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無人島の狂気

 無人島の狂気。


 飢えとは、乾きとは、貧しさとは、人の心を荒ませる。

 今回はこれが本題。


 一つ前、水のことについての続きのようなものだ。


 結局、チームの飲み水はどんどん減っていった。

 どうしても喉が乾くのだ。一口。

 口に含んで、飲み込む。もう一口が欲しくなる。

 乾きという苦痛を紛らわす水は、まるで麻薬のように甘露だった。

 麻薬吸ったことないから知らんけど。


 さておき、実際に水は少ない。

 ではどうしたかというと、チームメンバーの共有物だったポリタンクの水を、各自のペットボトルへ分けた。

 支給された水が入っていたペットボトルに、再度入れる。均等に。平等にだ。

 これならば、誰がどれだけ飲もうと気にならない。


 自分の水は減らない。所有物を盗られるという黒い感情が生まれないのだ。

 なんと合理的! そしてなんと冷たいことか!


 これを発案したのが3日目の朝ほどだったと思う。

 即採用。私たちのチームは団結しているようでいて、既に個人プレーに走っていた。

 ここらへんを機に、チームの不和は高まっていくことになる。

 それはまた後で語ろう。


 さて、では何が狂気かというと。だ。

 私だ。


 分けられたとはいえ、水は少ない。

 飲み水にも使うし、料理にも均等に使う。

 我慢せず飲んでいたらすぐになくなるだろう。

 私は悩んだ末に、ある行為に手を染めた。

 盗みではない。そこまで堕ちてはいなかった。


 だが、目の前には誘惑があるのだ。

 浜に流れ込む小川という、水という悪魔の果実が!



『川の水は雑菌だらけだから、飲むのは禁止』

『料理にも使うな。危険だから』


 そんなことは主催から何度も注意されていた。

 だが、本当にそうだろうか? 本当に飲んだら危ないのだろうか? 水はどれくらい汚染されているのだろうか? そもそも汚染されているのだろうか? どうやって調べたのか? 川を遡り奥地まで行ったのか? 

 ……腹痛で済むなら飲んでもいいのではないか?


 辺りには人がいなかった。ように思えた。

 私は誘惑に負け、川の水を一掬い。


 口に含んだ。

 ぬるい。味は、分からない。

 分からないのでもう一口。

 ぬるい。まぁ、水だ。

 上澄みを掬ったので砂っぽくもない。


 今にして思えば、せめて煮沸しろ。というか止めておけ、なのだが。そのときは暑さに頭がやられていたのだろう。

 煮沸しようとして鍋が汚染されると大変だ、とか。止められていることをわざわざやるのはばれたくないとか、いろんな思惑はあったが。

 とにかく、私は汚水を飲んだ。


 結果。

 その日の夜にはひどい腹痛に苦しんだ。


 なんというか、胃がわーってなってるのだ。

 胃で雑菌が大暴れしているのか、消化等の変な反応をしようとしているのか、とにかく腹が不調だ。

 気持ち悪くて脂汗が止まらず、吐き気もした。吐いたらさらに水分と養分が出てしまうので必死で堪えた。だが下痢などはしなかった。


 狂気の代償が腹痛だ。

 水二口の対価としてはきつすぎる。


 だが、主催側へ腹痛を申告はしなかった。なに食わぬ顔で一日の生活を終え、就寝した。

 川の水を飲んだと言えば、腹痛がひどいと言えば、実験を下ろされると判断していたからだ。

 現に、一日目の夜に一人、熱中症の兆候が見られた男がいたが、すぐさま本土へ輸送、病院送りとなった。


 安全第一のはずなので、私も恐らくは大事を取って本土へ輸送、そして実験終了。

 無人島生活を皆と最後までやりきれない。それだけは御免だった。


 だからこそ私は黙り、腹痛に耐えた。

 明日の朝には元通りになれと。便でくるんで排出してやるぞと。

 もう二度と川の水など飲むもんかと心に決めた。


 次の日には、腹痛は下に下がり、下痢となって現れた。

 だが幸いなことに、一旦全てを出してしまってからは快調だった。

 なんとか乗りきったのである。

 私は自分の鋼鉄の胃袋に感謝した。


 川の水は安易に飲んではいけない。下流は毒水だ。

 きちんとろ過して、煮沸してから飲むべし。

 そして、貧しさは人の正常な判断力を鈍らせる。


 伝えたいことはこんなものだ。

 ぜひ役立てて欲しい。





 ちなみに、私が川の水を飲んだことは他のチームの者に目撃されていた。

 あとから「飲める?」と聞かれたが、絶対にやめておけと止めた。

 飲んだ翌日に声をかけてくるあたり、体調に変化があるか観察していたのだろうか。

 人っていうのは、案外したたかだ。


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