第七話 政権交代
平成29年12月8日・・・
この日、日本では新たなる政治形態を迎えた。長引く経済低迷が蓄積し5年前に長らく政治を指導していた「自由民権党(通称:自民党)」から最大野党の「日本民主党(通称民主党)」と「社会民権党(通称:社民党)」に政権が交代した、これは政治形態の変貌による経済成長を期待した国民の声が大きく反映された結果であった。しかし、経済は成長するどこらか悪化し、さらには唯一の同盟国であるアメリカ合衆国との間に大きな隙間が生まれるといった、マイナス面ばかりが強く出ただけであった。さらには外交的に弱腰姿勢であり周辺諸国との国民感情は悪化、それが今回のさらなる政権交代を生み出したのである。野党に転落した「自民党」は保守色を強く打ち出し、憲法改正・集団的自衛権・外交問題の解決・国家総動員による経済成長といった、マニフェストを打ち出し今回の衆院選では単独で過半数を突破する303議席を獲得し大勝した。これにより民主党と社民党の連立政権が終焉したのである。
自民党は同じく保守色が強く勢いのあった「大政会」と連立を組み衆議院における議席数は憲法が改正可能な議席の3分の2に当たる320議席を上回る348議席を獲得したのである。
この大勝に沸きに沸いたのは、扶桑重工業をはじめとした、軍需産業を中核とする重工業企業群であった、扶桑重工業の代表取締役、尊博はこの大勝を聞き手持ちの造船所に大胆な設備投資を開始し、さらには友好的関係にあった三菱重工業、川崎重工業、ジャパンマリンユナイテッドとの業務提携についての交渉を再開したそうだ。
10日後の12月18日、自由民権党総裁の大多田雅貴が第96代内閣総理大臣に任名された。日本は戦後歩んできた道から大きく変貌する道へと歩み出したのである。
今回の政権交代を周辺諸国とくに中国、韓国、北朝鮮の3国は注視し保守色が強く重工業企業などのつながりが深い自由民権党の大勝を警戒し組閣された閣僚メンバーを知り「前代未聞の極右内閣」と評価したのである。
平成30年1月26日に通常国会がスタートし平成30年度予算を参議院本会議で成立させたのを皮切りに数々の法案を成立されていた、その内容は様々だが日本の国益を存することはなかった。
平成30年2月10日(夕刻)
総理大臣官邸:閣議室
「さてさて、長い道のりだったな、急ごしらえだったがNSCの設立と特定秘密保護法案が成立したが。これからだ、明日はいよいよ予算案が予算に員会に提出されるとにかく頑張ってくれ」
真ん中の席に座る、大多田雅貴総理大臣が集まった閣僚を見てそう話す。閣僚らはここのとこ徹夜が続いていたため、疲れているのが明らかにわかったが。皆眼光が鋭く思考能力は全く落ちていなかった。
「ですが、この予算案は少し過激すぎると・・・」
経産相の神定柊が予算案の内容に少しばかり口を出す、彼女はケネディ行政大学院28歳の若さにして行政学修士号を取得した秀才であり32歳で経産相を任された実力派である。
「なんだ、柊は不満なのか」
「いいえ、大賛成です。この予算案で虫の息の製造業も復活します」
柊は自信をもって答える、その返事に雅貴は満足そうに頷く。予算案の内容は一部政党はばらまきと批判するだろうが、現在持てる最高の経済政策だと雅貴をはじめとした閣僚は思っていた。
「その予算案の隠し味となるのがこいつだ・・・ぜひ早急に閣議決定をしたい」
副総理兼財務相の麻野鐘馗が無造作に紙の束を机の上に放り出す表紙には「機密」と書かれており「防衛装備品移転三原則原案」。彼は閣僚メンバーの中で最年長の75歳であるが最年少の柊並に元気があり余っており最年長ならではの意見と発想で内閣を支えている。ちなみに座右の銘は「生涯奉公」である。
「これなら、ネジを生産している町工場まで潤うはずだ」
防衛装備品つまり兵器は非常に精密な部品の集合体であり。この精密な部品は主に中小企業の工場で生産される、そのため大企業の受注が増加するに比例して中小企業も生産数が増えるのである。
「さらに、中途半端に止まっていたインフラ整備、「コンクリから人へ」とくだらないことを前政権は言っていたが、やはり基盤があってこその生活だ。災害に強い国づくりも必要ですな」
国交相の大地政成がさりげなく、前政権をディスる。もちろんそんなことはここにいるメンバーは気にせず軽く流し後半の内容を深く考える。現在のインフラ状況は民主党の政策によりあらゆる新規インフラ建設が中止または凍結され主要幹線道路の建設も中途半端なところで止まっていた。
大多田内閣では今まで出されていた、国土強靭化計画を日本強靭化計画に拡大し防災・減災・国防・抑止といった、これまで脆弱であった部分を補強し強化する計画に拡大されていた。特に国防については防衛予算関係をこれまでの防衛費1%枠を3%に引き上げ国防力増大に充てる計画であった。
「よし、手始めに辺野古だな、舟城さん。設計のほうはいかがです」
「すでにボーリング調査も終わっています、再設計のほうも完了していますし資材も4年間倉庫で眠っております。豪快に進めてやりますよ」
防衛相の舟城繁太郎。沖縄県出身の閣僚である彼は豪快な指導をすることで有名であり。5年前に10年もの歳月をかけて辺野古への移設を米軍と合意するという大仕事を貫徹したが、その後の政権交代で移転計画が頓挫していることに自分の10年間が何なのかという絶望感に浸っていた。しかし今回の二度目となる防衛大臣就任の報を聞き、これまでよりも豪快な指導で移設計画を進めている。その結果辺野古新基地構想は軍港を含めた巨大な基地として建設されることになっている。
また問題発言が多いことでも有名で、先月も沖縄県庁前で「辺野古がだめなら、普天間は継続だ。米海兵隊のグアム移転もなしだ」と発言した。さらには国会審議で辺野古移設の強引な進め方に社民党から厳しく追及されたとき「国民生命の安全と美しい海どっちが大切なのか」とも発言するといったかなりの毒舌な人物である。
「結構、ぜひ豪快に進めてください。よしつぎは……そういえばTVCはどうなっているのですか」
「改装はアメリカ本土で予定通り進んでおります、今年の8月には予定通り引き渡しが完了すると連絡が来ております、同時に搭載艦載機も受け渡し用意ができているとのことです」
「5年前凍結された防衛機密計画だ、今年は大改革の年となる。この国日本が再び目覚める年となる」
雅貴は之から自分たちが行う大改革は簡単でないことを述べ、格郎全員に気合を入れ次の議題へと移った。
平成30年2月10日(深夜)
防衛省:会議室
今から1時間ほど前から防衛省敷地内に多数の高級車が出たり入ったりを繰り返していた。その高級車からは事情を知っているマスコミ関係者ならド肝を抜くほどの顔ぶれであった。重工業企業の代表取締役から日本五大メガバンクの頭取、石油関連企業の代表、自動車関係企業の社長さらには大手電機企業多数…
余談だがこれを目撃したマスコミ関係者は週刊誌で「市ヶ谷の陰謀」と銘打って報道している。
この集まったメンバーの中には扶桑重工業代表取締役の尊博も入っていた、目的は対外的には企業交流と後に発表されていたが、内外的目的は異なっていた。
「遅い・・・舟城さんはいったいどうしているんじゃ」
この会議室に案内された各企業の代表者たちは一時間待たされていた。理由は単純でこの壮大なメンバーをここに召喚した張本人である、防衛大臣舟城繁太郎が予定時刻となっても姿を現さないからだ。
もともと気が短い尊博は愛用の万年筆を机にトントンと一定のリズムで叩き続けていた。
あと数分で日付が変わると尊博が思ったとき会議室の扉が開き待ち望んだ人物が姿を現した。繁太郎は閣議が長引いてしまったと軽く遅れた理由と謝罪を口にしさっそく会議が始まる。会議内容は5年前から計画が凍結されていた自衛隊の極秘計画である。装備増強であった。
内容は威風堂々としたもので、よくマスコミ各社に漏えいしなかったものだと感心する内容であった。
この内容説明の先陣を切ったのは三菱グループの中枢である三菱重工業である。その内容は日本を代表する重工業企業にふさわしい内容であった。
航空部門では次期主力戦闘機F-35Aのライセンス生産を担いさらには、アメリカ海軍で使用されたF-22Nのノックダウン生産に関しても準備段階に入り航空機を生産する新工場も完成し操業間近ということであった。
F-22NはF-35の開発の遅れに焦りを抱いていた、アメリカ海軍は航空メーカー各社にこれを打診、それに真っ先に答えたのがロッキード・マーティンであった。ロッキード・マーティンは1985年から開発を続けてきた世界最強と言われる戦闘機F-22Aラプターが200機に満たない生産で終了した事実を受け入れられなかった、そのためか今回のアメリカ海軍からの打診がロッキード・マーティンを動かしたのである。ロッキード・マーティンは時代遅れになりつつあるF-22Aの電子機器制御システムをF-35とほぼ同じものを搭載する事に成功し大量受注を獲得した。さらに舟城を喜ばしたのは老朽化するF-2A/Bの後継機となるF-3の生産にめどが立ったということであった。
陸上部門では日本とドイツで共同開発が続いていた90式戦車に代わる次世代戦車の開発状況の報告であった。平成27年より日本とドイツの防衛協定により共同開発が進められている次世代型戦車である。主砲には扶桑重工業の得意分野であるレールガンが採用されることとなっている。
「結構、それにしてもシーラプターか楽しみだな、うんとても楽しみだ」
実は繁太郎は映画「トップ・ガン」の大ファンでありF-14トムキャットに惚れ込んでいた。そのため、アメリカ海軍としてはF-14以来となる可変翼機であるF-22Nに注目していた。
「ノックダウン生産に関しては今後政府の努力次第化と」
三菱重工業会長が最後にこう付け加えた、ノックダウン生産はライセンス生産より価格は安いが技術移転ができないという重大な欠点が存在する。三菱・日本としてもノックダウン生産よりコストがかかるが技術移転が可能なライセンス生産を強く希望している。
「わかったこちらとしても何とかしよう」
繁太郎は軽い感じでこう返事をする、10年の時を経て在日米軍を動かした男だ。軽い返事だったがここに集まった面子は「こいつなら何とかしかねない」と思っていた。
続いて、川崎重工業、石川島播磨重工業、新明和工業、豊和工業・・・と続き重工業分野の最後の企業として、扶桑重工業の番が回ってきた。
「こちらからは次世代型護衛艦を提案する、そのプロトタイプとなる艦がこいつじゃ」
尊博はスクリーンの横に立ちレーザーポインターを手に持って説明を始めた。
プロジェクターが稼働しスクリーン映し出された映像は、造船業を主体とする重工業各社の度肝を抜いた。繁太郎も食い入るように映し出された映像を見入る。
「前政権が認めた、次世代艦のために搭載する大口径のレールガンと装甲版に使用する新型素材を開発するめどは立っているあとは予算だけなんじゃが」
「それは、しっかりとした手続きを踏んで入札方式で行いたい、政権批判にもつながりかねないからな」
「それは承知の上じゃ、だからここで話をしたわけじゃ」
「それは、次の次世代艦の建造を降りろということですか。だめだそれでは談合となる不可能だ」
三菱重工の代表者がこう答えた。尊博はその質問には答えず、意味深な笑みを浮かべるだけだ、しかし重工の代表者はざわつきだし会議場の雰囲気は一気に沸騰した。
「ふざけるな、勝手に建造計画を出して、今度は次の入札を降りろだと。談合となってマスコミに情報が洩れたら株価は暴落だ!大衆イメージも悪化することは必至!扶桑に談合するというリスクまで冒してこの艦を建造する理由はあるのか」
怒りの沸点が低いらしい、石川島播磨重工業の代表者が椅子を蹴り飛ばし机をたたきながら異議を述べた。ほかの重工代表者も同じ意見らしく相槌を打つなど同意の意見を出す。
「では訊くが、あなた方は次世代艦について具体的なコンセプトは持っているのか、我々はこのように具体的なコンセプトを出している、これは我々が談合というリスクを冒してまで遂行しなければならないプロジェクトだ!航空兵力に明確な疑問が出た今こそ、我が国が進んで新たな時代を切り開き、有力な防衛力を保持する必要があると思っている。わが社はあくまでも我が国のために奉公していきたいと思っているまでじゃ」
「それは今検討中だ、航空主兵論が終わるという確証もない今、このような艦を作る意味があるのか」
「我が社にはその意味はあると思っている」
2月11日(未明)
東京都:港区
扶桑重工業株式会社「Mizuho Tower」
最上階
扶桑重工業本社が入るMizuho Towerの最上階ワンフロアはすべて一条家の私邸となっている、これは不測の事態に対して即時に対応ができるようにとのことであった。
「そういうことじゃ、すまんな今日は話を合わせてもらって。もちろんじゃ、この埋め合わせはする。そういうことでたむぞ…ふう」
尊博は帰ってきてすぐにある所に電話をかけていた、相手は先ほどの会合で論戦を繰り広げた重工業の代表者である。
「なんだ今帰ったのか、おやっさん。防衛省はどうだったんだ」
「尊暁か、よい話ができた。あれの開発も続行だ、ほかのやつらとも話をつけたぞ」
「よく言う、もともと会談を重ねていたのによぉ」
「なんじゃ、知っておったのか」
尊博はソファーに深く腰を掛け、懐から煙管と刻みタバコが入ったケース…叺とマッチを取り出す。尊博は煙管の愛好者であり、ヘビーとはいかないがかなりの頻度で喫煙を嗜んでいる。煙管には三本足の烏「八咫烏」の文様が刻まれており見た目もかなりの年季が入ったものである。
尊博は慣れた手つきで火皿に刻みタバコを詰め込み、マッチで火をつけ一服する。それを見た尊暁も煙草をくわえ、愛用のZippoで火をつける。ちなみに二人とも使用しているのは近年発明された無害煙草を使用している。喫煙者への世間の目が年を追うごとに厳しくなり、それに耐えきれなかった内気なヘビースモーカーが努力を重ねて発明したものであり「理想の煙草」と名高い。喫煙者らは最初こそ味気がないと言っていたが、今ではこっちの無害煙草が主流でありむしろ通常の煙草を入手する方が難しいといわれるほどだ。
「技術者としての顔は広いからな」
「結構なことじゃ、それで技術者としての意見はどうなんじゃ」
「技術的には可能だ、大口径のEMLと粘り強く強靭な装甲板は問題ない。我々なら造れるということが最終的な結論だな」
「そうか、結構結構………二時間ほど寝るかの」
尊博は、手際よく煙管の灰を落とし。空吹きし火皿に残った灰を飛ばし煙管を叺にしまう。
「おやっさんも年なんだから無理すんなよ、そろそろ変わったらどうだ」
「わしはまだ現役じゃ、年扱いするなんぞ十年早いわ」
「冗談だ、俺はおやっさんみたいな経営手腕は持ってないからな」
「才能は遺伝しないと言うののじゃの、尊征もこっちと全く別の道を進んでる……夜明けじゃな」
都心の朝靄で霞んだ空にゆっくりと太陽が昇り始めた、建国記念の日にもかかわらず道を行く人々が増え始め公共交通機関はただいつも通りに稼働開始する。
今日も世界一の巨大都市東京は通常通り目覚め動き出した。




