赤い鉄の国(2)
マユさんの初仕事は私と一緒に、団長の頼まれごとの荷物持ち。私はウサ耳をつけ、人形が入っている籠を背負っている。彼にはカモシカの付け耳をつくった。不自然な動きもなく、上出来だ。
赤い鉄の国は前と同じく変な臭いがする。今日は黒い煙が多く、新しいエプロンを着て外に出るべきでない。されど彼は空気の悪さを気にすることなく、羽を持つ住民や今から行く『城』に心躍らせている。
はしゃぐ気持ちはわかる。機械に憧れて作られたという黒い城は遠くから見ても重厚で独特の趣があり、かっこいいの一言につきよう。それにこの国の住民であるチョウ族はほとんど人型。原型と異なり、羽の造形は表からも裏からも同じように見える。黒を基調にラメがかった青や緑の色彩に富んだもの、柔らかいパステルカラーに模様がついているものなど様々だ。美しいまたはスタイルの良い女性が美しい羽を持ち。表情が出ない方でよかった。
「うわああ、お城なんて初めてだよ! お城へのお使いを頼まれるなんて団長さんすごいんだね」
「面倒臭い女の相手を頼まれただけだぜぇ。高いんだからちゃんと荷物持てよ。ほら足元。サンもきれいなねーちゃんばっか見てるなぁ」
「美しい女性の羽を見てるだけです」
どっちも同じだぁ、と笑われた。
門番にシェンカー専用の封蝋のついた手紙を見せると、荷物検査もなくすぐ城内に入れた。露出の多い服を着ているわりに潔癖そうな女性に応接間に通される。城内は工場でなく花の香りが強い。自然な味の花の蜜なんかを吸いたくなってきた。出された茶請けのザッハトルテは妙に甘ったるく、もう胸焼けを起こしそうで辛い。
「甘いの苦手?」
「チョコは結構好きなんですが、これはあまり口に合わなくて」
「高いのは合わないの?」
ほっぺたつねるぞこの野郎。
団長は一口でやめ、マユさんはすぐに平らげ団長の分も食べ始めた。私のも食べてもらう。
応接間にゴーグルをした恰幅のいい白頭巾の男が入ってきた。
「アン様、久しぶりですな」
「博士、お久しぶりです」
「以前ご相談していた件なのですが、お時間はございますか」
「ええ、もちろん」
届け物はどうした。
「サン、マユ。エリス様が封を開けて手紙読むまで見届けろ。部屋の構造は、カーテンに隠れてわかりにくいが入り口から一直線にでかい窓がある。20mぐらいの高さだけど、お前ならマユを抱えて飛び降りれるだろ」
「何の話!?」
脱出経路の話をいきなりされても困る。何が起こるのだ。
「聞いてたろぉ。俺はこれから博士と話しがあるから、届け物はお前達に任せる。あの女は気紛れで下々の人間を殺すから気をつけろってことだ。いいか、ぜぇっったいに反撃するな、窓から逃げろ。サン、お前の速さなら無傷で逃げることは可能だ」
客だからだろうけど、殺されそうになっても反撃するなってなんだ。絶対に会いたくない。城の中も見れたので今すぐ帰りたい。
「よろしく」
「アン様!?」
言うなり団長は走り出す。白頭巾も慌てて追いかけて出て行った。最悪だ。マユさんも一気にテンションが下がっている。
「サンさん、飛べる?」
自分だけなら出来なくもないが、彼を抱えて脱出とな。カードに入れている魔力と靴底の燃料を確認する。
「落下の衝撃を和らげる準備はしときますのでご安心を」
「飛べるわけないよね。何に気をつけたらいいのかな。すごく命懸けな気がするんだけど、お給料どれくらいだろ」
「特別手当に期待しましょう。マユさん、正式にここで働くことに決まったのですか」
「3ヶ月の試用期間ありだけどね。今は時給扱いだけど、これ特別手当出るレベルでヤバい?」
「たぶん。今まで、逃げ方指南されたことないですし」
なんて肩をすくめてみたら、彼は目も口も大きく開けて固まった。初仕事で死ぬ可能性があるのはきついか。慰めるためぽんぽん背中を叩く。
「ちゃんとあなたを守るのでご安心を」
「そりゃサンさん強いけどさぁ。うーん、あんな大きいモンスター1人で倒すぐらいなら、ちょっとヤバい人でもワンパンいけるのかな? ……なんかいけそうだね。サンさん、いざとなったらお願い!」
ぎゅっと手を握られる。ワンパンも何も、手を出すなと言われている。彼は元気になって、案内の者より先に進み始めた。落ち着いてほしい。




