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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 第二幕 殿の兵士

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第72話 絶望と希望

 被験体No.42『ローハン・ハインラッド』の実戦記録――


 実に興味深い結果が出た。

 ■■■■を施す者には個体差があると思っていたが、まさかこれ程とは。

 術式に耐え抜き発現した12人の戦闘力はピンきりだが、課題は持続力だった。加えてデータを取るのが最前線ともなると私自身が易々とは赴けない事もあって研究は遅々として進まなかった。

 しかし、No.42の彼は■■■■だった時の事を少しだけ覚えている様だった。私は彼が■■■■へ適応しようとしていると推測する。

 彼は■■■■へなった際に目的を果たせば可能な限り理想的なタイミングで元に戻る。

 素晴らしい。おそらく■■■■の仕組みを本能的に理解しようとしているのだろう。この辺りは被験体の素質によるが、彼はその適正があったらしい。

 頼もしい限りだ。生みの親である私でさえ■■■■の仕組みは完全に理解していない。

 彼を観察し続ければこの■■■■をあらゆるリスクを無くした究極の術として完成させる事が出来るだろう。

 それにしても体は名を表すとはよく言う。

 ■■■■の事を【オールデットワン】と呼ぶとはね。


記述者:技術研究長オズウェル・ハイマー






 フレイの放った渾身の『炸裂拳』を直撃した【オールデットワン】の身体は大してダメージを受けて居なかった。


「ハァ……ハァ……ハァ……くっ……くそ……」


 対するフレイの片腕は肩先まで完全に消失しつつ身体の半分が爆熱で焼き焦げていた。

 コイツ……あたしの一撃を『反射』……し――


 【オールデットワン】の長腕がフレイを覆うように掴むと、そのまま果実のように握り潰す。


「フレイ――」


 吹き飛んだ衝撃に怯むエクレアは【オールデットワン】を見る。

 奴は自分達に追撃をしてこない。ソレはもはや自分が直接手を下す必要は無くなった事を意味していた。


 そう……『鳴神の雷鼓』が起動する。


 するとエクレアはナイフを起動前の『鳴神の雷鼓』へ投擲。風船から空気が抜けるように膨大な雷魔力が漏れ出ると周囲に散らない様に制御を始める。そして、


「――――セルギさん! 貴女の背後の『土壁』に亀裂です! 破壊して脱出してください!」


 もはや、自分に出来る事は一秒でも長く『鳴神の雷鼓』の発動を抑える事だけだった。

 肌が焼け、肉が焼けて行くエクレアは自分の全てを賭してでも抵抗を続ける。


「! 皆はどうするっスか!?」

「私達は間に合わないわ。行きなさい」


 ソイフォンが【オールデットワン】の集中力を乱す為に再び、間接部に『杭針』を打ち付ける。しかし、長腕がハンマーの様に振るわれてソイフォンは壁に叩きつけられた。


「ソイフォンさ――」

『行きなさい、セルギ』


 音魔法でマリアが告げる。


『伝えて。ここで起こった事全てを。必ず』

「――――」


 マリアはエクレアに手を添えて共に『鳴神の雷鼓』の発動を抑える。同じ様にダメージを受けつつもセルギを逃がす為に命を使っていた。


「――――」


 しかし、ソレを意に返さず【オールデットワン】の長腕が『鳴神の雷鼓』に添えられる。


 セルギは残った三人に涙ながらに背を向けると背後の『土壁』を破壊して脱出――


「う……あぁぁぁぁぁ!!」


 出来なかった。感情のままに『聖人の骨』の力を全開まで引き出すと、【オールデットワン】へ殴りかかる。


「自分だけ……逃げる事なんて出来ないっス!」


 四肢が光輝き、最大まで加護が乗った一撃が【オールデットワン】へ――






 【オールデットワン】の長腕が、完成した“黄色い太陽”を包むと圧縮するように握り潰した。刹那、『土壁』の中は影の一つもない閃光が発生する――


『鳴神の雷鼓』


 それは『ゼウスの雷霆』に次ぐ……発動すれば地形をも変えるほどの威力を持つ雷魔法だった。






「――――」


 セルギは昼空を見上げていた。

 『土壁』が取り払われて更地になった中心拠点は何の弊害も無く澄み渡る青空から太陽の光を感じる事が出来た。


「……皆……」


 身体を起こそうとすると、思わず横に倒れた。右腕が消滅しており、支えられなかったのだ。


「うっ……くっ……」


 左手は焼け焦げて、両足は太股から先が消えていた。

 しかし、自分以外に誰も姿はない。そう【オールデットワン】でさえ消滅し――


「……何で……スっか……」


 再生。僅かに残った足首から【オールデットワン】は全身が完全に修復される。

 その姿はフェーズ1に戻り、長腕は消えているものの、もはや戦える者はいなかった。


「…………」


 そして、セルギを見ると何事も無かったかのように歩いてくる。トドメを差しに来ることは明白だった。


「……う……」


 託された。生きて、コレを伝える事を。ウチは生き延びなきゃ……ここで……ここで死ねない――


 這いずる様に【オールデットワン】から距離を取るが到底逃げ切れるモノではない。


「うぅ……」


 足音が近づく。恐怖で涙が止まらない。それでも、セルギの心は死の恐怖に負ける事だけは出来なかった。最後の最後まで這いずってでも生きて――


「…………」


 その時、【オールデットワン】の足が止まった。その視線の先は――セルギに対してしゃがみこみながら触る一人の少女へ――


「あ……あぁぁぁ……」

「セルギ、皆はどこ?」

「ゼ……ゼウス様……」


 安堵したセルギは涙を流す。地下から戻ったゼウスは【オールデットワン】へ視線を向けた。

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