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兵主部壱 長岡混沌京  作者: ずずつすず
牛頭の祝
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37/47

八 五月雨

 長岡の地に、雨が降る。

 天を覆う鈍色の雲は、大きく、広く、重なり合って、そこから、しとしと降っていた雨が、今や、絶え間なく、雨粒の線で視界を占める。

 皐月も、下旬に入って、梅雨が本格化している。

  〽さみだれによのふけゆけばほととぎす ひとりやまへをなきてすぐなり

刷雄は、図書寮で、鬼火が燃え、巻子がひとりでに宙を舞うなか、雨音を聞きながら、仕事を進める。

 悪所にばかりかかずらってはいられない。

 (やはり、製紙部署が入り用になる。木簡竹簡ではかさばってゆかぬ)

 昼下がり、陰陽寮の遣いが来た。

 刷雄は世道を呼び、奥の間で高橋御坂からの書状を見せる。

 

 悪所は、至極無事平穏になった。

 猖獗を極めていた病が、少しずつ、着実に、終息へ向かっている。

 五月雨の中、唐様のジュウイ(戎衣、兵装)をまとった、ひょうすべ(兵主部)らしきものどもが哨戒し、槍や剣で、疫鬼を追う。

 

 (蚩尤の眷族か)

 「具合が良さそうじゃのう」

 「われらも、精励しましたからな。唐様を、大和振りへ」

 「わしも若い頃、向こうから取り入れたものよ。まだまだ、くり返さねばな」

 ふ、と、沈黙が生まれる。

 同じことを思ったのだろう。向こうからやって来て、こちら側のものになる。

 いいも悪いもない。

 個々人の事跡とか、志操とか、そういうものではないのだ。

 「・・間もなく、土工司も、悪所の工事にかかるとのこと」

 「いつにのう、動きが早い」

 笑う。

 「定めし、経費も労力も、他にあてがあるのじゃろうて」

 「とんでもないものですな。秦氏の財力は」

 「あれらが、いつ頃から畿内に植民し、開拓に励んでおると思う。秦の技術は多岐にわたるが、その最たるものは、農業と土木ぞ。富も技術の蓄積も、いくらでも、じゃ」

 「悪所も、ひとだんらく、というところですか」

 (落ち着くべきところには、落ち着かせたはずじゃ)

 

 ことをえのまつり(竣工祭)では、大伴の軍歌を捧げ、軍神を皇城の守護神にした。

 やれるだけのことはやっている。

 

 それでも、なお。

 

 どこか、不安が残るのだ。

 この新京にあって、もとい(基礎)をたがえる、歪んだ基礎の上に、はたして、長久の都が建つのだろうか?

 

 腑に落ちない、というのか、やり残した感覚が、心から離れない。

 

 

 



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