プロローグ
5月1日から1日おき更新。初回は3話投稿です。
「おいっ!カズキ、なんで、さっきあいつらに、あんな、なめたこと言ってたんだ?」
最愛の妻であるソフィア・スカーレットの冒険者仲間を家でもてなしたその日、笑顔で来客を送り出すや否や、振り返った彼女は急に目を吊り上げた。
「あっ、いや…あの…?なんのこと?」
詰め寄られた僕は後ずさり、ソフィアが怖い顔で詰め寄り、僕が後ずさることを繰り返しているうちに、いつの間にか寝室まで押し込まれていた。
「ナディアとサンドラに、バフのやり方を聞いてただろ?バフを身に付けて冒険者として働くとも言ってたな?あれはどういうことだ?聞いてないぞ!」
ソフィアの真紅の瞳には激しい怒りの炎が宿っている。
ちらりと後ろにベッドが見えた。
その瞬間、彼女に胸倉を掴まれ、そのまま宙を舞ってベッドの上に投げ飛ばされた。
「お前がバフを使えるようになる?それであたしたちみたいに外で戦う?ハッ!できるわけないだろ!!」
ソフィアは、そのままマウントポジションでのしかかった。その体は女性としても小さく、そして細い。それでも僕は言葉すら出せないくらい完全に制圧されてしまっている。
「言っとくが、あたしはほとんど力を入れてないぞ!!それでもお前は簡単に投げられて、今もまったく動けないだろ?そんなか弱い体で外の世界へ出てみろ!!あっという間にモンスターの餌食だ。お前だったらゴブリンにすら勝てないだろうな!!」
彼女が言う通りだ。彼女の体重も僕よりは10kg以上少ないはず。
もし元の世界だったら軽く払いのけられるだろう。
でも、この世界では無理だ。この世界の男と女には圧倒的な力の差がある……。
「いいか!!あたしはお前のことを思って言ってやってるんだぞ!!お前を守ってやるって、いつも言ってるだろ!!あたしが外で冒険者として働くから、お前はのんびり安全な家で待ってればいい!!それの何が不満なんだ!!」
ソフィアの真紅の瞳が僕を見据えている。僕を本気で心配してくれている。だから僕も素直に過ちを認めることにした
「ごめんなさい…僕が間違ってました」
僕がそうつぶやくと、肩に置かれた腕の力が緩み、やっと体を自由に動かせるようになった。
「……わかればいい。ほら、起きろ。片付けとかあるだろ……」
ソフィアは踵を返し、居間へ戻って行った。僕も身を起こし、お皿とか食べ残しを片付けるために後に続く。
その時、ソフィアがぽつりとつぶやいた。
「お前なんか、この家から追い出されたら三日と生きられず、すぐに死ぬしかないからな」
その言葉が僕の胸に鋭く突き刺さった。
僕が転移してしまったこの世界……男よりも女の方が、圧倒的に力が強く、社会的地位も高いこの世界に転移してから1年あまり。専業主夫としてソフィアに養ってもらう生活に不満を感じたことはなかった。
だけど、この夜、このソフィアの言葉で、はっきりと自分の立場が再認識された。
僕は守ってもらわなければ死んでしまう、か弱い立場。この世界では最弱の存在。
何も言い返せない。
なんで僕はこんな女尊男卑の世界に転移してしまったんだろう?
僕は、あの失意に沈んだ最低の日を思い出した……。




