二 神魔
両雄並び立たずーー不二も泰山も唯一をうたう。
蚩尤と早良親王ーー黒石と白石が、碁盤目の京をはなれ、はるかmilky wayにて、会戦する。
蚩尤は牛頭六臂の魔神から、bronzeの体躯と鉄の額をそなえる牛頭鬼に変じ、その鋳物の口中から鉄をも熔解させるほむらい(焰)を吐く・・巨体をそびやかし、蚩尤旗をひるがえし
赤き戎装の兵主部がすすむ白石の軍勢を采配する。
「蛮夷! 王化に浴す栄をさずけてくれよう」
早良親王は、毒焔を吐き散らしながら、その丈をみるみる増して、赤黒い巨体の頂に冠をそびえさせるーー百鬼の軍団が進撃し、赤き軍装のひょうすべと、激突する!
惨、となった。
山と山が、
typhoon(颶風)の最中、激突し、
霊界をどよもし(豊響もし)
肢体や血しぶきを発する。
Typhonの慟哭する時空。
唐風の軍装をまとったひょうすべのなかには、鍾馗のごときいかめしいものもいて、鬼どもを斬り伏せ、その剛毛の生えた手足を舞わせる・・その勇士に、鬼の幢をなびかせる矛が、幾条となく突き込まれ、槍衾、血祭りに上げる・・
バベルの塔も及ばぬ高みまで・・
「ぬうあ」と、うめきながら、ひょうすべの闘士は、剣を振り回し、なお、近づく鬼どもを切り払う。
彼ほど大きくはないひょうすべは、突き込まれたその槍衾にひょいととびのり、さかしま(逆)に槍士まで槍の柄を渡ってたどりつき、おのれらの刀槍を鬼へ見舞った。
毒気をまき散らす悪鬼が、大金棒を振り下ろして、ひょうすべをダンダンエ(段々壊、惨死体)に変える。
鉄を熔かす高炉があってこその複雑な形状の得物、「狼牙棒」を振るう兵主部が殺到する。金属のspikeをはやした長い棒で、これが、鬼の皮肉に叩きつけられ、引っかけ、小惑星さながら、巨人を地面へ引き下ろす・・・たちまち、兵士が殺到して、首級を挙げる。
親王側にもひとがいる。大伴、主上のともまわりの名を持つ武人らが太刀を抜き、唐風装束のひょうすべらを斬り伏せる。
「妖王! 覚悟おー!」
大伴竹良・・藤原種継暗殺の実行犯が、太刀を抜きさらして、銅身鉄額のMinotaur に肉迫する。
ぬ、
っ~
と、蚩尤が、無造作に伸ばした、六本腕の一本・・ゆいいつ、五矛にぎらぬ赤手空拳が
が
っ、
と、その頭頂を、押さえつけた!
万金の固さーー泰山の重みーーーそれを感じたときには、もう、その魔手は、杭のようにめり込み、
「あぐあ」
と吼える鬼哭を断末魔にして、彼を、地面と、たなごころ(掌)とのあいだで、圧搾し、無残な、衣と血肉と鉄器の混合物にかえてしまう。
う、
雄、
吽ー
ओम्
蚩尤は吼えると、竹良の死骸へ、その五矛の一本を、突き刺した!
『山中でタタラをおこすとき、そばに鉄の神の金屋子神を祭るのが常だった』
『石塚尊俊氏は、この信仰についての禁忌や呪術も採集されている。ムラゲというのはタタラの技師長のことだが、どうしても鉄が沸かないときは、作業場の四隅の四本柱に死体をたてかけておくこともあったという。金屋子神は死のけがれを忌まず、むしろ死人が好きだという性質があったからである』 (司馬遼太郎「街道を行く」砂鉄のみち)
土生金。
Earth Create Metal
人の死体は、「土」行に属するものだ。
「噫」
「あぐお」
「くああ」
戦場の地面から、
無数の戈、矛、戟、酋矛、夷矛、
刀槍、
Claymore
種々様々な兵器が飛び出してきて、百鬼を、大伴氏を、魔群を、鋭鋒で食い破り、長柄で押しあげるーーーー
血祭り。
血祭り。
尖端から柄を伝い、百鬼の血潮が、戦場を濡らす。
ひょうすべどもは歓声を上げ、そうやって生み出された武器を手に取り、兵器も兵士も消耗品とする戦場へ消えていく。
夏草や兵どもが夢の跡
「ハン」
早良親王が、ひいらり、蝙蝠扇を舞わせると、
それらは、たちまち、翼を生やした蝙蝠に変わり、数え切れない羽ばたきを起こして、
夜のように黒々と、ひょうすべの赤き軍装をぬりつぶす!
「ひあうあ」
「あくあ」
悲鳴が起こり、蝙蝠の歯牙が、ひょうすべどもの首筋を食い破り、血をすする。
「えびすはものを知らぬ」
早良親王は、焔を吐きながら、言う。
「世に、二度死ぬ鬼はおらぬもの」
かしり(呪文)をとなえると、蚩尤が召喚した無数の兵器で槍玉に挙げられ、絶命していた鬼どものまなこに生気ーーーいや、鬼気がともる。
わが身をつらぬき、押しあげる長物の竿から、身をよじって、死人が、地面に降りる。
それきり、もはや得物を取るのもまだるっこしいと言いたげに、zombieどもは、鉤爪と歯牙を武器に、兵士たちへ襲いかかる。
opposition
凶星妖星、いずれも、碁盤のぢ(地、陣地)をゆずらない。




