第83話「兵隊蟻の弱点を探せ」
「よし、サボってる兵隊蟻がいる。あれにしよう!」
今日からは魔界蟻と戦闘をしてみることになった。巣穴からは少し距離があるけど、戦闘が始まると増援が来るのかどうかはまだ分からない。いろいろと確かめないといけないことがある。
「ブレンが先頭で俺がサポートする。ココハは後方からいつでも狙えるようにしてて」
「…はい!」
「ルミルとナナトさんはマキアを護衛しつつ、もし増援が来たらそっちをお願いします」
「……それ、あたしに対しても敬語になるからなんか調子狂うわね?」
「え? でも……仕方ないって」
「リーダー。指示を出す時くらいは敬語なんて使わなくてもいいよ? もっと言えば、おれは普段から使われなくても別に気にしないから」
「いや……えっと、はい、努力します……じゃなかった、するます」
「あはは。なによ、するますって」
「……作戦開始! ブレン行こう!」
「う、うん……!」
慣れないことはするもんじゃないな。目上の人みんなに敬語を使わないといけないなんて思ってるわけじゃないけど、ナナトさんにはここまでお世話になってて頭が上がらないんだよな。まぁ俺は俺らしくやるよ。
ブレンが左手の盾を構えながら兵隊蟻に接敵した。それでも攻撃してきたりはしないみたいだ。俺はブレンの横に回り込んで剣を振り上げ、兵隊蟻の胴体に向かって振り下ろした。
キーン……と高い音が響いた。俺の剣は胴体を斬ることはできずに弾かれてしまった。こいつの甲殻は硬いのか。
「シャァァアア!」
兵隊蟻がこちらを向いて威嚇するように鋭い刃のような口を開いてみせた。俺はすかさず頭部に向かって剣を振る。キーン……と再び弾かれる。
「こいつ……硬っ!」
兵隊蟻は遂に動き出して噛み付こうと近づいてくる。ブレンが間に入って防御の体勢を取る。
「ココハ!」
「…風鋭刃!」
高速に回転した刃がブレンを避けるようにして飛んでくる。それは兵隊蟻の胴体に直撃したが、俺の剣と同様に斬り刻むことはできなかった。
「ココハちゃん、打属性に切り替えよう」
「…はい! 空気弾!」
次は圧縮した空気の弾丸がブレンの頭上を飛び越えてから落下してくる。兵隊蟻の硬い甲殻に直撃すると、メキッと音を立ててその胴体を潰した。
「お、おお……倒せたね」
「うん。打撃に弱いのかな?」
「レイト、増援はないみたい」
「うん、了解! これ……素材は取れるのかな?」
「どうだろう。でも、硬い甲殻は売れそうな気はするけど」
「そうですね、一応持って帰りましょうか」
割れた甲殻の一部を回収してから巣穴の様子を見に行った。どうやら、兵隊蟻を一匹倒したくらいでは変化はないみたいだ。
「何度か試してみよう。兵隊蟻を倒しても何の反応もしないなら、巣穴への侵入は容易いかもしれない」
「はい。えっと……その前に対策を考えたいです」
「そうだな」
思った以上に兵隊蟻の甲殻は硬かった。斬属性が通用しないなら俺だけじゃなく、ナナトさんとも相性が悪いということになる。きっとルミルの矢……射属性でも弾かれてしまうだろう。
「攻撃が通るのは打属性だけなんだとしたら……ココハの空気弾とブレンの攻撃……くらいかな?」
「ボ、ボクの……」
「うん。次に試してみたいんだけど、頼めるかな?」
「や、やるよ。その為に修練もしてきた……からね!」
「でも、攻撃手段があまりにも少なすぎない? 相手は狼よりも数に頼ってくるんでしょ?」
「そうだよな……うーん」
「もう少し試してみるしかないね。どんな敵にでも急所っていうのはあるものだよ。それを見つけよう」
「はい!」
急所……猪だと首元の血管だったな。確かに、ああいう弱点を攻めることができたらもっと楽になるかもしれない。相手のことを知る。知らないと勝てない相手だ。
再びサボっている兵隊蟻を探して戦ってみる。ブレンが防御で相手の攻撃を誘い、食らい付いた所へ盾を押し込み吹っ飛ばす。技能の反攻だ。兵隊蟻は吹っ飛んだ先でひっくり返り腹を上に向けている。必死に起き上がろうとしているのか、脚をバタバタと振っている。
「うぉぉおおお!」
ブレンが駆け寄って行き、右腕の盾を大きく振りかぶって殴りかかる。ようやく体勢を戻した兵隊蟻の甲殻に、盾の上部に付いている棘を押し当てる。甲殻はまるでガラスが割れるように砕かれて、兵隊蟻は緑色の液体を撒き散らして動かなくなった。
「や、やった……?」
「…すごい」
「やるじゃない、ブレンも」
「あ、ありがとう……」
「攻撃の瞬間を狙うカウンター技か。考えたね、これなら盾士のブレンにも攻撃のチャンスは作れそうだな。頼りにしてるよ?」
「は、はい……!」
そんなやり取りを聞きながら、俺は少し気になったことがあって兵隊蟻の死骸を観察していた。
「どうしたの?」
声をかけてきたのはマキアだ。
「……こいつらさ、頭部や胴体の甲殻はめちゃくちゃ硬いけどさ。腹の部分にはそれがないんだなって」
「ひっくり返った時の?」
「そう。それに、頭部と胴体の繋ぎ目っていうか……関節の部分になるのかな? そこも甲殻には覆われてない。もしかしたら……」
「急所、見つけたか?」
「ナナトさん……はい。たぶんですけど、斬撃が通るポイントもいくつかありそうです」
「やるな。こんなにすぐに見つかるとは思ってなかったよ」
「いえ……ブレンが吹っ飛ばした時にちょっと気になったので」
「レイトは本当によく見てるわね。猪の時もそうだったけど、観察力はかなり高いんじゃない?」
「そうかな? だとしたら性格かも? 気になっちゃうとさ、確かめたいって欲求が出てくることがあるんだよね」
「それはレイトの才能かもな」
「そんな……才能とかではないですよ」
「そんなことないんじゃない? レイトは仲間のことも相手のことも、そして全体のこともよく見えてるから」
「その集中力を一点に特化すれば、今回みたいに気づけることがあるのかもしれないな」
相手の急所を見つける才能……か。ジェニオがいたら『地味な才能だなあ!!』なんて言われそうだけど、俺がパーティーの為にできることが増えるなら良いことだよな。とは言っても、戦闘中にそんな集中して観察してる時間なんてないんだけどね。
――午後からは兵隊蟻の急所を確認するために、ナナトさんが狙ってみてくれた。俺の予測通りに刀は兵隊蟻の頭部と胴体の間をすんなりと通って斬り裂いた。
俺も試そうと何度か試みたけど、急所をピンポイントに攻撃するのはなかなかに難しかった。でも、ブレンが反攻で吹っ飛ばして転倒させれば、甲殻のない腹を剣で斬ることは簡単だった。俺の腕だとこっちの方がいいかもしれないな。
それにしても、ナナトさんとの力量の差はいつになっても縮まっていないことを痛感させられる。比べても仕方のないことだけどさ。まぁそれだけ心強い人が仲間にいてくれるっていうこと自体は嬉しいんだけどね。
「戦い方もだんだん分かってきたね。この調子なら近いうちに巣穴へ入ってもいいかもしれない」
「あたしはもう少し練習したい。穴の中だと弓矢は使えないでしょうし」
「そうだね。明日は複数を相手に連携の確認、明後日に最終確認をして……決行は三日後の予定で。拠点に戻ったらルミルはおれと修練をしよう」
「分かったわ」
――今日の兵隊蟻狩りを終えて、俺たちは拠点へと戻った。ルミルとナナトさんが修練をすることになったから、残りの四人で左側にある木々の地帯で小動物などを探しに出かけた。
今日の食料を確保すると拠点へと戻ってルミルの修練をブレンと一緒に見ていた。自衛と護衛用の小剣ということだから、ナナトさんの攻撃を受ける練習をしていた。元々、武器の扱いが器用なルミルはそれはもう見事なくらいに刀を捌いていた。
剣弓士か……俺が剣士のままだったら立場が危うかったかもしれないな。まだ攻めることに関しては俺の方が慣れてる分だけ上手くやれるとは思うけど。……まぁ、味方と上手い下手なんて比べても仕方ないけど。っていうか、俺は何かあるとすぐに誰かと比べてるな。
ふと、ココハとマキアが見当たらないと思い、俺は立ち上がってテントの方へと向かった。静かに話す声が聞こえてテントの裏側を覗き込んだ。そこで俺は再び衝撃的な光景を目の当たりにすることになった。
マキアとココハが二人して抱き合っている。それは強く強く……まるで恋人のように抱き合っていた。ルミルに続いてマキアまで……いったいどういうことなんだ? 俺はそれをじっと見ていることは許されない気がして、そっと静かにその場を後にした。




