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ミルグラム戦記 ―悲愛界変の綴り―  作者: 井藤司郷
第3章<コイマの森編>

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第46話「心機一転」

 巨大猪(ヌシ)を討伐してから四日後の朝八時。今日からは北門へ集合場所が変わった。(ウルフ)狩りを始めるからだ。俺とココハが到着すると、先に待っていたマキアがこちらに気がついて体を向けた。挨拶を交わして残りの三人を待つ。


「ココハ、それ可愛い」

 マキアがココハの服装を見てそう言った。


 ココハは今までの黒いローブではなく、新しく術士(メイジ)用の冒険着をルミルと一緒に買いに行ったらしい。


 やけに裾の長い服には袖がなく、腕にはアームカバーというのかな? 手首から肘までを覆うようなものを付けている。膝下まであるスカートはふわっと膨らんでいて、その下にはロングブーツを履いている。色は属性を意識したのか、全体的に黄緑色をベースにしていた。


「…ありがとう。でも、少し恥ずかしくて」

「似合ってるから大丈夫。ね?」

 マキアが俺に同意を求めてきた。


「あ、うん。俺も似合ってると思うよ?」

「…ありがとう」

 ココハは恥ずかしそうに、小さな声で言った。


 華やかになって、より女の子っぽくはなったと思う。俺にはお洒落とかはよく分からないから、実は服装についてはここに来るまで話題にしなかった。マキアはこれまでと変わった様子はない。白と青の神官服と、それに合わせた白いスカートが膝上まで伸びている。まじまじと見るのはこれが初めてだ。やっぱりスタイルも良いんだよな。視線を上げるとマキアと目が合った。


「あ、ごめん……」

 咄嗟に謝ってしまう。


「……気を遣わせた? わたしは特に装備も変えてないから」


 服装の褒める所を探していたと思われたみたいだ。マキアは自分がどれだけ美人で、男の注目を集めるような存在だとかは気づいていないのかな?


「おはよう」

 ルミルの声がした。


 振り向くと、驚いたことにジェニオとブレンも一緒だった。


「そ、そこで……一緒になって」

 ブレンがそう言っていた。


 そうだよな、ルミルが待ち合わせとかをして一緒に来るような感じはしないし。


「どーよ?」

 ジェニオが新調したのだろう長槍を見せびらかすように前に突き出した。


「前のとどう変わったんだ?」

「見て分からねーのかよ!!」

「俺は槍使い(ランサー)じゃないから分からないって」

「…刃の部分が、長くなった……ような?」

「お! 分かってんじゃねーか、ココハ!!」


 確かに先端に付いていた刃が伸びている。だからどう違うのかは分からないけど。


「いいか? これまでは突きが最大の攻撃手段だったけどな……これからは斬ることもできるんだぜ?」


 ああ、そういうことか。(ボアー)との戦闘では転倒させようと薙ぎ払うことがあったけど、あれは刃を使わない槍の腹で殴ってるだけだった。これからは突きの直線方向だけではなく、縦や横方向からの攻撃にも刃を使えるようになるってことか。


「より攻撃型になったんだな」

「そういうこった。刃が長すぎると地面に刺さりすぎて我流閃技(セルフトートスキル)に影響するし、短すぎると今までと変わらねーからな、選ぶのに苦労したぜ!!」


 ジェニオも考えてるんだな。なんか見た目がカッコイイからとかって理由で選ぶやつだと思ってた。


「ブレンも新しい盾にしたんだ?」

「うん、ボクのは巨大猪(ヌシ)に……壊されちゃったから。鍛え直すよりも買い直した方が……安そうだったし」

「そっか」


 大きさは前回のものと同じくらいだ。でも形が少し変わっていた。同じ種類の盾ではないから当然なんだけど、そういうことではなく、左右対照じゃないんだ。


「変わった形してるわね、それ大丈夫なの?」

 ルミルも同じことを気にしていたみたいだ。


「あ、これは……うん。元々は一つの巨大な盾だったらしくて、でも、扱える人がいないから半分にしちゃった……みたい」

「へぇ、じゃあその片割れってこと?」

「そ、そう……なるね。ボクは左手で持つから……左半分の方だね」

「…ブレンくんなら、もっと大きくても持てそう」

「ど、どうかな? 確かに、もう少し大きくても良かったかも……とは思うかな」

「まぁ大きくなるとその分だけ重くなっちゃうし、慣れてるくらいが丁度いいんじゃないかな?」

「だな」

 ジェニオに共感された。


「レイトも剣を買うって言ってなかった?」

 マキアにそう尋ねられた。


「うん、そう思ってたんだけどね。今回は止めておいた」

「なんだよ! 心機一転して装備も一新しておけよ!!」

「今のもまだ使えるし、俺には我流閃技(セルフトートスキル)も無いからさ。もう少し様子見でもいいかなって」

「例のアレはまだ使えねーのかよ?」

「あれね……使えたら便利なんだけど」


 巨大猪(ヌシ)との戦いで出現したもう一人の俺。囮となってくれて、倒されると煙になって視界とか気配とかを遮断してくれたんだよな。


「もう一度死にかけたら出せるんじゃねーの?」

「……冗談でもそういうことは言わないで」

「お、おう……」

 マキアの冷たい声にビビったのか、ジェニオが素直に大人しくなった。


「よし、じゃあそろそろ出発しようか」

「そうね」

「…うん」


 そうして俺たちは北門を潜ってコイマの森……の手前にある草原を目指していく。


「そういえば、ナナトには声をかけなかったのかよ?」

 ジェニオが思い出したように言った。


「うん、まだ言ってない」

「なんでだよ? 森はやべーんだろ?」

「そうなんだけど、いきなり森へは入らないから。まずは小狼(レッサーウルフ)で慣れてから……ナナトさんに声をかけるならその後でいいかなって」

「そんなんで大丈夫なのかよ? またどこかに旅立ったりしねーだろうな?」

「それは……」

 ないとは言い切れなくて、言葉を詰まらせてしまった。


「……大丈夫」

 そう言ったのはマキアだった。


「この街から離れる予定はないと思う」

「マキアがそう言うなら間違いなさそうね」

「…うん」

「ほーん。つーか、マキアおめえナナトと話せるようになったのかよ?」

「え、ええ……少しだけなら」

「アイツ何か言ってたかよ?」

「……別に」


 あの後、二人が何を話したのかは俺も知らない。でも、マキアの様子を見る限りだと心配するようなことはなかったのだろう。


「なんだよ! 巨大猪(ヌシ)を倒したこととかちゃんと話したのかよ!!」

「それは俺から話したよ。心配してたし、喜んでもくれてた」

「オレの活躍も余すことなく話したんだろーな?」

「それは……」

「バッカ! ちゃんと言っておけよ!!」


 なんなんだよコイツは……なんで俺がナナトさんにお前のことを熱く語らないといけないんだ。


「ジェニオ。あんた、ナナトに認められたいんだ?」

「あ、なるほど……」

「おいブレン、なに納得してんだよ! ちっげーよ! アイツを仲間にするんならな、このパーティーでのメインアタッカーはオレだってことをだな」

「そんなこと言わなくたって、ナナトさんも分かってるだろ」

「……ナナトにポジションを奪われるのが怖いのね?」

「あ、なるほど……」

 ブレンが再び納得したのが面白くて、みんなで笑いあった。


 ジェニオはその後も一人で騒いでいたが、途中で虚しくなったのか大人しくなっていた。


「そろそろ小狼(レッサーウルフ)がいるポイントだから、荷物はこの辺りにまとめておこう」


 俺たちは戦闘準備を始めていく。懐かしいな……俺の初めての実戦もこの辺りだった。あの時は小狼(レッサーウルフ)相手にも命懸けだった。あれから俺も成長したはずだ。もちろん油断はしないけど、どのくらい成長できたのかを確認するのが楽しみになっている。俺も冒険者に染まってきたんだな。


 ふと、ココハの方を見てみると、ルミルから矢筒を受け取って肩にかけていた。


「あれ? それココハが持つの?」

「…え、あ……うん」

「あたしはいいって言ったんだけどね」

「…ルミルの矢は限られてるし、射つ時に邪魔になってたくさん持てないから。私は立ってるだけだし……これくらいなら持てるかなって」

「精霊魔法があるし、立ってるだけってことはないよ。大丈夫なの?」

「…うん。それに、(ウルフ)はすばしっこいし、矢は一本でも多い方が良いと思うの」


 ココハは周りが良く見えている術士(メイジ)だ。ここで狩りをしていた時も最後尾から戦闘を観察していた。その経験からそう判断して自分で決めたんだろう。それなら反対する理由なんてない。


「分かったよ」

「…ありがとう」

「お礼を言うのはあたし。ありがとね、ココハ」

「…うん!」


 みんなが自分にできることを考えられるようになってきている。良い傾向だよな。(ウルフ)相手だと作戦も変えないといけないし、俺も今回はリーダーとして対峙することになる。森へ入る頃にはナナトさんに頼るつもりだけど、それまではこの役目をしっかりと果たしていきたいと思う。

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