第600話記念外伝28『宇宙の彼方へ』À Mon Seul Désir
かつて、バルドウィン兄妹が暮らしていた牧場だけは私が管理を続けていた。
パシフィスタだけは遺体が出なかった事もあり、帰ってくる事を考えて居場所として残していたのだ。
私は牧場に【ピースメイカー】の反応を捉えて、そこに向かうとノワールの墓前に花を添えたパシフィスタと再会する。
最後に【ピースメイカー】と共に消えた彼女は少女だったが、今は大人の女性になっており、時が進んでいる事がわかった。
今までどこに居たのか?
君に何が起こったのか?
そう問いかけると……パシフィスタは過去に私へ向けてくれた屈託のない笑顔でこう返す。
「幸せそうだね、『侯爵』」
『…………』
「良い子だね、トリエル」
『…………』
「安心してよ。トリエルはアタシ達の確執には無関係だから狙わないよ」
『…………』
「お兄ちゃん、死んじゃったね」
『…………』
「ねぇ、『侯爵』。お兄ちゃん死んじゃったのに、なんで貴方はまた世界を壊そうとしてるの?」
『……私は……』
「殺した方がいいんじゃない?」
『……なに?』
「アタシの事。今この場でさ。そうしないと、アタシが世界の事を壊しちゃうかもよ?」
『……全ての技術は管理されている。その様な事は不可能だ』
「うっそー。【スカイコール】と【ピースメイカー】は誰にも理解出来ない。アタシとお兄ちゃん以外にはね♪ あ、でも【スカイコール】は直そうとしてバラした結果逆に直せなくなったんだっけ? ウケるー」
『……』
「じゃあ、誰にも【ピースメイカー】は止められない。はい、世界は完全に詰んだー。ご愁傷さまです」
『……何をする気だ?』
「んー、とりあえず。世界を一度壊そうかな。まずは空の上に浮かんでるあの邪魔な鉄屑からだぁ♪」
『……私がさせると思うか?』
「うん。させるよ。だって……貴方はアタシを殺さない。いや……殺せないのかな? だってそうでしょ? アタシを殺したら過去の自分を否定する事になるからね♪」
『…………』
「それにアタシは『侯爵』が直々に見出した“人の可能性”だよ? 人類はアタシに感謝するべきじゃない? アタシが生きてるから『クオリア』は引っ込んでてくれてるんだからさ♪」
『…………』
「まぁ、でもアタシももう少し準備してから事を起こすよ。止められるかなぁ? アタシと【ピースメイカー】をさ。バァイ♪」
それだけを告げると背後に現れた【ピースメイカー】への乗り込み、パシフィスタは去って行った。
『……ノワール、私は……君との約束を決して破らない』
私は【ピースメイカー】に対抗しうる機体の製作へと取り掛かる。パシフィスタはいずれ『スカイベース』を狙いに来る。絶対に阻止しなければならない。
しかし、どれだけシュミレーションしても【ピースメイカー】と戦うには【スカイコール】以外には相手にならないと言う結論が出た。
そんな時、一人の学生が『スカイベース』に提供していた設計案が目に留まる。
『エキドナ』
「どうしました? それは新たな精鋭機の件ですね」
『この四機の企画案を出したレイチェル・アークライトと話がしたい』
「かしこまりました」
【ダークブルー】【トリプルタスク】【リベリオン】【ソーサラー】。
この四機は既存の【ソルジャー】をベースとしつつも全く違う系統へ特長を伸ばしていた機体だった。
レイチェルと話をし、彼女を開発設計主任としてそれらの機体の製造に着手。適したパイロットをあてがい、更に機体の特長を伸ばすように調整させた。
その内の一機――【リベリオン】をトリエル用に調整してもらった。
「お父さん……これ……」
『お前のモノだ。大切にしなさい』
「うん」
私は【ダークブルー】をレイチェルと共に調整し、『ケミカルフィーバー』を使えるようにシステムへ組み込んだ。
それでも、その四体の特機がフルスペックを発揮したとしても【ピースメイカー】に勝てるかは全くの未知数だった。
しかし、未知数だからこそ、【ピースメイカー】に届き得るのだろう。私はパシフィスタがもたらすXデーに向けて準備を整えて行く。
だが――パシフィスタと【ピースメイカー】の力は想定以上だった。単機で『スカイベース』を停止させ、緊急動力さえも全て停止させようとしたのだ。
その時は、再び組み上げられた【スカイコール】が初期起動した事によって難を逃れたが……もはや【ピースメイカー】を放置するには危険過ぎると判断した。
『スカイベース』でも動ける戦力を伴いパシフィスタを止めるべく出撃。その戦いは地上と空の戦力による、戦争に近い大規模な戦闘行為へと移行していく。
部隊を大きく展開する中で【スカイコール】が【ピースメイカー】に敗れたと言う報告を聞き、戦線へ急行した。
私が割り込み、破壊される前に後方へと回収させ、私は【ピースメイカー】と……パシフィスタと戦闘に入る。
『ハーケン! エキドナ! 【ピースメイカー】を翻弄せよ! 私が拘束する!』
『命がけだな!』
『了解です!』
ハーケンとエキドナがパシフィスタの注意を引く様に挟撃する中、私は【ピースメイカー】を『ピース』で囲む。
『『ケミカルバリア』展開!!』
『ピース』を起点に【ピースメイカー】を菱形に閉じ込めるようにエネルギー磁場を展開し繋ぐ。
『ケミカルフィーバー』を応用した『ケミカルウェーブ』を常にバリア内部で反響させることで理論上はあらゆる兵器を無力、分解することを可能とする。
だが……【ピースメイカー】相手では機体の動きを停止させるだけで精一杯だった。しかし、チャンスはここしかない。
『パシフィスタ・バルドウィン! この場でお前を落とさせてもらう!!』
『きゃはは! お兄ちゃんの作った【ピースメイカー】は凄いでしょ? 向かってくる全てのエネルギーを停止し己のモノとしてるわ』
【ピースメイカー】が鳴動を始め、機体の周囲が歪んでいく――
『『スカイベース』を停止させた様にね!! 2次元の俗物が人間のフリなんてしてんじゃないわよ!!』
止める――ここで……【ピースメイカー】を破壊し! ノワールとの“約束”を護る!
『フルドライブ!!』
【ダークブルー】の武装をフル稼働し、『ケミカルフィーバー』も最大出力にて展開。『ピース』によるレーザー照射を行いながら接近し【ピースメイカー】の戦闘手段を奪――
『哭きなさい! 【ピースメイカー】!!』
パシフィスタがそう叫んだ瞬間、全てを停止させる音響波が【ピースメイカー】より一帯に拡散。
『ケミカルバリア』も、ハーケンとエキドナの機体も全てメルトダウンさせ、遅れて発生する衝撃波が周囲を吹き飛ばしていく。
私は咄嗟に『ケミカルフィーバー』にて自身と二人の僚機をカバー。完全なメルトダウンと二人への直接的な“死”だけは避け、地上に不時着に近い形で三機を着地させた。しかし、その後は機体が機能不全に陥り戦闘不能へ。
そんな私達を【ピースメイカー】は滞空しながら見下ろす様に指先を向け、トドメを刺そうとした所で――“声”が届く。
『【スカイコール】起動しました。総員、全ての戦闘行為を中断し、後方へ退避してください。【ピースメイカー】は僕が引き受けます』
その通信は後方へと回収された【スカイコール】からだった。
あらゆる場所へ“声”を届ける能力は人と人が話し合い、可能性を見出す為にノワールが未来へ託したモノ。
動けない私たちにもその通信は届いていた。無論、【ピースメイカー】……パシフィスタにも。
『人が“声”を届けるためには!』
【スカイコール】が飛翔し、流星の様に【ピースメイカー】への向かって行く。
『あれは……【スカイコール】?』
『ヴォンが……乗ったのか?』
エキドナとハーケンも機体の中からその様を観測し見届ける。
『待ってたわよ! ジャバウォック!』
パシフィスタだけは嬉々としてそう返すと、誘うように【ピースメイカー】を彼方へ。
その後を追うように【スカイコール】も夜空を裂いて行った。
【スカイコール】と【ピースメイカー】の戦いは、パイロット同士の問答を幾重と挟みながら激化。それは互いに一歩も譲らない激戦となって行く。
そうして機体同士が競り合い、拮抗する様に交わった次の瞬間――
『なに――コレは?!』
『機体が……動かない!?』
【スカイコール】と【ピースメイカー】は組み付く様な競り合いのままで静止すると互いのシステムが共鳴を始めたのだ。
【スカイコール】の“伝える力”と【ピースメイカー】の“停止する力”が相互作用し拡散。世界のあらゆるモノ――人の命でさえも停止を促して行く。
『そのままを維持しろ! ヴァーミリオン! 私が止める!』
私は再起動させた【ダークブルー】で、共鳴する二機へと接近。『ケミカルフィーバー』で前面を覆うも、近づけば近づくだけ機体は“伝える力”で防ぎきれない“停止する力”を強く受け、システムが明滅する。
『『侯爵』?! ダメだ! 貴方にはトリエルが――』
まだ声は聞こえる。
“可能性”は繋がっている。
トリエルは良い友達が出来た。
【リベリオン】も居る。
あの子はもう一人で歩いていける。
ならば、この世界で最も不要なモノは私だ。
故に私は……過去の罪と……約束を果たす為に――
『ケミカルフィーバー』を最大出力まで起動。自身の防御を捨て、【スカイコール】と【ピースメイカー】の切り離す様に全力の効果を行使した。
『“声”は――』
弾ける両機。その余波で“伝える力”と“停止する力”の濁流が私を襲い、私はそれが世界に拡散しないように『ケミカルフィーバー』で抑えつつ一身に受け止める。
【ダークブルー】は分解される様に消滅して行き――二人の声が最後に聞こえた。
“人がどれだけ歩みを進めても進化の果ては……“停滞”以外にあり得ないのよ”
“……『侯爵』とトリエルが証明してるじゃないか。人類は……僕たちはまだ……“可能性”の中に居るのだと――”
二人が無事と分かるその“声”を最後に私は安堵すると消滅した――
「その後、私の意識が定まると本来の50%のマトリクスを残し、この宙域に【ダークブルー】の姿で漂っていた」
現実には一瞬。その一瞬でワタシは“私”の過去を全て知った。
失っていた記録……これまで断片的に蘇っていた映像記録の少女は“私”の娘――トリエルだったのだ。
「私はすぐに還ろうとした。だが、自分が世界のどの位置に居るのかが全く把握できなかったのだ」
欠けたマトリクスでは自身の時空座標を特定する事が出来ない。故に近くの星へ技術を求めに行った。
『それで、『エンダー』に降り立ったのか?』
「近くに私の技術力を理解できる文明は『エンダー』しか無かったものでな。しかし、彼らを救いたいと思ったのも事実だ」
ワタシにもその時の記憶が共有される。
「『エンダー』の人類が私の欠けたマトリクス――“君”を補填できる技術力を期待したが……やはり、我々は相当なイレギュラーであるらしい。この2089年の間でフォレストの兄弟は世界で唯一無二の様だ」
『……“私”よ。この記録を君は持っていないのか?』
「なんの記録だ?」
ワタシは己が分離する寸前に観測した時の記録を提示する。
私は……どうなった……?
「嫌だよ……」
私は……死んだのか……?
「嫌だ……そばにいて……」
…………泣いている……
「お父さん……お父さぁん……」
あの子が……泣いている……側に……居てあげなく……ては……
0と1――
歪む輪廻――
“虚数”と“物質”の境界が消える――
そうか……ここが……“コレ”が……『可能性の海』か……
「私が何者なのか……答えを見つけたぞ『クオリア』」
どんな手を使ってでも娘の元へ帰る。絶対にだ――
「…………」
『あの子が泣いている。“君”は世界に不要な存在ではなかった』
ワタシはゆっくりと握手の手を差し出した。もう、迷う必要はない。
『君の“たった一つの望み”はフォレストと居たときからこの瞬間まで何一つ変わってはいない。ワタシと同じように』
「……では、“君”の望みを教えてくれるか?」
『ワタシのたった一つの“望み”は――』
フォレスト、ノワール、パシフィスタ、トリエル――――
ワタシを家族として慕ってくれる者も――
家族として迎えてくれた者も――
その者たちが……家族として大切にしている者たち全てを――護る。
家族を護る。
それが、ワタシのたった一つの望みだった。
『そうする事で世界の全てを護れる。それが、アクセル・エンディミオンの答えであり、虚数と物質の間に存在する“ワタシ”と“私”の存在意義だ』
「……そうか。私たちは……そうなのだな」
“私”はゆっくりと差し出した手を握り返し、互いに不足したマトリクスが統合を始める。
その際に互いにしか知り得ない出来事の記憶の共有を開始した。
「“君”も、良き出会いをしたようだな」
『ああ。家族の元へ還ろう――』
トリエルは遠ざかりながらも……『ピースフレーム』でその姿が隠れようとも最後まで父に手を伸ばしていた。
しかし、取り囲む『テンタクル』は【ダークブルー】に迫った彼女を驚異と認識し、躊躇いなくエネルギー弾を放つ。
『ふっはっは! 愚か者共め! 【ダークブルー】に触れそうなどと……ふざけた事を私が許すと思っていたのかぁ?!』
はーはっはっは! とタンワの高笑いが響いた。
『はっはっはっは――は?』
だが、トリエルを蒸発させるハズだったエネルギー弾は彼女を避ける様に円形に逸れた。しかも、それだけではない。
『なっ?! 【ダークブルー】?!』
まるで拘束が自ら解けるように、【ダークブルー】は【マッドジャック】との接続を解除すると、娘へとゆっくり近づいて行く。
トリエルは優しく包むように近づいてくる【ダークブルー】に身を任せると、差し出される指部に掴まり、手の平へ乗った。
「父さん……」
【ダークブルー】を見上げるとハッチが開き、誰もいないコックピットに乗り込む。その中の座席は彼女が世界で最も安心できる場所だった。
席に座ると目の前のメインコンピューターから声が聞こえる。
『全く、お前はいつも無茶をする』
コックピット内に響く父の言葉。トリエルの瞳には涙が浮かんだ。
「父さん……帰って……来てくれたの?」
『お前とトレインをずっと見ていた。言葉を返せずにすまなかった。私達にとって“別れ”が強い未練になり、お前達の足を止めてしまうのではないかと思っていた』
だが、それは間違いだった。
家族とは向き合わなければ、互いに傷を残してしまうのだと。
『トリィ、私に追いついて来るとは腕を上げたな』
「いつまでも、父さんの後ろを追ってばかりじゃ、いられないからね」
トリエルは涙を拭う。すると、『ピース・フレーム』が機体を捕獲するように囲い始めた。
『掴まっていなさい』
「わかった」
【ダークブルー】のアイカメラが強く光り始め、機体が鳴動を始める。
『ケミカルクエイション』
【ダークブルー】が拘束から離脱した……
由々しき……由々しき事態だ! 絶対に逃がすわけには行かぬ!
幸いにも【ダークブルー】は半壊状態。『ケミカルフィーバー』も【マッドジャック】に45%を明け渡している。
『ピース・フレーム』によって捕獲し、次は胸部コックピット以外はバラバラに分解して――
タンワが『ピース・フレーム』によって【ダークブルー】を閉じ込めた様を確認した瞬間――
『タンワさま……『ピース・フレーム』の様子がおかしいです……』
【マッドジャック】のシステムを見ると『ピース・ピースフレーム』の主導権が次々に消失していく。
「どういう事だぁ?!」
次の瞬間、『ピース・フレーム』の檻はガラスの様に砕け、中から【ダークブルー】が飛び出した。その姿は囚われていた時のモノとは違い、本来の姿へと完全に修復されている。
「“子供たち”よ! 【ダークブルー】を破壊するのです! もはや、アレは私達を救わない!」
タンワは『テンタクル』と『ピース』全てに【ダークブルー】を攻撃させるが、エネルギー弾は円形に避ける様に逸れて行く。
『少し黙れ』
【ダークブルー】は『ケミカルウェーブ』を放ち、『ピース』と『テンタクル』をメルトダウンさせた。それに加えて、
『メガカノン』チャージ率……96%……76%……54%……21%……9%――
【マッドジャック】のエネルギーを強制的に停止させて行く。
「馬鹿な……こんな……こんな結末……私は認めぬぞぉぉぉ!!!」
その執念に【マッドジャック】の『ケミカルフィーバー』がゆっくりと呼応を始めた――
『雷法師』を使って出来る限り、敵の意識と手数を引き付けていた時、下からの反応をマスターが確認する。
「ロー、ボルックがやったわ」
新品の様な【ダークブルー】が近づいてくる。
ハッキングでもしたのか『ピース・フレーム』を停止させつつ、襲いかかる『テンタクル』と『ピース』を停止させるように『ケミカルウェーブ』を放った。
「やれやれ……」
オレはようやく一呼吸入れる。マスターも『雷法師』を停止し、【コールマン】の冷却機能を最大にして小休止。
【ダークブルー】は近くまで寄ってくると停滞し、通信を繋いでくる。
『ゼウス殿、ローハン殿』
「やったわね、ボルック」
「ようやく元通りか? 今のお前はどっちだ?」
『私はどちらでもある。ボルックと【ダークブルー】。両方の記憶を統合した』
「トリエル中尉は無事?」
『はい。此度は父の為にありがとう御座いました』
トリエルが無事を伝えてくる通信に、マスターはニコ、と微笑むと各所に通信を入れた。
“【ダークブルー】を解放したわ。これより私達は共に【マッドジャック】の制圧に動く”
【シャルフIII】、【ラドール】、【カムヤタテ】はゼウスからの報告と、各々が観測する映像により【ダークブルー】の解放を見て陣営に報告する。
『叔母様、『エンス』の特攻部隊が【ダークブルー】様を解放した様です』
シャオからの報告に、未だ停止状態の『飛翔』のブリッジでは歓声が上がった。そんな中、リーフォンは艦長席に座りながら安堵の息を大きく吐く。
「ホンマに……よくやってくれたわぁ」
後の問題は【マッドジャック】だけだ。しかし、油断は出来ない。
過去に『コロニー戦争』に介入した【ダークブルー】は記録では【マッドジャック】を抑え込む事で精一杯だったと聞いている。
「皆! 浮かれるのは全部終わってからや! 『飛翔』はまだ死地に居るんやぞ!」
リーフォンはブリッジに喝を入れ直し、メイン機関の起動には後どれくらいかかるのかを確認させた。
『艦長、『エンス』の特攻部隊が【ダークブルー】を完全に解放しました』
「シュバルツ大尉。確かか?」
『映像を送ります』
【シャルフIII】からのLIVE映像をブリッジで確認する艦長のスペルザは自分達の首が辛うじて繋がった事を認識する。
何をどうやったのかは解らないが、『星間保安連合軍』の主導で【ダークブルー】を解放したとなれば、これまで追い回していた件に関しては情状酌量の余地を入れられる……かもしれない。
しかし、今は――
「大尉、現時点ではまだ脅威は去っていない。【マッドジャック】の制圧と『第8補給』の完全確保が成るまでは任務を続行せよ」
『了解』
未だに艦は全て沈黙している。
加えて【マッドジャック】は『ピース』が減り、『宇宙海賊』にある程度は破壊されたとは言え、『メガカノン』は放てる状態にある。
「我々の命運は彼ら次第か……」
『総督、【ダークブルー】が自由になりました。特攻部隊が上手いことやったみたいです』
「大マジか! ぶわっはっは! まだまだ俺のツキも落ちてねぇな! 奴らに気を取られてる間にさっさとエンジンを起動して逃げるぞ!」
「総督! エンジンは全然動かないみたいっす!」
「殴り過ぎて、フレームが凹んだと、機関室から無線来てます!」
「馬鹿共が! 加減しろ! 加減! 猫達の環境は無事なんだろうな?!」
「そっちの方は問題無さそうですよ。良い感じにお昼寝時間だそうです」
「……全く。相変わらずヒヤヒヤさせるのが得意なヤツですわね」
スターリアは【ソルジャー】撃墜の報告を聞いた瞬間に、命令を無視してでも前線へ向かおうとしたが、次に【ダークブルー】を解放した報告を受けて、トリエルも無事である事を知る。
『昔から親父とトリィはあんな感じだ』
『飛翔』で外側から『ケミカルウェーブ』の装置を設置するトレインは作業の手を止めて、【ダークブルー】を見ながらスターリアと会話していた。
「貴方は蚊帳の外だったのかしら?」
『いいや、俺は巻き込まれた場合が多かったぜ。トリィに無理やり後部座席に座らされて、アクロバット機動に突き合わされて、いつも吐いてたよ』
トレインはそう言うが、解放された父とソレに搭乗している姉の様子に笑みが浮かぶ。
「それで整備士を志したので?」
『まぁな。けど、一番の理由は親父を直したかったんだ』
自分達を助けた時から【ダークブルー】はボロボロだった。トレインはソレを直す事が親孝行だと考えて整備士を志したのである。
『今は肩叩きくらいで良さそうだけどな』
「ホントに規格外ですわよね」
【ダークブルー】の外見は今までにないくらいに修復され、全盛期に戻った様に見える。自分達の常識を遥かに超える……神と崇める者が出てくるのも納得だ。
『後はトリィと親父と『星の探索者』に任せりゃ良いだろ。俺たちは仕事に戻ろうぜ』
トレインは再び作業に戻るが、スターリアとしては【マッドジャック】が健在であることと、未だに自分達は『メガカノン』の射程に入っている事が気がかりだった。
ソレに加えて――
『嫌なモノが見えますわ……』
【マッドジャック】から立ち昇る執念の様な紫色のオーラ。それが巨体を包んで行く……




