第2編 会
その少年は、俺とほぼ同じくらいの背格好をしていた。誰かはわからない。同じ学年だったとしても、たぶん違うクラスなんだ。
彼は、俺と同じような、暴行を受けていた。…あいつらが俺への暴行を短い時間で済ませたのは、これが原因か…。
…助けなければ…。そう、頭では考えていた。だが、体がいうことを聞かない。額からは恐怖による脂汗が流れてきた。
結局、俺は一条と北上が帰っていくまで、俺は影からそれを眺めていることしかできなかった。
そして、2人がその場を去ると、すぐさまその少年のもとへ向かった。
英春「…き、君…。」
「…だ、誰…。」
英春「俺は、高倉英春。2年1組…。俺も、さっきの2人にいじめられてる…。」
「え、君も…?」
彼は、まだ痛みが治まっていないはずなのに、無理に体を起こしてこちらに顔を見せた。
「…そうか…。君が、あの英春か…。散々いじめられてもくじけない心の持ち主だって。」
英春「……。」
その言葉は、おそらく外部の人間が意図的に広めた言葉なのだろうが、悪意を感じる。
「あ、僕は山本俊太。2年3組。よろしく、英春。」
英春「…ああ、よろしく。」
その後、俺たちはまさかの意気投合。お互い似た境遇なのか、はたまた趣味が似ているのかはよくわからないが、とにかく俺たちは自然と仲良くなった。
そうして話していると、遠くから5時を知らせる音楽が鳴り響いてきた。
俊太「じゃあ僕はこっちだから。明日もまた会おう。」
英春「…もちろん!また明日。」
俺はこの時、今までにないくらいの笑顔だったらしい。じいちゃんが逆に心配するくらいには…。
英楽「お、おいどうした英春…。嫌なことでもあったか…。」
英春「いやいや、何でそうなるの!?」
英楽「いや、お前がここまで笑顔なの、滅多にないからな…。」
英春「いや、今日、友達ができた。」
その瞬間、夕食をよそっていたじいちゃんの手が一瞬止まった。そして、次の瞬間、大声でこちらに近づいて来た。
英楽「本当か!本当に友達ができたのか!」
英春「う、うん…。俺嘘なんて滅多についてないじゃん…。」
英楽「いや、一安心だ。学校でも仲間ができたってことだからな。その友達、大切にしろよ。」
俺は、どうも嫌な予感がしたので、俊太も俺と同じいじめられっ子であるってことは教えなかった。
その日は、久しぶりにぐっすり眠ることができたと思う。
朝になった。またいつものように憂鬱な気分が一瞬訪れたが、それはすぐに消え去った。
理由は自分でもよくわかっている。
俺は朝食を食べると、珍しくすぐに家を飛び出した。
一春「なんか、兄ちゃん一気に明るくなったね。」
英楽「…あんまり、油断しなければいいんだがなあ…。」
家を出たときは、軽い足取りだったのに、学校に1メートル、1センチ、1ミリでも近づくごとに、俺の足どりは重くなってきた。
ついには、学校のすぐ近くにある公園のブランコに座っていた。
公園の木の隙間から、同じ学校の人がゾロゾロと列を作って歩いている。
そう、何も、苦労なんてない人たちが…。
特に、黒髪の男子、ピンク髪の女子、茶色の髪の男女の合わせて4人のグループには、うらやましいとさえ思えた。
暴力と周囲の圧力なんて存在せず、ただ日頃の会話を楽しめるような状況にいる、あの子たちが…。
そう考えると、ますます心が痛くなる…。
英春「まあいいや。学校なんて無断欠席すれば…。」
そう言うと、俺はあてもなくブランコをこぎ始めた。
こげばこぐほど高さが増していくが、自然と恐怖心はない。むしろ、爽快だ。
そうしてひたすらにブランコに座っていると、学校の人の列はなくなっていた。
俺自身も、いつの間にかこぐのをやめていた。
少しずつブランコは高さを失い、やがて地面で止まった。
もはやベンチ代わりでこれを使っているようなものだ…。
俊太「あれ、学校休むのかい?」
英春「うわッ…びっくりした…。あいつらかと思った。」
俊太「へへ、あの2人もさすがに学校抜け出してまで殴りには来ないだろ。あ、これ、食べる?」
英春「あ、…ありがとう…。」
後ろには、いつの間にか俊太がいた。そして、小袋のポテトチップスを1袋わけてくれた。
俊太「ほんで、学校は休む?」
英春「まあ、俺はな…。…ここにいるってことは、俊太も休むんじゃないのか?」
俊太「当たり。だってわざわざ殴られに行きたかないよな。」
英春「…わかるなあ…。」
そうして、俺たちはまたもや無断欠席をすることにした。
学校が見えるこの公園は嫌なので、俺たちは別の公園に移って、遊具で遊んだり、話したりしていた。
…こういうのが、毎日のように続けばいいのにな……。
本当に、心の底からそう思う…。でも………、現実はそう簡単じゃない。小学2年生にこの言葉を思い浮かばせた学校には、いずれ行かなければならない…。




