第73話 答え
私が地下から出ると空はとても澄み渡っていた。そして、少し頭をひねったの。
「ここは中心拠点のハズ。何故、更地なの?」
周囲に建物は何もなくて、綺麗な平坦になっている。下から見た時は建造物もあって塔も見えたのに何があったのかしら?
すると、遠くに人影が見えた。本当に文字通りの影の様な人。私は事情を聞こうとそちらへ歩み寄ると、
「セルギ――」
ボロボロのセルギが人影から逃げるように這いずっているのを見つけて咄嗟に駆け寄った。
「セルギ、皆はどこ?」
「ゼ……ゼウス様……」
すると、こちらへ向けてくる意思を感じる。ソレを飛ばしてきたのはこちらを観察するように立ち止まる影だった。
「……あれがそうなのね」
【オールデットワン】。アレストに見せて貰った資料通りならアレに理性はない。
では何故、向かってこないの?
魔力を探るが、彼からローの気配は感じない。いや……アレは禁術だ。一般的な魔力反応では測りきれない事も十分に考えられる。
「皆……皆やられたっス……ウチだけ……生きて残って……うぅぅぅ」
「セルギ、自分を責めないで。誰も悪くないわ」
そう誰も悪くない。この場に“悪い人”は誰一人としていないのだ。
「セルギ、この聖水を飲んで、この石を持ってて」
『聖人の骨』は清めた物を摂取する事で加護と回復力が促進される。そして、渡した石は『記録石』。
「説明はいいわ。貴女が見た戦いの記憶を『記録石』に――」
【オールデットワン】がその瞬間攻めて来た。私が脅威でないと判断してから動いた様ね。
「ゼウス……様!」
「大丈夫」
私はセルギに微笑んで安心させると【オールデットワン】に手をかざす。
「大人しくしてなさい」
ぐっ、と手の平を握ると『土魔法』を発動。地面を流動させ蛇のように操作すると【オールデットワン】を狙う様にうねらせる。そのまま身体を拘束して――
「…………」
むぅ、速いわね。
【オールデットワン】は避けて避けて避けて避けて、あっという間に私の目の前に来た。セルギだけは何とか遠くへ離したけど手刀が私の顔を貫く――
「外れよ」
貫かれた“私”はボロッ……と土人形に変わる。そして、地面から現れた無数の“私”がコロン、と笑った。
『土法師』。それは土を使った人形を無数に作り出す『土魔法』である。
擬態性能は使い手の技量次第だけれど、私は一度も見破られた事はないわね。
「貴方を惑わす程度、造作もないわ」
【オールデットワン】は次々に『土人形』を壊するけれど、私も負けてない。どんどん作る!
「…………」
よしっ! その内の一体が【オールデットワン】の足に組みついたわ。それは容易く破壊されるけど、僅かに足が止まった隙に次々に【オールデットワン】へ組み付く。行きなさい私達! そのまま地面に引きずりこんで顔以外を埋め――
「…………」
次の瞬間、私達が粉々に吹き飛んだ。酷いことするわね。
【オールデットワン】は背中から影の様な長い腕が2本生えていた。あれが振り払ったのだろう。確か……資料ではフェーズ2になると【オールデットワン】は変化するんだったわね。
腕4本。使いこなせるのかしら?
こっちは沢山の『土法師』が相手よ! 次は顔以外を雪だるまみたいにしてあげるから!
「…………」
その時、ピシッ……と【オールデットワン】にヒビが入った。まるで石像が朽ちる様に長腕がボロッと落ちる。
再生限界。それは肩代わり出来る寿命が尽きた事を意味していた。不滅の存在など世界には存在しない。
そして、【オールデットワン】は顔にヒビが入ると剥がれる様に割れて――
「――――」
私は駆け寄ると前に倒れる【オールデットワン】を抱き締める様に支えた。
ようやく……終わった。
意識が戻ったと言う事は……誰かがオレを殺し続けてくれたんだろう。
きっと……多くの犠牲者が出たハズだ……
それに対して何も償えない事だけが……心残りだけど……
オレが……殿だったんだ……次の生まれ変わり先を少しは……考慮してくれるかな……神様……
後は倒れて朽ちるだけだった。しかし、誰かがオレを抱きしめてくれた。
「――! ――!」
何か言ってる……もう耳は聞こえない。暖かい……眼はまだ見える……かな……?
閉じた眼を開けるとそこには――
「…………」
母が昔みたいにオレを抱きしめて……くれていた。ああ……最期の最期で……家族に会えるなんて……
「……母さん……ありがとう……」
オレの意識は身体と共に全て塵へと消える――
「ロー! ロー!」
私は息子を抱きしめると必死に語りかけた。
最後の【オールデットワン】はローハンだった。どうすれば……どうすれば救えるの?
この禁術の『知識』はまだ無い。ローの身体の崩壊は止まらず、ヒビは大きくなり背中から塵へと変わって行く。
「……母さん」
「! ロー―――」
「……ありがとう……」
ローはそう言うと塵へ変わり消え去った。私は支えていた息子の重さが無くなった事に呆然と立ち尽くす。
手の平に残る僅かな塵さえも完全に消え去って……ソレを抱える様に膝の力が抜けた。
「駄目よ……駄目……駄目なのよ……ロー……貴方は……」
“なぁ、おまえ! あたまいいんだろ!”
“母さん海産物嫌いなの? 辛いのも無理? もったいねー、旨いのに”
“はいはい。息子使いが荒いんですから……”
“じゃあね、母さん。暇があったらヴェルグ街に寄ってよ。オレが良い田舎にしとくからさ”
「貴方には……夢があったでしょう……?」
家族を失った悲しさ。それは決して忘れる事はない。
兄達の死は……悲しくても納得が出来るモノだった。でも……これは違う……これは……
〖知識は世界に何を齎すのだろう? ワタシはずっと考えてきた。その答えが今、ようやく解ったの――〗
「…………答え……」
私に何が出来るのか……何をしなければならないのか……世界が求めてるモノとは――
「セルギ」
そして、私は一つの結論を出した。




