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兵主部壱 長岡混沌京  作者: ずずつすず
牛頭の祝
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31/47

二 ひょうすべ

 兵主神社の建立は、急速に進む。

 下京へ詰めかける工匠、荷役、商人は、ずいぶんな数になり、人も物も、盛んに投入される。

 「何事か」

 京中の人々は耳目をそばだたせた。

 「ほれ、下京の官社」「にぎにぎしいのう」「いやはや、これはなんというのか」

 兵主神社建立に集うものたち、その、不思議に通底するものがある風貌に、見入る。

 「鬼か」

 そう言ってあやしむものもいる。

 鬼、というのは、ばけもの一般を指す。

 そして、殺人鬼とか、仕事の鬼とか、尋常一様を外れた人間をすらいう。

 「使鬼《しき》」

 「陰陽師どもの式神か」

 「おお、そういえば」

 うわさ話を吹聴するものも出る。

 「本当に、式神やも知れぬぞ。ほれ、春日大社が建立された折り」

 「ああ。あの大工事」

 「当時、監督を務めておったたくみのかみ(内匠頭)が、人形をひとに変えて使役したという。式じゃ」

 「式神」

 「あれらも、その伝やも知れぬ。兵主神社建立のため、使わされた式神よ」

 「そう言われれば、どことのう異相」

 「妙に、顔立ちが似通っておるのう」

 秦の血がいかに薄まっていたとしても、大人数が集まれば、人目を引く。

 ちなみに、兵主神社は、他にもある。

 滋賀、奈良、兵庫、岡山、壱岐、と、秦氏の渡来と、勢力発展のルートに点在している。 実際、創建も古く、この物語以前のものが多い。

 祭神の兵主神は、素戔嗚尊や、八千矛神、おほなむちのみこと(大己貴命)大物主神、要するに、おほくにぬしみこと(大国主命)となる。

 荒ぶる軍神の一面を持つ記紀神話の神々だが、秦氏の神である兵主が、習合したのだろう。

 春日大社の人形を式神とし、工事を手伝わせた件でも、秦氏の影がちらついている。

 秦氏は古くから藤原氏に接近しており、その氏社である春日大社の工事にも、協力した可能性が高い。

 秦の手のものは、式神なのだ。

 

 

 

 秦氏が、建立に励む様は、氏社を建立しようとしている、という事情を知らぬと、異様に映る。

 

 ひょうすべ

 

 という呼び名が、一般的になっていった。

 兵主部《ひょうすべ》、と、書く。

 兵主神に奉仕し、その社の建立にいそしむものども。

 民部省・兵部省・文部省の「部」

 部署、部族、語り部の「部」だ。

 ひょうすべ。

 兵主神の一族。

 さつき(皐月)が近づき、五月雨の前駆がぱらつく。

 曇り空の下、細雨に打たれ、鬼気迫るギョウボウ(形貌)で、兵主部が、励む。

 

 

 


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