七 地蔵
皐月が進み、雨の日が多い。
こうなると、汚物が雨に打ち砕かれ、水に融けて、鼻も目も覆いたくなるような惨状になりそうなものだ。
それが、不思議と、水は清く、異臭も、ところどころに切れ間があり、息をつくことができる。
病が収まりつつあるのは明らかで、恢復した病者の声が上がり、子供などが、嬉しそうに雨に打たれている姿が見える。
その童の目は、いぶかしそうに丸まったかも知れない。
しゃらん、しゃらん、と、金輪を鳴らし、錫杖を突き突き、肩まで届く福耳の比丘僧が、歩いている。
額で渦巻く毛のようなものといい、よくよく考えれば、妖怪のような坊主だ。
なのに、少しも恐ろしくない。
むしろ、積極的に近づきたくてたまらない。
まあ、もののけと、カクジャ(覚者)の差だろう。
その比丘の後背から、燦々と光が射している。
射していることに気づくと、後光は、刻一刻と強まり、仏国土のヨケイ(余慶)で、巷間を払底する。
なのに、童は、おそろしくない。
ただただ、崇高な気持ちに打たれて、膝を折り、手を合わせてしまう。
しずしずと、光の中近づいてくる。
頭を撫でられると、うれしくて仕方がない。
に、
こ。
地蔵尊がほほ笑まれる。
通り過ぎていく。
(めでたや〈目出度や〉)
悪所を廻りながら、地蔵尊は思う。
ほほ笑まれていた。その目は空高くを見つめていた。
あらたま(璞)のごとき悪神が、まごうことなき玉となった。
王に次ぐ、玉将に。
だが、コウリュウ(亢龍)悔いあり。
亢龍、つまり、天に上り詰めた龍は、あとは、下る他ない。
地蔵尊は、このとき、玉にきず(瑕)を、ハクヘキ(白璧)のビカ(微瑕)を見ていたのである。




