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兵主部壱 長岡混沌京  作者: ずずつすず
牛頭の祝
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36/47

七 地蔵

 皐月が進み、雨の日が多い。

 こうなると、汚物が雨に打ち砕かれ、水に融けて、鼻も目も覆いたくなるような惨状になりそうなものだ。

 それが、不思議と、水は清く、異臭も、ところどころに切れ間があり、息をつくことができる。

 

 病が収まりつつあるのは明らかで、恢復した病者の声が上がり、子供などが、嬉しそうに雨に打たれている姿が見える。

 

 その童の目は、いぶかしそうに丸まったかも知れない。

 しゃらん、しゃらん、と、金輪を鳴らし、錫杖を突き突き、肩まで届く福耳の比丘僧が、歩いている。

 額で渦巻く毛のようなものといい、よくよく考えれば、妖怪のような坊主だ。

 なのに、少しも恐ろしくない。

 むしろ、積極的に近づきたくてたまらない。

 まあ、もののけと、カクジャ(覚者)の差だろう。

 その比丘の後背から、燦々と光が射している。

 射していることに気づくと、後光は、刻一刻と強まり、仏国土のヨケイ(余慶)で、巷間を払底する。

 なのに、童は、おそろしくない。

 ただただ、崇高な気持ちに打たれて、膝を折り、手を合わせてしまう。

 しずしずと、光の中近づいてくる。

 頭を撫でられると、うれしくて仕方がない。

 

 

 に、

 こ。

 

 

 地蔵尊がほほ笑まれる。

 通り過ぎていく。

 

 (めでたや〈目出度や〉)

 悪所を廻りながら、地蔵尊は思う。

 

 ほほ笑まれていた。その目は空高くを見つめていた。

 あらたま(璞)のごとき悪神が、まごうことなき玉となった。

 王に次ぐ、玉将に。

 

 だが、コウリュウ(亢龍)悔いあり。

 亢龍、つまり、天に上り詰めた龍は、あとは、下る他ない。

 地蔵尊は、このとき、玉にきず(瑕)を、ハクヘキ(白璧)のビカ(微瑕)を見ていたのである。

 

 

 

 


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