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第15話 アンデッド討伐

 ひょんなことから、エリートでいつも威張っているエリーゼ課長が、実は女性には珍しく魔力が無くバフを使えないという秘密を知ってしまった僕は、エリーゼの命令で彼女の秘書に配置換えになった。


 それから常に、エリーゼは僕を側に置き、会議でも、視察でも、どこにでも同行させるようになった。

 もしかしたら、僕が秘密を洩らさないように監視されているのだろうか?

 この人、本当に小心者だな~。


 今日も今日とて、課内会議に同席し、机の端でメモを取らされている。


「ジョディ!!街道にアンデッドが大量発生した件、まだ解決してないのか?ギルドの連中は何をしてるんだ?」


「すみません……彼らも頑張ってはいるんですが、なにぶん討伐しても、すぐに次々と発生してしまうので……」


「たるんでるんじゃないのか!!もっと厳しく指導しろ!!」


 エリーゼが机を平手でバンッと叩き、報告していたジョディが「ひぇっ」と言いながら首をすくめる。


「テルマもそうだ!!監査が甘いんじゃないのか!!ギルドの連中、わざとアンデッドを全滅させないで、討伐料を二重に稼ごうとしてるんじゃないか?」


「あっ、いえ、そんなことはないと思いますが……」


 急に話を振られたテルマが、あわあわと慌てている。


「来週には王都から、王族のシャーロット殿下を団長とする視察団が来られる。もしシャーロット殿下が街道でアンデッドに襲われるようなことになったらただじゃすまないぞ。それまでに絶対にアンデッドを根絶するんだ。いいな!!」


「「はいっ!!」」


 ジョディとテルマは震えながら声を揃えた。


「カズキ!この後の予定はどうなってる?」


「はい。ギルド本部へ行く予定ですが」


「わかった。わたしからもギルドマスターに話しておく。今日の会議はここまで!!」


 エリーゼの言葉に課員たちは、逃げるように会議室から出て行った。


 エリーゼは、部下の課員たちから恐怖の大王のように恐れられている。

 特に最近は、やたらとジョディとテルマに対して当たりが強い。こういうの、パワハラっていうんじゃないかな?


 しっかし、この人、いつも偉そうにしてるけど魔力が無くてバフも使えなくて、ゴブリンにも瞬殺されるくらい、ひ弱なんだよな~。そう思うと、なんかかわいく見えてくる。


「なんだ、カズキ。何がおかしい?」


「いいえ~。なんでもないです~」


 ニヤつきながら答えると、エリーゼは、ばつが悪そうに顔を背けた。



「これはこれは、エリーゼ課長様、自らお越しになられたとは恐れ入ります」


 ギルドへ視察に赴くと、ギルドマスターと幹部たちが玄関前で出迎え、深く頭を下げた。


 あのゴブリンに襲われた一件以来、エリーゼはギルドで丁重にもてなされるようになった。前に会った時は、ギルドマスターも少しエリーゼをあなどった慇懃無礼な態度を取っていたのに、もはやそんな様子はみじんも感じられない。


「ふんっ、ジョディやテルマの奴らを寄越したら、どんな工作をするかわかったもんじゃないからな。それよりもアンデッドの討伐はどうなっている?全然できてないじゃないか!!」


「あっ、いえ、あの、お知らせを受けまして、すぐに選りすぐりの精鋭で討伐隊を組織しました。わがギルドのトップであるソフィア・スカーレットを団長とした……」


エリーゼの居丈高な態度に、魔女のような怖い顔をしたギルドマスターも形無しのようで、しゅんとうなだれる。しかしエリーゼは容赦せず畳みかける。


「準備できているならさっさと討伐に行け!なにをもたもたしているのだ!!」


「しかし、我々もモンスターの全容を掴めておりませんので……。まずは偵察隊を派遣して、持ち帰った情報を分析して、綿密な討伐作戦を立てさせてください。そうしませんと冒険者の安全を確保できません……」


「遅い!!そんなことをしているうちに、王都からの視察団が来てしまうではないか!!」


 エリーゼの怒りを込めた一喝に、ギルドマスターは絶句しうつむいた。


「ちゃんと討伐料は支払う。すぐに討伐隊を派遣しろ!お前ら冒険者は、金さえもらえば何でもするのであろう?なあ、ギルドマスター?」


 エリーゼがニヤリと笑いかけると、なぜかギルドマスターはガタガタと震え出し、「わかりました。すぐに討伐隊を送ります」と小さくつぶやいた。


「じゃあ、わたしたちは中で待たせてもらう。良い報告を待っているからな!!」


 エリーゼは、そう言い放ち、居並ぶギルドマスターや幹部たちを無視して、勝手にギルド本部の応接室へと入っていく。


 僕も慌てて続いたけど、ギルドのメンバーは誰も追いかけてこなかったので、応接室でエリーゼと二人になった。


 応接室へ入ってからも、エリーゼはなぜかぷりぷりと怒り続けていた。


 僕も気まずかったので、エリーゼのお弁当の手配をしたり、役所へ次の予定をキャンセルする連絡をしたりと、用事を見つけては忙しく動いていたけど、やがてやることがなくなってしまった。


「…………」


 エリーゼはずっと腕組みをして、眉間に皺を寄せている。普段は怒っても、元々の見た目が愛嬌があるからそんなに怖くないんだけど、今日は恐ろしいくらいの怒気を放っている。


「……あの、なんでそんなに怒ってるんですか?」


 思わずそう聞いてしまった。エリーゼがこんなに怒るような理由はまったく思い当たらない。


「あいつらが、わたしをなめてるからだ!!ウォルフガング家の家訓は、『なめられたら10倍返し』だからな」


「えっ?アンデッド討伐のことですか?別に課長をなめてやらないわけじゃなくて、本当に準備に時間がかかってるだけだと思いますよ」


 アンデッド大量発生の件はソフィアからも聞いている。

 ソフィアの話によれば、そもそも、なぜ急に大量発生し始めたのかわからない。もしかしたら偶発的な発生じゃなくて、ネクロマンサーによってアンデット軍団が組織されているのかもしれない、だったら慎重に対応しなければいけないとも言っていた。


 だから、さっきのギルドマスターの説明も納得できる。安全確保のために、まずは偵察隊を送るのはもっともだと思う。


「違う!!あいつらは、わたしを嵌めようとしてるんだ。ほら、覚えてるか?こないだの視察でゴブリンの群れに襲われただろ?」


「はい……。課長がゴブリンに腰を抜かして泣いてましたよね」


「それは忘れろ!!それよりも知ってる?あれはジョディとテルマがギルドマスターに金を払って仕組んだんだ。わたしの情報網を使って裏を取ったから間違いない。きっと、わたしが、ゴブリンに苦戦する姿を晒して、恥をかかせようと思ったんじゃないか?あいつら、自分よりずっと若いわたしが上に立つことが気に食わないんだろ」


 エリーゼは足と腕を組みながら、フンッと吐き捨てた。


「今回だってそうだ。アンデッドが大量発生したのは1か月も前だぞ!それなのに今さら偵察?きっと、わざと討伐しないでおいて、王都からの視察団の前でわたしに恥をかかせるつもりなんだ!!冒険者は金さえ貰えれば何でもするってごろつきばかりだからな」


 エリーゼのこの言葉は聞き捨てならなかった。僕は一瞬で頭に血が昇り、エリーゼを睨みつけた。


「やめてください!!冒険者の人たちは、いつも危険を顧みず、仕事に真摯に向き合ってます!!」


 僕が強く抗議すると、エリーゼは一瞬ひるんで目をぱちくりさせていたけど、すぐに何かを察したかのようにニヤリと笑った。


「そうか……。そういえばカズキのパートナーは冒険者だったな。だから冒険者の肩を持ってるのか?」


「そうじゃなくて……。いえ、いつもソフィアを近くで見てるからわかってます。冒険者の方は真面目に仕事に取り組んでます。課長が、思っているようなごろつきではありません」


 僕はエリーゼを睨みつけた。だけど彼女は余裕のある表情を崩さず、そのまま僕の肩に右手を置いた。左手は僕の腰に回されている。


「カズキ、君はまだ世間がわかってない。ごろつきみたいな冒険者よりも、ずっといい女はいっぱいいるぞ。パートナーとの関係も考え直した方がいいんじゃないか?」


 にやついた表情に怒りを覚えて、エリーゼの手を払いのけようとした時だった。応接室の扉がノックもないまま、勢いよく開かれ、サンドラが踊り込んで来た。


 サンドラはエリーゼが僕の肩に手を置いているのを見て、一瞬、キッと僕達を睨みつける。僕は慌ててエリーゼの手を払いのける。


「サンドラさん、どうしました?何かあったんですか?」


 サンドラはすぐにハッとした表情になった。


「カズキさん、大変です!!ソフィアさんの討伐隊がアンデッドの大集団に襲われて、ソフィアさんがっっ!!」


 僕は一瞬で気が遠くなりそうになった。


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