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兵主部壱 長岡混沌京  作者: ずずつすず
牛頭の祝
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30/47

一 残響

 その四、習合《シンクレティズム》

  

 「名推理でしたな」

 悪所から離れて行く道中、世道が言った。

 「む」

 「裏で手を引いているのが、秦氏であったという下り」

 刷雄は、嘆息する。

 「新京造営以来、連中の身の入れようはあきらかじゃ。こたび、おのれの氏神を祀るにあたって、シャニムニ運動し、経費を請け負うのは見えておった。徐福の顔立ち、工夫商人その他、こんりゅう(建立)にたずさわっている面々の造作、その共通点に気づいてからは、一気呵成よ。氏族ぐるみ、しかも、経済も技術も全般に。秦氏なら、自ら請け負おう」

 秦氏。

 大陸からやって来た、東西(大和河内)の漢氏に並ぶ、渡来人系氏族の巨頭。

 漢氏は、さかのうえ氏(坂上氏)などの氏族に分かれ、大蔵官僚や武人を出している。美濃に大きな技術者集団を擁するも、とつ国(外国)ぶりはすでにない。

 異風は、もう、なくなりつつある。

 国風《わがくにぶり》の時代。

 (連中のきらめきも、これより成熟する国風に息づくこととなろう)

 祭祀の家藤原に属するものとしては、国風に軸足を置く以外の選択肢はない。

 それでも、綾織りのように、あでやかで、異彩を匂わせるよこいと(緯)が、ところどころにのぞく。

 そういうのは、悪くない。

 そういう変化が、全体を活かすことともなろう。

 背後から、霊感に響くものがあり、振り返った。

 そこには、月をも脅かす、兵主、蚩尤の大身がある。

 静物と化していて、尊像であり、それでいて、生きて、生彩を帯びている。

 (毘盧遮那仏)

 奈良の大仏をふと思う。あれも、渡来人の技術力のたまものだ。

 あれほど巨大な造形を、鍍金する能力は、海の向こうならではだ。

 

 刷雄の目に甦ったのは、奈良の大仏開眼会(かいげんゑ)だ。

 大仏は未完成だが、その日、神霊を宿す。魂を入れるのだ。

 轟く声明(仏教声楽)ーーー列成す「散楽」サンガクの徒・・

 散楽、というのは、circus団だ。

 Alexandria

 Greece

 Roma

 それらで発祥し、Silk Road を経由して、中国へ、日本へ伝来した。曲芸、軽業、奇術・・散楽とは、宮廷の格調高い雅楽とは対照的な、大衆芸能ということだ。変面という化粧をし、刀でjugglingしたり、あるいは火を吐いたかもしれない。

 大仏に魂を入れる国家の儀式だ。

 声明が朗々と響く中、そんな雑伎団が芸を披露するーーー供養する。

 この一事で、渡来した頃の余熱が残っていた奈良仏教が、われわれの知る仏教とはまるで別物だったと分かる。

 葬式仏教どころではない。

 国際色を豊かに帯びた、明色の思想だった。

 刷雄は、開眼会の年に、入唐した。だから、あのきらめきと異彩、興奮をよく覚えている。

 唐散楽のみではない。あの日は、日本の久米舞や大歌も奉じられた。

 林邑(Vietnam音楽)

 高麗《こま》楽も。

 異色の造形の面をつけた演者たちが、伎楽を演じた。伎楽面は、maskではなくhelmetだ。スッポリとかぶる。「治道」「迦楼羅」「金剛」「酔胡王」「崑崙」・・黙劇ながら、演者の肉体が躍動する雄弁さ!

 

 


 おのれの内側で宿ったほとぼりには、当初、気づかなかった。

 まぶちからこぼれたそれが、夜気に冷えた。

 

 さ(・)み(・)し(・)い(・)。

 

 この気持ちに、理屈はない。

 

 

 兵主は、ギギ(巍々)として、そびえる、と、形容すべき高みにある。

 

 (おぬしらがいなくなるのは、さぞ寂しかろうよ・・異国人よ)

 依然、うずき、どうかすると骨の根を揺さぶる震えを、押し殺す。

 

 「与力しましょう」

 

 世道が言う。彼も、蚩尤を見ている。

 「天気すでに定まった以上、われらは従うのみ」

 「うむ」

 (盛事じゃ)

 たけなわを飾らん。

 

 古代以来の盛宴が、果てようとしているのだ。

 

 

 

 

 

 


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