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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 第二幕 殿の兵士

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第70話 総員! 退却します!!

「ここね」


 (わたくし)は火球の灯りを頼りに進んだ先に扉を見つけた。

 石壁と同化する様に同じ色と材質の石の扉は取っ手がなく、壁との切れ目が見える程度。

 灯りがあっても見逃す程に巧妙に隠されていた。(わたくし)は空気の流れで分かったけど、暗闇ならまず見つからないわね。

 もし、穴から落ちて生きていたとしても構造を知らなければ出ることは叶わない。


「……なるほど」


 扉に手を触れると向こう側に魔法陣があるのを感じる。特定の量の魔力を扉に流せば――


「うん。素直な造り♪」


 ゴゴゴ……と外開きに石の扉は開いた。中には火炎放射を管理する魔法陣や地下の見取図があるけれど今はどれもいじる必要はない。中に入ってしばらくすると、石の扉はゴゴゴ……と閉まった。


「……上に行くにはコレしか無いのかしら?」


 部屋の奥にポツンと置かれていた梯子。近くに行って見上げると遥か上空まで延びている。

 一応、辺りを確認するがコレ以外に上へ向かうルートは無さそうだ。


「もぅ。本当に不親切ね」


 それでも進まなきゃしょうがない。

 (わたくし)は梯子に手を掛けると、登頂を開始した。小柄な人の事も考えないと駄目じゃない。もー。






 ここか!?


 動きを止め、焦げて炭化し、片腕が崩れた【オールデットワン】。

 エクレアと入れ違いに攻撃を仕掛ける、セルギ、フレイ、水月はこの瞬間こそが【オールデットワン】を倒せると肌で感じた。


「真っ直ぐ行って――」


 セルギは『聖人の骨』を発動。光る四肢によって更に速度を上げると、


「ぶっ飛ばすッス!」


 【オールデットワン】の顔面に空気を突き破る程の光拳を放つ。


 『聖人の骨』。それはかつて様々な奇跡を起こしたとされる【聖人】セルギウスの骨だった。

 エンジェル教団を創始した四人の一人であるセルギウスは、自分の死後も己の力を次世代の役に立てて欲しいと骨に力を残し、ソレを移植した者に同等の力を与えた。

 それでも『聖人(セルギウス)の骨』に耐えられる者は稀にしか現れず、今世紀ではセルギがその適合者だった。


「…………」


 ボッ! と火の粉が散る程の威力を纏う光拳を【オールデットワン】は不意に動くと前に出て潜る様にかわす。

 ソレは一度食らった事がある、と言いたげな動きだ。


「ヤバっ!」


 下から掬い上げる【オールデットワン】のアッパーにセルギは反応。肘を挟んで受ける。その瞬間、捻る様な回転の入った威力に肘を破壊されると身体が宙に浮いた。


「! セルギ!」


 ソイフォンが叫ぶ。

 『聖人の骨』が折れるなどあり得ない。加護に防御魔法が常に発動しており、更に物理的にも硬度はオリハルコンに匹敵する。

 セルギは殴られた瞬間にこちらの加護を無力化するナニかを付与されたと悟る。


「二人とも! デバフを押し付けてくるッスよ!」

「おっけー」

「あいよ!」


 後ろに下がるセルギはデバフを『骨』の力で解除し、その間に入れ違う様にフレイと水月が左右から同時に【オールデットワン】へ仕掛ける。


「『炸裂拳(バーンナックル)』!」

「『水刃・連』!」

「…………」


 【オールデットワン】は右腕でフレイの爆発する拳を受け止めて相殺。左腕で水月の水刃を受けきった。

 爆発により右腕は粉々になり、水刃で左腕は斬り落ちる。


「!」

「なんで、崩れた片腕が治ってやがる!?」


 二人の攻撃で【オールデットワン】は両腕を失うが、今の一瞬だけ両腕が存在していた。


 戦い方が非常識過ぎる。

 まるで自らの手足さえも“道具”の様に扱う【オールデットワン】に三人は改めて戦慄するが、ソレは今更だ。


「デバフ解除っ!」


 折れた『骨』は加護で瞬時に再生される。セルギは渾身の一撃を見舞おうと一度溜めに入った。


「セルギ、その前に決まるよ!」


 チチチチッ!


 【オールデットワン】が爆発する。

 フレイの『爆発魔法』は『炎魔法』と『土魔法』を混ぜ合わせた彼女のオリジナル魔法。絶え間なく炸裂する『爆発』に加えて、


「アッハッハッハ!」


 牙が生え、鱗が頬と腕に現れ、戦爪がフレイの指先から伸びる。

 『竜人族(ドラゴニュート)』。霊山に住まうその種族は先祖に『ドラゴン』の血を持つ事で知られる。


「フレイのヤツ、テンション振り切れ過ぎだっつの」


 俺の出番が薄れるじゃん。と、感情が高ぶるとより調子を上げていくフレイに負けじと水月も攻める。【オールデットワン】の片足を剣で凪いだ。

 『剣王会』に若くして『水剣六席』に座する水月の剣は水と金属を混ぜた特殊な魔法武器だった。水月の水操により多彩な刃を見せる。


「蛇腹の太刀」


 伸びる様に【オールデットワン】のもう片足に剣が巻き付くと締め付ける様に縮み、容易く切断される。






 敵は両腕と両足を無くした。『戦いの謳歌』も続いている。

 優勢。

 誰がどうみても敗北など欠片も連想できない盤面に、若者三人は決めにかかる。そんな中、呼吸を整えたエクレアと、マリアを護るソイフォンは同時に同じことを思った。


 何故【オールデットワン】は魔法を殆んど使わない?


 攻撃の大半は剣や素手。直接的な攻撃魔法を戦いに絡めて来ない。何故?


 索敵――罠は無い。魔法が何か発動している気配も――ピリッと静電気をエクレアは感じ取った。


「エクレア、最低限の仕込みは出来たが、それ以上はここの土はいじれねぇ。『土魔法』の魔力の支配権が取られてる」


 グランはこんなことは初めてだとエクレアに報告する。


 それは本当に僅かな“漏れ”。ソレに気づいたエクレアは【オールデットワン】を見る。すると、ヤツもソレを悟られたと気づいたのか、エクレアへ真っ黒な顔を向けた。

 その様に背筋がゾワっと冷える。


「――総員! 退却します!!」

「なにぃ!?」


 唐突なエクレアの判断に全員が一瞬だけ戸惑う。説明している暇はなかった。

 エクレアの判断は的確だった。しかし、その決断は数分だけ遅かった。


「…………」


 魔力が動く。『土壁』が高速で発生し、高く延びる様に中心拠点をドーム状に覆った。


「遅かった……」


 エクレアは帯電し、光を確保。

 セルギも『骨』の光を強めて【オールデットワン】を見失わない光量だけは確保する。


「『土壁』の規模じゃねぇ!」


 その道の熟練者でもあるグランは現状がいかに非常識な事か、笑いながらも冷や汗が流れる。


「退路を経った……?」


 唐突に壁に包まれた事で三人の攻撃は僅かな間止まった。すると――


 ヂヂヂ……


 上空に“黄色の太陽”が渦を巻くように形成されていく。エクレアは自分の帯電している雷魔法がソレに寄っていく事から確信した。


「グラン! 可能な限り退路を確保してください! 全員【オールデットワン】に総攻撃! 『鳴神の雷鼓』の発動を阻止します!」


 全部罠だった。

 中心拠点に来るまで妨害がなかった事も、魔法を殆んど使わなかった事も、自分が倒せると思わせる事も……こちらを逃がさぬ為の準備が整うまでの時間稼ぎ――


「…………」


 しかし、【オールデットワン】の様子に全員が動きを止めた。いや、止めざる得なかった。

 四肢が高速で再生し、更に背中から二本の長腕が影として生えて周囲に刺さった武器を手に取ったからである。


 異形。しかし、それは報告にあった通りだ。


 【オールデットワン】は三つのフェーズに分けられる。

 フェーズ1は基本的なステータスで暴れ回るが、それでも敵を倒せないと判断したらフェーズ2へと移行する。


「ここで折り返しと言う事ですか」


 フェーズ2の【オールデットワン】は、隙を見せた者から殺されると場の全員が理解した。


「……化け物め!」


 エクレアの感覚から『鳴神の雷鼓』発動まで後5分。それまでに【オールデットワン】を倒さなければ全滅する。

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