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ミルグラム戦記 ―悲愛界変の綴り―  作者: 井藤司郷
第5章<カンムリ塚編>

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第80話「カンムリ塚」

 日が昇ると俺たちはテントを片付けてまた歩き出した。昨晩は(ボアー)が襲って来たりすることもなかった。というよりも、地面がむき出しになっているこの辺りには獣族のような敵対種族は現れないようだ。


 更に東へ。ロニ鉱山が少しずつ大きく見えてきて近づいているのが分かる。昼過ぎにはもうカンムリ塚のすぐ近くにまで辿り着いた。外観はまさに冠のような形をした巨大な岩の壁だ。このどこかに魔界(アント)の巣への入り口があるはずだ。


 ナナトさんの指示でとりあえずはテントを張って拠点として使える場所を確保することになった。リーダーは俺なのに、俺は何もできないでいた。ナナトさんが「最初は仕方ないよ」と言ってくれたから遠慮なく任せられたけど、今回でちゃんと学んで次回があれば指示を出せるようにしたい。


「…岩場のある方か、木々の生い茂っている方……どっちにする?」

「そうだな、山が近くて風も吹きやすいから岩場の陰にテントを張ろうか」

「…うん!」

「無理しなくていいよ。みんなが戻ってから一緒にやろう」

「…分かった」


 ココハはみんなが置いて行った重い荷物を岩場の方へと運んでいる。今は俺とココハの二人だけだ。ナナトさんたちが周囲の探索をしている間は荷物番をしながら、テントの張れる場所を決めるのが俺たちの役目だ。


「…カンムリ塚、大きいね?」

「塚っていうか……山っていうか……もう崖みたいに見えるよね」

「…うん」

「まさかこれ全部が蟻塚になってるってことはないと思うけど、捜索するのはちょっと大変そうだね」

「…(アント)って言っても、普通の大きさじゃない……のかな、やっぱり」

「魔界(アント)だからね……獣族とはまた違う戦いにくさはありそうだけど、頑張ろうね?」

「…うん」


 そんな話をしていると、みんなが戻ってくるのが見えた。何かに襲われたりとかそういうことはなかったみたいだ。


「た、ただいま、レイトくん……ココハさん」

「おかえり」

「…おかえり、なさい」

「ココハ、見つけたわよ」

「…?」

「向こうに川があったの。あとで三人で水浴びに行きましょう?」

「…本当に?」

「ええ」


 川を見つけたんだ。良かった。水浴びもそうだけど、ナナトさんが言うには飲める水だということだから、それもすごく助かった。あとは何とか食料も確保できるといいんだけど。


「この辺りには獣族が徘徊していないみたいだし、あっちの木々の方には木の実なんかもありそうだね。たぶん、小動物とかならいるんじゃないかな?」

「それなら捕まえたら食べられそうですね」

「ああ」

「か、川には魚も泳いでいたし、釣りとかも……できるかも」

「そうなんだ。釣りかぁ……道具とか必要かな?」

「き、木の枝とかで……作れないかな?」

「あたし、糸なら持ってるわよ? 結構丈夫だと思うけど……どうかしら?」

「…これ、髪留めなんだけど……針に使えないかな?」

「あ、ありがとう。ルミルさん、ココハさん……でも、使ってもいいの?」

「…うん」

「いいわよ、食料確保の方が大事でしょ?」

「そ、そうだよね……ありがとう」


 どうやらブレンが釣り担当になりそうだ。俺は狩りの方が向いてるかな。


(アント)は近くにいそうですか?」

 マキアがナナトさんに尋ねていた。


「んー、この辺りにはいないと思うよ。ここは一番規模が小さいって言ってたし、巣もそんなに大きくはないんじゃないかな?」

「どうして……ここに巣があることを知っていたのでしょうか?」

「さぁね。特定の相手の居場所が分かる魔法とか道具とかがあったりするのかもしれないし、誰かが定期的に調査しに来ているのかもしれないね」

「ここ以外の場所でも見つかっているみたいですが、全ての魔界(アント)は同じ集団なのでしょうか?」

「神殿の黒いローブの男の言い方だとそうみたいだったけどね。女王蟻(クイーン)が各地に赴いて巣を作っているんだとすれば、ここにはいないって確証はないよね」

「もしも、見つけた場合はどうするのですか?」

「指令は放棄できないんだろ? 殺れる相手なら殺る。手に負えない相手なら……何か策を考えるよ」

「…………」

「大丈夫だよ。みんなに無茶はさせないし、おれも無謀なことはしないよ」

「はい……信じています」


 女王蟻(クイーン)がいる可能性もあるんだな……。巨大猪(ヌシ)に魔獣マンティコアにワイバーンと、立て続けに強敵と出会ってきたから嫌な予感しかしないんだけど。そんな外れクジばっかり引き当てるなんてどんな確率なんだろうな。さすがに今回は大丈夫だと思いたい。


 みんなで岩場の陰にテントを張って、一応鈴の付いた縄で音の出る仕掛けも準備しておく。荷物を置いて、今日はもう少しだけみんなで探索をしてみることにした。カンムリ塚の方を向いて右側は川のある方角、左側は木々の生い茂る方角。今日は右側から。


 しばらく歩いていると水の流れる音が聞こえてきた。川が見えた。それは東のロニ鉱山の方角から南西の方角に向かって流れていた。川の幅は三メートルくらい。流れはそんなに速くはない。深さはどうだろう……見た感じだとそう深くはなさそうだけど。


「このまま上流の方へ向かおうか」

「はい」

「一応、周囲の警戒をしつつ何か気になることがあったら報告すること」

「はい」


 ゆっくりと慎重に進む。どこに巣があるのか分からないし、その規模も分からない。相手のことも知らないし、今回は分からないことだらけだ。初見ほど怖いものはない。


 川を辿っていくと、カンムリ塚の麓にまで出た。周囲には(アント)っぽい影もない。その大きさも分からないから何とも言えないんだけど、たぶん……手のひらサイズとかそういうレベルではないと思う。最低でも二十センチくらいはあるんじゃないかと俺は想像してる。


「この辺りにはいないみたいね?」

「ええ、巣穴も見当たらない」

「見えないだけかもしれないから、ちょっと調べてみよう。二人一組になろうか……ココハちゃんおいで」

「…あ、はい!」


 マキアとは組まないんだな……ナナトさんも戦ったことのない相手らしいし、一番心配なのがココハってことなのかもしれない。マキアとルミルはしっかりしてるからな。マキアがブレンと一緒になったから、俺の元にはルミルがやって来た。


「あたしたちは向こうを調べましょ?」

「うん」


 カンムリ塚はその見た目通りの岩の壁で簡単には掘れそうにない。中はどういう風になってるのかは分からないけど、巣を作るなら地面の土を掘って中に繋げてあるような気がする。


 結局、この周囲には巣穴らしきものは発見できなかった。このままカンムリ塚の麓を歩いてテントまで戻ることもできるだろうけど「今日はここまででいい」とナナトさんが判断したので、さっき通って来た道を戻って帰ることにした。


 川の流れが一番緩やかな場所で女の子たちが水浴びをすることになった。俺たち男性陣は離れた所にあった岩場の後ろで待つことにした。さすがに一緒には無理だし、何かあったら助けないといけないし、なかなか気を遣う瞬間だ。


「レイトは覗きに行かなくていいのか?」

「行きませんよ。マキアだっているのに……いいんですか? そんなこと言って」

「お? レイトの耐性が上がってきてるな」

「はははは……」

「もう慣れてきましたよ。今思うと……ジェニオがいたらこういう時は大変だったかもしれませんね?」

「そうだな。あいつは迷わず覗いてたかもしれないな」

「ふ、二人とも、いない人のことを……悪く言うのは」


 あ……そうだよな……。


「ごめん。悪く言うつもりはなかったんだけど」

「で、でも、まぁボクも……そう思ったけどね?」

「え?」

「ははっ。ブレンもそういうことを言えるようになってきたんだな?」

「ジェ、ジェニオくんには調子に乗るなって……言われそうですけど」

「そうかな? あいつは意外にノリがいいじゃねーか! とかって喜びそうだけど」

「……レイトもブレンも、もう大丈夫そうだな?」

「はい。あの時、ナナトさんがみんなを集めてくれたおかげだと思ってます」

「そうか……」

 ナナトさんが少しだけ安心したような顔をしていた。


「君たち二人には言っておくけどさ、おれは誰も死なせたくないって思ってたし、そうならないように努力しようとも思ってた。でもさ、物事に絶対はないから……ああいうことは起きる時には起きてしまう。忘れないでくれ。次はレイトが、ブレンがそうなる可能性だってある。おれだってただの人間だから死ぬ時は死ぬ。でもさ、女の子たちだけは何とか守ってあげたいんだ。それが男の役目だっておれは思ってる」


 誰も死なせたくないっていうのは、みんなも同じように思ってたことで……でも、そうなる覚悟っていうのが俺たちには無かったんだと思う。ナナトさんだってジェニオを失って悲しくないはずなんてないだろうし、俺たちと違ったのはその覚悟があったんだってことなんだろうな。


「はい。俺も同じです。気持ちだけではどうしようもないこともあるって学びました。人が一人の命を助けるのもすごく難しいことですから。でも……甘い考えかもしれないですけど、俺はやっぱりブレンもナナトさんも失うのは……嫌です」

「ボ、ボクには誰かの命を背負うなんて……そういうことはできないって思っていました。でも、ボクにはボクにしかできないことがあって、それをすることでみんなを守れるのなら……命に代えても守りたいです」


 ナナトさんが息を漏らすように笑った。


「そっか。君たちはおれなんかよりもずっと強いのかもしれないな」

「そんなこと、全然ないですよ……ははは」

「何笑ってんの? まさか、覗きの相談じゃないわよね?」


 女の子たちが戻ってきた。またその話題に戻すの? でも、そういう話ができるのも生きているからなんだよな。


「違うよ。ナナトさんがさ、マキアが可愛い可愛いって言うからさ」

「え!?」

「おいおい、レイト?」

「仕返しですよ!」

「はははは……」


 照れているマキアと動じないナナトさん。俺の仕返しは思ってた狙いとは違ったけど、その場はすごく盛り上がったし……まぁいいかなって思った。

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