでいる。とはいえ、酒場は相変わらず昼間でも賑わっていた。店内を覗いてみるがニョスニさんの姿は見当たらない。


「どうせならさ、オレたちでパーティーを組もうぜ!」

「それいいな!」

「でも……三人って少なくない?」

「それなー」


 そんな会話が聞こえてきた。あの冒険者たちも新人なのかな? なんだか懐かしい。俺たちもあんな感じだったのかな。余計なお世話かもしれないけど……か。


「……ちょっといいかな?」

 俺は思いきって声をかけてみた。


「あ? なんすか?」

「うん、えっと……君たち新人だよね?」

「……だからなんすか?」

「実はさ、俺たちも同期で組んだパーティーだったんだけどさ、最初はすごく苦労すると思うよ。だからさ、アドバイスって言うかさ……最初はヒーラーをさ……」

「ちっ……コイツうざくね?」

「マジで。悪いけどメンバー募集とかはしてないんで」

「つーか、めっちゃ弱そうじゃね?」

「それな!」

「……そっか、ごめん。邪魔したね」


 ……はぁ。ナナトさんみたいには上手くいかないな。こういうのはやっぱり向いてないのかも。なんで俺あんなことしたんだろ……はぁ。俺は後悔しながらも市場の方へ戻ることにした。途中で時計塔の鐘の音が聞こえた。ちょうど良かったのかな。集合場所では先にマキアが待っていた。


「どうしたの? なんだか……落ち込んでる?」

「ははは、ちょっとね。どうだった?」

「見つからなかった」

「そっか。こっちもダメだったよ」

「そう……どうする?」

「……ブレンの方もダメだったら一度戻って素材を取りに行こう。いつまでも置いてはおけないし」

「ええ」


 結局、ブレンの方も空振りだった。俺たちは借家へと戻ることにした。途中で昼飯にサンドイッチを買って食べた。遠征中は食べられなかったから久しぶりだったし、すごく美味しく感じた。


 借家に近づくと誰かが会話している声が聞こえてきた。


「ほほー! これはとても素晴らしいですよ!」

「そうですか。レイトも喜びますよ」

「これでまた新しい道具が開発できるかもしれませんからね!」


 庭の鉄格子のような門をキキィ……と音を立てて開く。話していた二人がこちらを振り向く。


「おう、おかえり」

「ナナトさん。それに……ニョスニさん!?」

「おやおや、おかえりですかな?」

「どうしてここに?」

「おれたちが帰ってきたって聞いて様子を見に来てくれたんだそうだ」

「そう……だったんですか」

「ご迷惑でしたかな?」

「いえいえ! 実は俺たち、今ニョスニさんを探して街を歩いてたんですけど」

「それはそれは! 申し訳ないことをしましたな」

「でも、会えたから良かったんじゃない?」

「そ、そうだね。ちょっと散歩したと……思えば」

「ははは」


 こんなことならまっすぐ帰ってくれば良かったかな。そうしたら、あんな後悔をすることもなかったのに。まぁ、今さら言っても仕方ないことだけど。


「レイト、魔界(アント)の卵……買い取ってくれるってさ」

「あ、本当ですか!?」

「はい、是非とも買い取らせて頂きますよ。あまり大きな額にはなりませんが」

「いいですよ。それは元々ニョスニさんへのお礼のつもりで持って帰って来たので」

「そうですかそうですか。いつもありがとうございますね」

「今回の道具はすごく助かりましたし、遮虫剤の効果も抜群でしたよ?」

「それは何よりですな!」


 それからニョスニさんが運搬用の荷車を取りに行き、俺とブレンで魔界(アント)の素材を積み込んだ。ナナトさんは腹が空いたからと玄関の扉の鍵をマキアに開けさせて借家の中へと入って行った。マキアもルミルがナナトさんのために用意していた食事を準備すると言って台所へと向かった。


 ブレンと一緒にニョスニさんの荷車を運ぶのを手伝って、そのまま王国に討伐申請をする方法を教えてもらうことになった。アムリス神殿からは何も与えられなかったし、懸賞金が出ているのならと試しに申請してみることにした。


 それはルトナの街にある裏通りの……更に暗い路地裏へ入った所にあった。石で作られた小屋みたいな場所。ここが王国ギルドのこの街での支店のようなものらしい。


 術士(メイジ)のような格好をしている人に魔界(アント)の女王を討伐したと伝えると、何やら魔法道具のようなもので王都にある本部と念話みたいにして話を始めた。懸賞金の受け取りには討伐したという証拠が必要らしい。それは剥ぎ取った素材とかでもいいらしいけど、今回はニョスニさんの言葉だけで信じてもらえた。それだけ信頼されているということだろうな。外にある荷車に素材は乗っているわけなんだけどね。


 魔界(アント)の討伐は各地で行われたらしいけど、やっぱり他では女王蟻(クイーン)を発見できなかったらしい。全てがあの女王蟻(クイーン)と同じ集団だったということだろう。本当にたまたま俺たちが行った時にあの巣穴に訪れていただけなんだな。外れクジなんて言ったけど、本当にどんな確率で引き当ててるんだろうな。


 念話が終わり、懸賞金の入った皮袋を渡された。支店を出てニョスニさんからも買い取ってもらった素材の代金を受け取る。


「今回もいろいろとありがとうございました」

「いえいえ、また宜しくお願い致しますね?」

「はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」

「ではでは」


 ニョスニさんとはそこで別れた。俺とブレンも借家へと帰る。今回の報酬をみんなで分けないとな。兵隊蟻(ポーン)司令塔蟻(ルーク)の素材で銅貨七百枚。魔界(アント)の卵は銀貨三枚。女王蟻(クイーン)の素材は銀貨四十枚。そして、女王蟻(クイーン)の討伐報酬は銀貨百九十枚だった。


 さすがに魔獣マンティコアよりは懸賞金が低かったけど、今回は解毒薬みたいな出費もなかったから、結果的に前回よりは利益が出たのかな。まぁ遠征の準備でいろいろと買ったからそうでもないかもしれないけど。


「お、重い……」

「ブレンがいなかったら運べなかったね」


 俺が持ってる銀貨二百三十三枚の入った皮袋はまだいいんだけど、ブレンの持つ銅貨七百枚の入った皮袋は重いだろうな。これ、本当は銀貨七枚に両替して来た方がいいんだろうけど、銅貨で売っているものは銅貨でしか買えないから、銀貨だけ持つわけにもいかないんだよな。

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