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第十二話 存在の証明

平成三十一年四月一日

アメリカ合衆国

カリフォルニア州

 アメリカ海軍「サンディエゴ海軍基地」


 アメリカ海軍サンディエゴ海軍基地に海上自衛隊の艦艇が入港した。その目的は、アメリカ海軍との合同演習であった。その合同演習のため派遣されたのは海上自衛隊第二護衛隊群に所属する、第六護衛隊であった。護衛艦ひえいを中核とした第六護衛隊は今年新たに、編入された、たかお型ミサイル護衛艦の四番艦のはぐろであった。

 たかお型はひえいの拡大発展型として計画された新型の打撃型護衛艦であった、特徴は何といっても艦首に装備された、砲身格納型六五口径20.3センチ連装電磁投射砲(レールガン)であった。最大射程は五六五キロで一世代前の対地ミサイルに相当する射程であった。



DDH-185:護衛艦「ひえい」     露天艦橋


「艦長接岸作業は完了しました」

「ん、サンキュ、それで尊征ちゃん」

「職務中です、あとちゃんではありません」

「固いね、どっちがほうしょうだと思う」

 岸壁との雪原が完了したとの報告を華佳に伝え、次の仕事をこなそうと思い艦橋に戻ろうとした尊征であったが、華佳に呼び止められた。華佳は海上で似たような感が停泊しているのを指さして、尊征にどちらがほうしょうであるか尋ねた。

 ひえいが停泊する目の前の岸壁には、巨大な艦が二隻ひえいと同じように岸壁につながれていた、そのうちの一隻は練習空母ほうしょうでありもう一隻はアメリカ海軍の原子力空母「ジョージ・ワシントン」のはずであった。


「遠目で見ると、確かに似ていますが」

「私は見分け方を見つけたぞ」

「なんですか」

 華佳は「よく聞け」と偉そうに前置きをして言った。


「あの左側に停泊する方があるじゃん」

「はい、艦長はあっちがほうしょうだと」

「百パーセントの確率でほうしょうとわたしの直感が告げているぜ」

「はあ、それでその直感の理由は」

「それはな、左側の艦の艦首をよく見てくれ、何か金色に光ってるものがあるだろう」

「あぁ、確かにありますね」

「双眼鏡で見てみ」

「はい……済みません、ちょっと疲れているみたいなので自失に戻ります」

「大丈夫、尊征ちゃんの目は正常だ、あれは確かに菊花紋章、アメリカのいきな計らいか」

「いらない計らいですね、周辺諸国がいろいろ面倒ですよ、ただでさえ空母なのに」

「政府いわく空母だが練習艦であるため攻撃性は全くないっていうのが言い訳らしいぜ」

「まだ発表はしていないでしょう、あのようにアメリカ海軍旗を掲げてアメリカ艦に偽装している状態ですよ」

「発表するときにはすでに戦力化状態と言うことになるな、楽しみだ」

 華佳は「その時には私も護衛隊の司令ぐらいにゃ、なってるぜ」と野心をあらわにした。尊征は華佳の実力を認めているためか「群司令まで行けるでしょう」と言った。


「群司令か、そんときには尊征ちゃんの艦に将旗を上げることにするぜ」

「まぁ、がんばってください、私は指揮に戻りますから」

「おお、頼むぜ」



アメリカ海軍原子力空母

CVN-75:ジョージ・ワシントン     艦長室


 アメリカ原子力空母ジョージ・ワシントンの艦長室、ここにはジョージ・ワシントンの長である人物が陣取っていた。彼女はアメリカ海軍初の原子力空母における女性艦長であり、海上自衛隊幹部大学校に一年遅れて設立された、ミネアポリス海軍幹部学校の一期生首席卒業のエリート士官であった。

 名前はサンディ・A・バーク。アメリカ海軍で一番若い大佐であった。趣味はライフル射撃でオリンピックアメリカ合衆国代表にも選出されていた。


「そう、来たのね。副長、あの艦もいるかしら」

「はい、艦長。新鋭艦ハグロも予定通り」

「違う、あの艦よ、え~と、そうヒエイ」

「あぁ、はい、定着しております、さすが日本人ですね」

「あの艦には、ニミッツを食われている、今回は手加減はしない」

「はい、艦長」

「それにロンドンでは、煮え湯を飲まされてるわ、あの艦の副長に今度こそ、利子つきで返してやるんだからッ! 世界最強は私たちよ」



TCV-3501:練習空母「ほうしょう」  士官室


 アメリカ海軍と海上自衛隊の幹部の顔合わせの場には空母ほうしょうの士官室が選ばれた、名目上とはいえ練習空母であるため、会議室やその他大勢が集まる部屋が広いのが選ばれた理由であった。


 顔合わせを終えて、演習の細かな内容が簡単に話された、今回の演習内容はいまどきありえない艦隊決戦で行うことをアメリカ側が主張した。


「艦隊決戦?片方の陣営の艦隊損耗率70%を先に達成した方が勝利、前代未聞だぜ」

 華佳が明らかに不満そうな顔をしながら、アメリカ軍の提案に異論を言う、アメリカ軍側は確かに異論だが、中国軍が膨張している現在、艦隊戦の可能性は十分考えられる。との一点張りであった。


「それとも、あれかしら、この戦力差と練度では負けるのが確定しているからやる気が出ないのかしら」

 サンディが海上自衛隊の代表である、華佳を挑発するように言う、華佳はそのやっすい挑発に乗ってしまい。


「なんだと、海自(うち)の練度は優秀だ。良いだろうやってやろうじゃないか、受けてやるぜ」

 ハルカは周りの幹部を無視して、こういうとアメリカ海軍の幹部は決まりですねと言い、細かい調整がなされた。

 その後海上自衛隊の幹部が集まり作戦会議兼反省会を行う事となった。


「西野一佐いくらなんでもあの安い挑発を受けることはないでしょう」

「悪い悪い、ついカチンと来ちゃってさー」

「ついって」

 作戦会議早々、華佳に対して批判が集まる、華佳は尊征に助けてくれと目線を送る、それに気づいた尊征は大きなため息をしてから、周りの幹部を宥めながら、勝算はあると告げた。


「決まったものは仕方ないでしょう、問題はどのように勝かどうかです」

「しかし一条二佐、彼我の戦力差は大きい」

「確かにこちらの戦力は空母一隻、汎用護衛艦三隻、ミサイル護衛艦一隻、打撃型護衛艦二隻、潜水艦二隻、対して米海軍は空母一隻、イージス駆逐艦八隻、イージス巡洋艦二隻そして原子力潜水艦五隻、戦力差において顕著なものは潜水艦です」

 幹部たちは尊征の言葉に一斉に頷く、水上艦戦力は最新鋭のたかお型四番艦のはぐろとひえいで埋まるという認識があったからだ。


「尊征ちゃん、潜水艦については心配いらないかもよ」

「艦長。どうしてですか」

「防衛省が新鋭のやましろを回してくれるらしい、いまうんりゅう型潜水艦五番艦のずいりゅうとおやしお型潜水艦八番艦たかしおがいるが、最新鋭のやましろ型一番艦のやましろが艦隊支援のため回ってくれるって話だぜ」

 最新鋭潜水艦やましろ型の緊急支援と言う話に、幹部たちは湧いた。世界のどの潜水艦を上回る静粛性かつ航続能力は世界一である、そんな潜水艦に機体を駆けない方がおかしい。


「それでは潜水艦に対する対処は、こうしましょう」

 尊征はホワイトボードに簡単な艦隊陣形を書いた、書かれた陣形は練習空母ほうしょうを中心にして囲むように汎用護衛艦である、むらさめ型汎用護衛艦五番艦いなづまと新型のいそかぜ型汎用護衛艦二番艦ときつかぜ及び、三番艦のあまつかぜが後方と左右に配置し前方警戒感としてはたかぜ型ミサイル護衛艦二番艦しまかぜを配置した、対空警戒に重点を置いた艦隊陣形であった。


「このように、ほうしょうを中核としてしまかぜを前方に汎用護衛艦三隻を後方と左右に展開させます、この時の艦幅は一〇〇〇メートルとします。さらにほうしょうと汎用護衛艦の対潜ヘリ部隊を各所に展開、敵潜水艦に対して備えます」

「実に堅実で教科書的だな、流石は官大と言った所か、だがひえいとたかおはどうする」

 一人の幹部が嫌味多らしく、尊征に問う。尊征は嫌味には何も反応せず、軽く答えた。


「簡単ですよ、はぐろの護衛を行いながら、海上打撃部隊として演習海域を縦横無尽に走ります」

「なるほど、いつかの再現をしようってことだな、流石副長頼りになるぜ」

「しかい、この手段は二番煎じです。必ずやろうとしていることはばれます」

 尊征の言葉に幹部のほとんどは確かにと頷く。アメリカ海軍だって学ばないわけがない。全員がそのことを認識したことを確認した尊征は「そこで」と大きく切り出す。


「ひえいとはぐろは中央部隊の前衛部隊としてほうしょうの前衛二〇キロの海域に展開ししばらく動きません、そこで颯太お前の艦の航空団の出番だ」

「んッ……えッ! いきなり話を振るなよ」

「やっぱり聞いていなかったか、要するに航空団の制空隊四〇機に作戦の成否がかかってるんだよ」

「あぁ、その話か、仕上がりは上々だけど、尊征。制空隊が装備する機体は米海軍と一緒のF-22Nシーラプターだ性能は同じだと言ってもいいぞ」

「いえ違います、正確にはF-22NJ日日本で生産された、機体でエンジンがIHI製のF8-1を搭載していますパイロット達によると本家の機体よりエンジンレスポンスが高く電子戦においても勝っているとことです」

 颯太の説明に何を言っているんですかと陽菜が訂正を入れる、直接パイロットから聞いた情報らしく、信憑性も高かった。


「なるほど、数字には出ない感想だな、ありがとう陽菜」

 尊征はカタログスペックには出ない情報だとした。尊征は之をうまく使えば行けるとつづけた。


「しかし、我々はF-22NJと言った最新鋭機を四〇機保有していますが、肝心の攻撃機は開発生産が遅れているため、米軍からレンタルしたF/A-18Fスーパーホーネット三五機、後は定数の艦載機がありますが、F-22NとF-35Cを擁する米海軍には不利かと」

「それはごもっともだ、しかし私達が勝っていることが、一つだけあるぜ」

 彼我の航空戦力差を心配した幹部に華佳が勿体ぶって答える。


「そいつぁ、全艦が対空レーザー(ランサー)を搭載してることだ、こいつを有効に使えば、敵の対艦誘導弾を無力化できる」

 艦載機、艦艇数、火力と言った不足な点は経験と発想でカバーするしかない、その経験と発想は官大を卒業した、尊征たちには十分すぎるほど持ち合わせていた。その後、夜遅くまで作戦会議は続いたのである。

 演習は艦隊整備と移動を含めて五日後の六日に開始する。



 平成三十一年四月六日

 北太平洋洋上 

日米合同演習海域

DDH-185:護衛艦「ひえい」       艦橋


 日米合同演習海域に指定された海域は、まだ冷たい北太平洋であった。さらに日米海軍首脳の予想外の事態も発生し、海上は当初の予測以上に荒れていた。原因は急速に発達していた低気圧が、三日ほど前に超大型の台風八号へと姿を変えたからであった。その超大型台風八号は演習海域から一〇〇〇キロほど離れた海域をゆっくりと東北東へ進んでいた。中心気圧八六五hPa(ヘクトパスカル)中心付近の最大風速は七〇メートル以上。風速二五メートル以上の暴風圏は半径五五〇キロとアメリカ軍台風警報センターは観測史上最大であり、おそらく有史史上最大の台風であると、報告をしていた。


「荒れているな、副長もうすぐ演習開始時間だが、積載物の固定確認をやらせてくれ。速いとこ終わらせないと、やばいことになるぜ」

「台風下での演習は帝国海軍からの伝統です。しかしこいつは常軌を逸脱してますよ」

「まったくだ、頭の正常な人間なら、こんな天気に演習なんてやらねぇ。しかし私達には時間がない、むしろ付き合ってくれる米軍にも感謝する必要があるな」

「演習開始まで、一〇秒……五秒、四、三、二、一。今!」

 本日の天候は晴朗会場は波高し。ひえいの登場以来くすぶっていた大艦巨砲主義と航空主義が激突した。



TCV-3501:練習空母「ほうしょう」 飛行甲板


練習空母ほうしょうはその巨艦が幸いし、荒れる海上をものともせず、艦載機の発艦準備を粛々と行っていた。


「電子攻撃飛行隊六機、全機発艦準備完了」

「グラウラー発艦準備急げッ」

 アメリカ海軍に対し電子戦を仕掛けるため、電子攻撃飛行隊に所属するEA-18GJグラウラー六機が発艦準備を整えつつあった。彼ら電子攻撃飛行隊の役割は強力な妨害電波を発信しながら飛行し、アメリカ海軍側の電子の目つまりレーダーの機能を奪う事が任務であった。


「グラウラー一番機発艦用意ィ!」

「態勢完了の機より直ちに発艦、発艦せよ」

「宜候!グラウラー一番、二番、射出位置へ」

「チョイ前~、チョイ前~、良し!カタパルト固定確認」

「一番機、射出準備良しッ!最終確認!」

「一番、ヨロォシ!!」

「艦橋、こちら甲板航空管制、グラウラー一番機発艦準備完了」

 グラウラー一番機がほうしょう自慢の電磁カタパルトに固定され、命令があれば一でも発艦可能と言う事を航空管制官が艦内電話を使って航海艦橋に報告した。



TCV-3501:練習空母「ほうしょう」 航海艦橋


『艦橋、こちら甲板航空管制、グラウラー一番機発艦準備完了』

「航空管制、グラウラー一番機直ちに発艦せよ、之より電子攻撃飛行隊の逐次発艦を許可する」

『了解、グラウラー一番機発艦させます』

 発艦命令がありた数秒後、轟音を上げてグラウラー一番機が発艦した。電磁カタパルトはパチパチと空中放電の余韻を残していたが、連続使用に支障は全くなかった。


「艦長、すでに制空隊二〇機、早期警戒飛行隊六機。そして対潜ヘリコプター部隊一五機が発艦しました。戦闘攻撃飛行隊二個三〇機は対艦誘導弾(対艦ミサイル)を搭載し待機中です」

 航空管制を監視する、陽菜が颯太に対して報告を行う、艦内の緊張した空気の中、発艦作業が次々に成功し、私大のその空気も和らいできた中の報告であった。


「うん、ひとまず一区切りだな。GPSが使用制限を受けている今、艦載機の目が頼りか、索敵は重要と言う事か」

「そうです、そして見つけたら即叩く。帝国海軍が英国海軍(ロイヤル・ネイビー)から受け継いだ伝統の見敵必殺(サーチ&デストロイ)です」

「航海長伝統も結構ですけど、今は英国海軍は関係ありませんよ」

「了解です、職務に戻らして頂きます」

「そうしてください。艦長、現在のところ航空機の発着艦には支障ありませんが、時間が経過すると発艦はともかく着艦に支障をきたします」

「うん、台風の怖さは知っているさ、中東でもサイクロンに突入したことは何度かある、使用しない艦内備品の固定を厳名してくれ」

「了解」



アメリカ海軍原子力空母

CVN-75:ジョージ・ワシントン    司令艦橋


「電子妨害が始まりました」

「予想道理ね、落ち着いて対策をECCM(電子防御)開始」

 原子力空母ジョージ・ワシントンに座乗するサンディを始めとした米海軍首脳陣は海上自衛隊が始めた電子戦による電波妨害にも、予想通りとして落ち着いて対応を始めた。首脳陣を始めとして将兵にも一時間あれば、中核の空母を撃沈できると思い、すでに気持では既に勝利していた。


「ECCM開始しました」

「各種レーダー改善しません、妨害範囲さらに広がります」

「速く対処しろ」

「無理です、不規則的に妨害レンジが変わり、対処には相当の時間が」

「使用不可レーダーは」

「対空対水上索敵レーダーは、ノイズが酷く使用不能!射撃レーダーは何とか使用できます」

「レーダーの目を潰された、想定以上に手ごわいな。我々がこれまで戦ってきたイラクやイランとは違うと言う事か」

早期警戒管制機(ホークアイ)の緊急発艦を急がせて、それてこの妨害は電子攻撃機の可能性が高いわ、上空(うえ)のラプターに発見次第撃墜するように伝えなさい」

 此処まで強力な妨害は米軍も予想外であったようで、アメリカ海軍第三艦隊はその艦隊陣形を乱すほど混乱していた。

 この強力な電子妨害を可能にしたのは、日本電気株式会社が開発した新式のアルゴリズムにおいて稼働するNOLR-18であった。



 CVN-75:原子力空母「ジョージ・ワシントン」 

 所属 第一一戦闘攻撃飛行隊:一番機


 旗艦ジョージ・ワシントンから電子妨害を行っている、電子攻撃機を捜索し撃墜することを命じられた、第一一戦闘攻撃飛行隊は血眼になって電子攻撃機グラウラーを探していた。

 そのうちの一機のF-22Nシーラプターが奇跡的に妨害の影響が少なかった機上レーダーで所属不明機を発見した。


「見つけた!あいつを落とせば艦隊の機能も回復するはず」

 グラウラーを発見した、パイロットはエンジンをフルスロットルまで加速させ、一気にグラウラーを落とそうとした。


「よし、貰った!」

 まさに今、パイロットがミサイル発射のトリガーに指をかけようとした時だった、機体がミサイルのロックオンを受けたことを知らせる警報がけたたましく響いた。


「なに!?」

 警報に慌てたパイロットは機体をひねらせ一旦グラウラーから離れようとした。その離れようとした時に優れた動体視力がグラウラーの陰に潜んでいた、ほうしょうに所属する制空隊のF-22NJシーラプターを視認したのである。


「護衛機!あいつか、俺に挑もうて言うのか面白い!メイドインUSAとJapanの性能差ぁ!見せてもらおうじゃないか!」



 DDH-185:護衛艦「ひえい」    戦闘指揮所


「索敵中のホークアイより入電! 敵艦隊を補足しました、座標送られてきます」

「よし、先手を取ったぁ」

「やりましたね、砲術長。これで攻撃機が出せます」

「俺達の出番がないじゃないか、まぁ艦隊距離三八〇キロでは対艦誘導弾もとどかないしな、ここは攻撃隊に任せるしかないだろうな」

「砲術長、艦長から命令が来たわ、トマホーク発射準備」

「りょ、了解、前部VLS、巡航ミサイルトマホーク発射準備。弾数は…えーと」「全弾よ」「ぜッ、全弾!?」

 発射準備をしていた、翔馬であったが、発射弾数を冬華から聞き、耳を疑った。さらに戦闘指揮所もその発言に凍りつく、演習とはいえ、海上自衛隊において普通はない命令であったからだ。


「そう、全弾よ、早くしなさい」

「ハッ、発射諸元入力、目標敵艦隊、発射弾数二八」

「発射タイミングは任せるわ」

「了解、諸元入力完了。トマホーク巡航ミサイル、発射」



 DDH-185:護衛艦「ひえい」      艦橋


「艦橋、そうかちゃんと全弾撃ってくれただろうな冬華。そうか、よしOK、何かあったらすぐ報告だ宜しく頼むぜ。副長、CICからだトマホークは全弾発射したってよ。はぐろも本艦を見て発射したそうだ」

「まぁ、いくら電子妨害が効いてるとはいえ、大半は敵艦にたどり着く前に撃墜されるでしょうね」

「そうだろうな、結局は之も陽動でしかない、私達が徹夜して立てた作戦だ、今は第二段階目、これから第三段階に移行するだろう」

「はい、すでにほうしょうでは、第一次攻撃隊一五機が準備中で、その準備ができ次第発艦の予定です」

「その前に、そろそろ海中の方も忙しくなると思うぜ」

「時間帯的にそうですね」

 尊征は華佳の海中の方が忙しくなるとの発言に腕時計で時間を確認しながら答える。演習が開始してすでに一時間が経過、そろそろ海中の鯨たちが活動してもおかしくない時間帯であった。

 そしてこの華佳の予想は三〇分後に見事的中した。しかもタイミングの悪いことにほうしょうが第一次攻撃隊一五機を発艦させているまっただ中であった。


「きたぜ、副長」

「はい、前衛に展開している対潜ヘリ部隊が探知しました。位地的に事らから攻撃するより、潜水艦部隊に任したいと思います」

「それもそうだな、全艦は魚雷に対して警戒を厳にしろ。いつ魚雷がくるか分からないからな」



 アメリカ海軍攻撃型原子力潜水艦

 SSN-769:トレド           発令所


 海上自衛隊第六護衛隊に秘かに接近していたのは、アメリカ海軍、ロサンゼルス級攻撃型原子力潜水艦の五八番艦トレドであった。トレドは八〇キロ離れた海域から第六護衛隊の推進器音とエンジン音を探知し、海流を巧みに使用して第六護衛隊に接近していた。


「よし、捉えた。魚雷発射管に注水し全門開け」

「アイ・サー、キャプテン。全門に魚雷装填」

「魚雷全門装填完了、発射管注水します」

『発射管室より、発令所。全門注水完了』

「よし、発射管外扉開け!全門発射だ」

 トレドが魚雷の発射管に注水し、その外扉を開口した時だった。トレドの聴音士が後方での異音を捉えた。


「艦長、魚雷発射待ってください」

「どうした」

「後方三〇〇〇で異音がしたような」

「なに?異音だと、エンジン停止」

「了解、エンジン停止」

 トレド艦長は聴音士が捉えたその異音について調べるため、一度エンジンを止め艦内の静粛を保つ。乗組員の緊張はまさにピークに達していた。


「聴音、どうだ」

「反応なし、海中に敵潜水艦の姿は確認できません。気のせいだったかもしれません……ッタ! 艦長後方一〇〇でアクティブソナー確認! 潜水艦です!キャビンテーション音ナシ!極めて静粛な潜水艦です」

「やれれた、例の永久電池搭載艦か」

                  


SSN-001:攻撃型潜水艦「やましろ」


 トレド艦長が予想した通り、トレド後方に姿を現したのは、海上自衛隊が世界に誇る潜水艦やましろ型一番艦のやましろであった。


「よっしゃ、よくやったぞ。やましろの初戦果だ」

 やましろ艦長は尊征らの仲間内であった、尾崎裕太である。裕太が歓声を上げると発令所内の乗組員も歓声を上げ、大いに盛り上がっていた。


「この調子で次に行ってみようかね、副長無音航行で行くぞ」

「はい艦長、前進強速、針路125。対潜哨戒を続ける」

 潜水艦乗組員と言う任務は過酷である、なにしろすべてが秘密であるため、家族にもいつ帰るのかが伝えられない。一旦潜ってしまえば少なくとも数週間は海の中の狭い艦内で生活しなければならず、精神的にもタフな人物が選ばれるのが常識であった。そんな中やましろは特に明るい艦内生活で海自内で有名であった。豊富な電力を使っての娯楽設備の充実やデカイくかさばるエンジンを載せなくていいため、乗組員の生活スペースが劇的に向上したからでもあるが。最終的には艦長の人柄が物を言っていたのである。



 アメリカ海軍原子力空母

CVN-75:ジョージ・ワシントン    司令艦橋


「原潜ツーソンより入電。敵艦隊発見! 艦長、座標特定しました。いつでも攻撃機を出せます」

「発艦可能な機体はすべて発艦よ」

「アイ・サー第一三戦闘攻撃飛行隊を出します」

「艦長。一つ気がかりなことがあります」

「わかってるわ、副長。上空のグラウラーでしょ、まさかシーラプターを護衛機につけてるなんてね、思わなかったわ」

「はい。艦隊防空を担当する第一一戦闘攻撃隊の機体消耗率は激しいようです。報告によると有視界でのドックファイトに巻き込まれての消耗率が激しく、すでに六機が撃墜判定を受け、空母ロナルド・レーガンに着艦したとの報告です」

「対して、此方の戦果はグラウラーを一機、落しただけね。パイロットは皆寝ぼけていたのかしら。相手は同じ機体、たかだか数か月前に空母を持った、自衛隊に落とされるなんて」

 ジョージ・ワシントンの司令艦橋には明らかに剣呑な空気が漂っていた。発生源はサンディであり、その証拠に艦長席に腰を掛けていた彼女は明らかに不機嫌そうだった。

 艦長がこの状態では他の乗組員の士気に影響するため、副長は何とかなだめようと話題を変えていたが、アメリカ海軍第三艦隊の外縁部で警戒監視活動をしていた、駆逐艦サンプソンから緊急電が舞い込んできた。


「報告します! 駆逐艦サンプソンが低空で飛行する飛翔体を確認し、ミサイル警報を出しました!数…」

「どうしたの、数は!」

 口ごもる乗組員に対しサンディは怒りを向ける、その怒気に蹴落とされながらも、乗組員は報告を続けた。


「ッハ! 数六八! 速度四七五ノット」

「遅いわね」

「おそらくトマホークかと思われます」

「火器管制を対空へシフト! 全弾迎撃してやりなさい」

「了解、各艦へ伝達します」

 長射程が売りの巡航ミサイルトマホークだがその最高スピードは時速八八〇キロとミサイルにしては遅めの分類に入る。そのため超低空で海面を這う様に飛行し敵の発見を避けるが近づけば、発見もたやすくなる。


「迎撃ファーストフェイズ、スタンダードミサイルによる迎撃処理完了、敵ミサイル三〇基を撃墜と判定されました」

「セカンドフェイズに以降しなさい、ESSM(対空ミサイル)発射用意」

「演習とはいえ、半数の撃墜判定ですか。せめて八〇%は、ほしい物ですね。海上自衛隊の最新鋭艦ではこのファーストフェイズで迎撃率は九〇%前後と聞いています」

「それがどうしたの。向こう側がシステム開発に成功したってことでしょう。こっちの最新鋭艦であるズムウォルトはシステム開発に失敗してスタンダードミサイルが運用できないどころか、対潜攻撃もできないザマ。役に立たないわ。これならアーレイ・バーク型を量産した方がまだまし」

「そう思いますと、まさにヒエイとタカオは我々が望んでいる間と言う事になるのでは」

「そう言う事になるわね。ICBMの迎撃能力に艦隊防空能力さらには対地対艦もこなせる万能艦と言った所かしら。さらには建造コストも一八億ドルと安価。ペンタゴンが欲しがるのも無理ないわね」

「セカンドフェイズ、ESSMによる迎撃処理の判定結果は二二基。残り一六基は依然として高速接近中。各艦フェイズスリーに移行し独自処理を開始します」

「索敵レーダーが不調のなか、よくやっていると思いますが。いささか不満の残る結果ですね、艦長」

「むこうの、電子妨害が予想以上っていう事よ。こちらも電子妨害はしているはずなのに、ケロッとしてるんだから、あいつにそっくりで腹が立つわね」

「あいつ?あぁニシノ艦長の事ですか」

「ニシノ彼女は違うわよ、むしろ仲がいいわ。メル友なんだから。この間もあれだけ挑発したのに、まるで無関心、ロンドンの時もそうだったわ」

「あぁ、ヒエイのイチジョウ副長でしたか」

「そう、ロンドンの時も私の事は無関心だったわ。最有力候補と言われた私を、何を考えているのか全く分からないわ」

 サンディは思い出すほど腹が立つと叫んで、艦長席の肘掛に八つ当たりをしていた。遠目から見てたならある意味微笑ましい光景であったが、隣で付き合っていた副長はたまったものではなかった。


「艦長! 緊急事態です! サンプソンがミサイル攻撃を受けて大破判定を受けました!」

「はい? トマホークの直撃でも喰らったの」

「いえ、自衛隊の新式ミサイルの様です。発射機体はF/A-18Fホーネットです」

「空対艦ミサイル? しまったトマホークは囮でそっちが本命。全艦にレッド・アラートを発令して! この距離じゃスタンダードもESSMも間に合わない!各艦個別で対処、回避運動開始!」

 ひえいとはぐろが発射した、トマホークの後を追うように超低空でアメリカ海軍第三艦隊に接近した、第一次攻撃隊は一八〇キロ手前で一八式空対艦誘導弾を四八基発射した。速度はトマホークのおよそ五倍に相当するマッハ四であり、対処に遅れれば命中するのは必至であった。


「ミサイルは間に合わない、Lancer起動!」

「了解、Lancer起動させます」

 もちろん、演習であるため実際にミサイルが飛んでいるわけではない。しかし、アメリカ軍側はこれまで桂冠したことのないような事態が連続し、演習とはいえまるで実戦を行っているような、緊張感があった。これはもちろん海上自衛隊のそうである。


「各艦対空砲火開きました。まもなく判定評価でます」

「LancerとCIWSそして近接防空ミサイルを有りっ丈撃ちまくりました。CIWSはともかくLancerの活躍で大半は撃墜できたと思われますが」

「そうだといいけどね、自衛隊の新式ミサイルは推定射程二〇〇キロ、最高スピードはマッハ四と言う話よ」

「判定来ました、飛来数48基に対して撃墜数は四五基

三基が駆逐艦ルーズベルト、ラッセン、サンプソンに命中しました。三隻は大破し多と判定を受け艦隊より落伍」

「なに、こいつはすごい、命中判定を受けた兵装は大半がLancerです」

 副長が乗組員が持ってきた報告書を手にして、見るからに興奮する、命中判定はあらかじめ入力されたデータに基づいて、演習海域外にいる原子力空母ロナルド・レーガンの搭載コンピューターが判断していた。そのため人為的瑕疵は一切なく、信用の出来る数字であるとされている。


「喜んでいる場合じゃない、向こう側もLancerを全艦に搭載しているわ、発艦した攻撃隊のミサイルがどれほど届くのか」

 サンディは興奮していた副長をしり目にあくまでも冷静であった。海上自衛隊第六護衛隊の対空装備はこちらとほぼ同じ。だとしたら、航空攻撃を主力とするこっちは一気に不利になるとサンディは分析した。



 DDG-172:護衛艦「しまかぜ」     機関室


 練習空母ほうしょうの前衛を護るのは、護衛艦しまかぜであった。しまかぜは現在戦闘システムで主流であるイージスシステムの一世代前のターター・システムを搭載していた。一世代前とはいえその対空防御能力は優秀で、ほうしょうの前衛を任されているのもなった口できる話であった。


「航空隊の連中、駆逐艦三隻を仕留めたらしい」

「うえは賑やかでいいよな、こっちは艦底で機関の御守だ」

「お前等、何やってんだ」

「はい、持ち場に戻ります」

 しまかぜの機関室で乗組員に怒鳴り散らしていたのは、隼弥であった。彼は四月でしまかぜの機関長を拝命し、名実ともに機関室の主ともいえるほどの存在感を持っていた。


「そろそろ、敵さんの攻撃機も来るはずや。そうなりゃ、狙われるのは後ろにいる、ほうしょうで間違いない。そうなりゃ艦長は、盾となってもミサイルを止めるそうや」

「機関長、そうなれば。本艦の役割も終わりで演習は終了ですね」

「はははッ、そうはいかんようやで。艦長はついでにダメージコントロール演習も行うと言とったからな」

「マジですか」

「そうや、大マジや。まぁそうならんように、上の大砲屋に願っとけや」

 隼弥の属する機関科は、いざというときの応急修理も担当する重要な部署であった。そのため艦内で最もチームワークを重視する部者であるともいえる。


『対空レーダーに感! 敵誘導弾高速で接近中! 之より対空戦闘に入る!』

「始まったぞ、全員担当部署に戻れ! 速よせい!」

 隼弥が談笑していた乗組員を、それぞれの担当部署に戻るように促す。促された乗組員は返事よりも早く、担当部署に戻りもしもの事態に備えていた。


 戦況を最下層の機関室にも伝えるため、艦内放送で船橋実況が始まる。

『右舷から突っ込んで来る敵機! 主砲撃ち方始め!』

『Lancerにて敵誘導弾を撃墜!』

『本艦に敵誘導弾急速接近中! 回避行動開始』

『主砲で対応中の敵機を撃墜! 主砲、敵誘導弾に対処開始』

「頼むぞ、大砲屋。今度もちゃんと撃墜してくれよな」

 ダメージコントロール訓練がよっぽどいやなのか、一人の乗組員が上層にいる、砲術科を拝むように手をすり合わせた。


『敵誘導弾、左舷より敵誘導弾接近! 近接防御はじめ!』

「こりゃ無理かもな、覚悟しやなあかんぞ」

 館内放送を聞いていた隼弥は、全員に覚悟するように告げると、応急司令部になる、機関制御室へと入っていった。


『……敵機誘導弾近づく!』

『敵機誘導弾本艦に命中! 命中場所、本艦左舷! 後部応急班、応急配置につけ!』

「そーら始まったで、戦争や戦争や!俺達の仕事や仕事ぉぉぉ! 被害箇所に急げ、走れッ、走れ!走れッ!」

「マジかよ、出番だ行くぞ」

「ちくしょう、どこ狙ってんだ、大砲屋は!」

 機関室の乗組員たちは、文句を言いながらも、敵誘導弾が命中した被害地区に向けて艦内を駆けて行った。



 DDH-185:護衛艦「ひえい」       艦橋


「艦長、空母部隊、前衛のしまかぜがやられました。敵誘導弾を左舷に受け、大破との判定を受けました」

「老朽艦のしまかぜじゃ、一寸荷が重かったか、どう思う副長」

「老朽艦ながら、よく防いだと思います。たしかにしまかぜこそ大破しましたが、他の艦艇は健在です」

「そう言う考え方もできるな。まぁ、台風も接近していることだし、最終段階と行こうじゃないか」

「了解です、艦長。僚艦に伝え、対水上戦用意!」

「艦長よりCIC! 主砲の電路開け!しっかり頼むぜ!冬華」

 ひえいとはぐろは自艦の射程距離であるラインまで、もう間もなくと言うところまで進出し、アメリカ海軍第三艦隊に対し砲撃戦を挑もうとしていた。



アメリカ海軍原子力空母

CVN-75:ジョージ・ワシントン    司令艦橋


「敵艦隊接近! 距離一〇〇キロ」

「ズムウォルトに射撃を命じなさい、レールガンが向こうだけではないことを教えてやりなさい」

「アイ・サー。ズムウォルト敵艦に対して砲撃を許可する」

「艦長無理です。ズムウォルトの主砲は確かにレールガンですが、対地用に造られたものです。ズムウォルトの管制システムでは高速で動く艦艇に対しては、とても命中するとは」

「やらないだけましよ! 我が艦隊は対艦ミサイルをすでに撃ち尽くしたわ、たった二隻に一〇〇発以上の対艦ミサイルを撃ち込んだのに、あの二隻はすべて処理してしまったわ! 一時間前に波を高くなって艦載機の発着艦が困難になった時から、勝敗は決していたのよ。でもやれることだけは全部やる。これが私のポリシー、此処だけは譲れないわ、全艦に告ぐ主砲砲撃距離まで最大戦速で肉薄し砲戦を開始しなさい!」

「了解、全艦に通達します」

「巡洋艦バンカー・ヒルに直撃弾と判定! 撃沈されました」

「ズムウォルトの初弾外れました!」

「一〇〇キロの彼方からのアウトレンジ攻撃。これが新たなる時代なの」

 サンディが力なくそう呟いた瞬間、原子力空母ジョージ・ワシントンのシステムが警報を鳴らした。それは深刻なダメージを受け行動不能であることを示していた。



 平成三十一年四月一二日

日本国

東京都:港区

扶桑重工業株式会社「Mizuho Tower」

五三階:応接室

 

今年の東京の桜は例年より少し遅く、今日になってようやく満開となったところであった。そんな満開の桜の中、花見もせずに尊博は仕事に明け暮れていた。

 今日は防衛省から防衛大臣繁太郎が来訪の予定であった。


「おお、来たか。あと十分遅かったら、赤坂離宮の外縁でも行こうと思ってたところじゃ」

「すみませんね、最近は大臣のスキャンダルを狙う、マスコミが多い物で。少し遠回りして地下鉄出来ましたから」

「それは大変でしたな。さっそくじゃが、わしもいそがしいものでのう。要件を聞きたい」

「えぇ、こうして会談の場を設けてくれたことには感謝しております。では早速ですが。戦時行われた日米合同演習はご存知ですか」

「もちろんじゃ。わしの孫が随分活躍したと、わしも鼻が高い」

「その、演習内容で米軍は、どうやら大きく舵をとったらしいです。これは防衛省情報本部からの情報なんですが、凍結されていたCGXつまり次世代型の巡洋艦について検討を開始したとか、そこでですが次期護衛艦の就役予定を大幅に前倒ししたいと言う、首相の意向を伝えに来ました」

「なろほど。よし、此方としては不可能ではないと、首相に伝えてほしい」

「そんな簡単に引き受けていいんですか」

「なぁに、こちらの造船擬銃をなめてもらっては困る。之でも一時期世界中の海を扶桑の鉄で埋め尽くした男じゃよ。昼夜問わない突貫工事なんぞ、朝飯前じゃ。日程の見直しもあるのじゃが、半年ぐらいは前倒し可能じゃ」

「と言う事は早くても来年には」

「自衛隊に引渡すことが可能となるじゃろう。政治的判断はそちらに任すぞ」

「もちろんです。それでは……そう言えば護衛艦ひえい副長ですが」

「うん?」

「次の帰港で、しばらく艦を下りてもらう事になりました。五輪もちかいですし、此処なら朝霞もちかいでしょうね。それではよろしくお願します」



 平成三十一年四月二十八日

 長崎県佐世保市

海上自衛隊佐世保基地:第三埠頭

DDG-185:護衛艦「ひえい」     露天艦橋


日米合同演習を無事終えた、第六艦隊は練習空母ほうしょうと共に、佐世保へと帰還した。練習空母ほうしょうは四月二十日に東京で行われた、日米首脳会談で行われた、大多田首相とアメリカ合衆国大統領ジョンソン・F・テイラーとの共同宣言で正式に空母キティ・ホークの譲渡と練習空母ほうしょうの保有が宣言された。この宣言は即時に全世界を駆け巡り、日本では各地で反対運動が起こっていた。

海上保安庁の警戒船が練習空母ほうしょうの周囲を取り囲み、抗議船が近づくことを阻止している間に、護衛艦ひえいは佐世保基地第三埠頭に接舷した。


「艦長、接舷作業完了しました」

「うん、ありがとう。これで尊征ちゃんのひえい副長としての最後の仕事が終わったわけだ」

「そう言う事になりますね。寂しいですか」

 尊征は少しふざけた口調で、華佳に聞いてみる。華佳も尊征のふざけた口調に合わせて、いつも通りに答えた。


「ものすごくな。でもオリンピックだから仕方ないこともあるわな。これから一年猛練習ってわけだな」

「はい。今日は取りあえず、借家に戻って休みますが、明日には東京の実家に帰ります」

「うん、頑張ってくれ。私を始めひえいの乗組員いや、海上自衛隊員全員が応援する」

「頼もしいですね、肩が重くて照準がずれてしまいそうです」

「おいおい、頼んだぜ」

「宜候。任せてください」

 その後尊征は手荷物をまとめて、ひえいの全乗組員に見送られながら、下艦した。


「はぁ、私の意気地なし、最後まで言えなかったぜ」

「相変わらずあなたは、変なところで小心者ね」

 尊征の見送りが終わり、一人露天艦橋で物思いに老けていた華佳にCICから出てきた冬華が話しかけた。


「冬華そう言うけどよ、あの鈍感さはないだろう。なんで人間関係になると、あそこまで鈍感なんだ、艦の操艦とか指揮とかは、感度抜群なのにな」

「あら? 尊征は昔からそう言う人間じゃない。それより、あなたもあなたよ。せっかく上官としての立場を利用して家までもぐりこんだくせに」

「あれは、とんだ邪魔が入っちまってそれどころじゃなかったんだ」

「まぁいいわ。私今夜は一時下艦するから」

「あぁ、どこに行くんだ。私は誘ってくれないのか」

「ごめんなさい。今日はちょっと無理」

 華佳の質問に、冬華は珍しく笑みを浮かべて断る。その笑みに華佳は不審に思い、脳内をフル回転させた。


「一寸待てよ、確かもう一人申請があったな……冬華お前!」

「なにかしら、そんな剣幕で」

「お前、翔馬と何時から、ちょッ!待てッ!」

「そうね、今日が初デートになるわね」

「この裏切り者!」

 華佳の絶叫が佐世保基地中に響いたことを、幸か不幸か尊征は知らなかった。


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