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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 終幕 滅びの先導者

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第600話記念外伝9『His After Story』次の階層へ

 『炎王』継承戦、二回戦目。

 その仕合をケルスとルージュは見に来ることは無くボックス席は空の状態だった。

 それもそのハズ。何故なら“クルカント”はこの世界においてあまりにも強すぎた(・・・・)からである。


 金では動かない。

 情でも動かない。

 強そうな者の噂を聞きつけては戦いに赴き、あらゆる存在を圧倒していた。

 故に彼はこの世界に来てから血の一滴も流していない。


 それほどに洗練された“強さ”。測りきれぬ者が見れば途方もないと思えるその“強さ”の前に、彼の戦いは“クルカントの勝利”と言う決められた結末にのみ終息する。


 それは、ローハンとクロエに相対していても同じだった。


 ポケットから自由になる両腕はこの仕合で始めて武器を抜いたに等しい。

 今までは刃を鞘に入れて向かい合っていた(・・・・・・・・)だけ。ここから彼はようやく“戦う”のである。


「さて――」


 クルカントが目を開ける。眼前に迫るは『霊剣ガラット』の切っ先。ローハンが走りながら投擲したのだ。


「クッカッカ」


 パシッと義手で刃を掴み止めた。断てぬ【星の金属】。しかし、その一瞬は上体は起こしたままで固定されている。

 タッ、とクロエは低い姿勢でクルカントへ踏み込んでいた。同時ではなく時間差による攻撃は一対多数に置いては理にかなった動きである。


 ローハンとクロエは目配せや指示なく、最適解としてその動きを自然と取ったのだ。

 クロエの手刀が浮き上がる様にクルカントの顎裏を貫く為に迫る。


「――――」


 クルカントの姿が消え(・・)、『霊剣ガラット』だけがその場に残るように浮いていた。

 手刀は空振り、クロエは手を天に突き上げる姿勢となる。クルカントは――真下へ潜るように身を屈めていた。


 ソレはクロエごと振り下ろされた『霊剣ガラット』の一閃を避けた時と同じ。

 無駄を限りなく削ぎ落とした動きはクロエの“音による空間認識”を持ってしても消えた(・・・)と感じる程に自然体だったのだ。


「狙いが露骨だ。だから、お前はまだ“守”なんだよ」


 更に下からクルカントの拳が浮き上がり、クロエの腹部へ突き刺さる。


「うっ……ぐっ……」


 彼女にめり込んだ拳は、籠った衝撃音を響かせ、吐血を促す。

 『霊剣ガラット』が地面に落下――しない。


「わざわざ回り込むとは、ご苦労さん」


 クロエとの攻防で『霊剣ガラット』を持ったローハンがクルカントの背後を取り、その背中へ刃を振り抜く。

 同時にクロエは自身にめり込むクルカントの腕を可能な限り掴まえて僅かな間でも動きを止める事に努めた。


「これがお前の選択か?」

「今は……一人じゃありませんから……」

「――クッカッカ」


 クロエを盾にしても『霊剣ガラット』の前では意味がない。


 クルカントは己を改めて自覚した。この攻撃は通る。自惚れは解消していたつもりだったが……どうやらまだまだ――


「俺の“強さ”には“綻び”ってヤツがあったみたいだぜ!」


 響いた打撃音は一つだった。

 しかし、ローハンとクロエはそれぞれに一打撃ずつ(・・・・・)を受けて前後に吹き飛ばされていた。


「な……」

「っぁ……」


 ソレは単なる『身体強化』。数値にして倍程度の能力引き上げだけで状況を一瞬でひっくり返した絶対強者(クルカント)の姿だった。


「クッカッカ! 俺がガキ共に『身体強化(コイツ)』を使わされるとはなぁ!」


 音が一つ聞こえる程に速く動き、二打を叩き込んだのだ。まるで、それがさも当然かと言うように――


「――……」


 滑り止まったクロエは立ち上がろうとするも完全に意識がブラックアウトし仰向けに動かなくなる。

 元より、彼女は耐久値の面では一般人に近い。それでもクルカントの攻撃受けて動けていたのは、己が持つ回避術によるモノ。

 ソレを容易く超えたクルカントの一撃は彼の力の中ではまだ下積みのモノだった。


「結局“守”は超えなかったか」


 ローハンは倒れなかったものの、折れた肋骨が肺に刺さり、呼吸が妨げられる。


「ヒュー……ヒュー……」

「よく立ってるなぁ。だが、もう死ぬぜ?」


 ローハンは、すー、と息を吸い呼吸を止め歯を食いしばる――


「あばよ」


 クルカントの靴裏が顔面に迫る中、強く『霊剣ガラット』を握り――


【白虎】×【玄武】――


「――――」

「…………ちくしょう……」


 【双神技】『甲牙』を狙うも、クルカントが寸前で蹴りを止めた事により不発に終わる。そのまま力なく膝をつくと俯せに倒れ……意識を失った。






『決着です!! まるで相手にならない! “カント”の無双無敗! その伝説を前にスカーレット陣営が沈むぅ! 『炎王』継承戦! 二回戦目、勝者――クルカントォー!!』


 銅鑼が鳴り、声援が響く。称賛される様に“カント”の名前が会場に響き渡って行く。


「…………大した野郎だ」


 だが、クルカントからすれば初心を改められた気分だった。

 あの時、足を止めたのは思い出したからだ。


 終始圧倒していた。当時驕りが無かったと言われれば嘘になるが……それでも負ける可能性など欠片も感じなかった。しかし――


“コレが……僕の『桜の技』……です……”


「……」


 クルカントは落ちている『霊剣ガラット』を拾う。しかし、持ち上げはするものの、すぐに霧のように消え、ローハンの後ろ腰にある鞘へと還っていた。


「……クッカッカ」


 強ち、間違いじゃねぇかもな。


「引き出しの使い方を知らねぇだけか、勿体ねぇな。ゼウスのガキ……いや、ローハン」


 次にクロエに視線を向ける。


 本気じゃなかったとは言え……この俺が二度も気を取られたか。


「コレでまだ“守”か。クッカッカ、楽しみにしてても良さそうだな」


 『身体強化』を解除したクルカントはポケットに手を入れ、倒れる二人を称賛するようにフィールドを後にした。


 その後ろで、フィールドにやって来たゼウス達が倒れているローハンとクロエへ慌てて駆け寄って行く――






 小生は、お前の器の大きさを見た。

 ソレを渇望し続ける限りその“器”は満たされる事はない。

 お前の強さに上限はないが、問題はヒトとしての寿命だ。

 剣が持てぬ様になるまで己の“器”をどれだけ満たせるか……求めるモノは純粋な“強さ”。必要な土台は十分に整えた。

 『ターミナル』を離れるのならば、次に帰還する時は我が師――【武神王】へ挑むと言う事であると忘れるな。


「――――」


 師であるファングの言葉が反芻される様にクロエは目を覚ました。

 場所は選手控室。スカーレットの眠ってた寝台に寝かされていた。身体を動かそうとすると、指と腹部から痛みが走る。特に腹部の痛みは身体を動かす事を拒否している程に辛いモノだった。


「痛っ……」

「動くなよ。衝撃で内臓の位置がズレてるらしい。安静にしないと死ぬってよ」


 どこからか持ってきたのか、隣にも寝台が設けられ、そこにはローハンが天井を見たまま微動だにせず横たわっていた。


「……ローハン。他の皆は?」

「……スカーレットの見送りだ」


 無人の控室。簡単に周囲の音に集中すると、部屋の外には皆が居るようだ。スカーレットと話している声を聞き取る。


「12時間寝てたらしいぞ、オレら。そんでもう最終戦らしい」

「……そう」

「…………クロエ、悪かったな」

「……何故貴方が謝るの?」


 少しだけ上体を起こすと、ローハンの声に意識を集中する。


「オレは……お前に……いや……皆に任せっきりだった。別にオレが強くなくても皆が何とかしてくれる。そんな甘えがあったんだ。さっきの戦いもそうだ」


 ローハンは普段は語ることのない本音を口にする。


「お前となら簡単に勝てる。お前を前に出してオレがサポートすれば……ってな。だが……結果はこのザマだ」

「……違う。私が弱かったから……」

「お前は強かったよ。オレが今まで……自分の“強さ”を意識してなかったからだ」


 何が……家族を失いたくないだ……誰よりも出来ることが多いクセに……何も鍛えず、仲間任せで……そうやって皆におんぶされてるのに……“護る”だと?


 ローハンは己を自虐する。今の状態は自分が『星の探索者』に甘え過ぎた故に起こってしまった結果なのだと。

 『グリーズアッシュ砦』で仲間を見送った時に決めたハズだった。


 もう……目の前で“失う”選択しか出来ない事態など、絶対に起こしてはならないと……

 『霊剣ガラット』はまだ手元にあった。それはクルカントにも勝てる素質が彼にもあると言う事実を証明するように。

 ローハンは決意を新たにする様に告げる。


「クロエ、オレは強くなるぜ。今度はどんな手段を使ってでも次はお前を……皆を護ってやる」

「…………」


 ローハンは首を動かす事さえも億劫なのか、ずっと天井を見たままそう宣言した。


「……ローハン。貴方の“護る”に私の分は外して頂戴」

「なに?」

「私は貴方よりも強くなるから。だから……私を背中の後ろに隠さなくて良いわ」


 次に彼の背中に頼る時は自分の背中を預けたい。クロエは今一度、己を見つめ直す事から始める必要があると口にする。


「……決めたつもりだったんだがな」

「ふふ。それは“強く”なってからじゃないと説得力が無いわよ? 『霊剣ガラット』を持ってるだけじゃ……ね」

「厳しい女だぜ」

「それに……私は『ターミナル』に戻らないといけないわ。クルカント様に負けてしまったから」


 それは違えようのない事実だ。“強さ”が低迷している事を指摘されて始めて気づく程に歩みが進んでいない状況は危機感を覚えなければならない。


「いや、ソレは別に無視で良いだろ」

「そう言うワケにはいかないわ」

「そんじゃ、改めて聞くが。お前は『ターミナル』に出る前はクルカントと正面から渡り合えたのか?」

「…………」

「少なくとも、さっきの戦いでお前はクルカントの気を何度か引いていた。それは、アイツがお前を無視出来なかったからだ」


 ローハンに言われてクロエは己の手に意識を向ける。


「……貴方が居たから、クルカント様は私に集中出来なかったのよ」

「違げーよ。オレが『霊剣ガラット』の間合いに奴を入れる事が出来たのはお前に意識を向けざる得なかったからだ。本気じゃ無かったとは言え、アイツは【武神王】の二番弟子だぞ? 世界でも上から数えた方が早い実力者だ。そんな奴を相手取って気を引いたんだ。明らかに強くなってるさ」

「…………」


 ローハンにそう言われてクロエは胸が熱くなる様を感じる。

 弱くなどなっていない。『星の探索者』での旅は何も間違いではなかった。


「ヤツは守破離の内、お前はまだ“守”って言ってたよな? 今の状態で“守”だとすれば、マジで生きてる内にクルカントは超えるぜ?」


 お前に合わせるオレが苦労するよ。と嘆息を吐くローハンにクロエは心から告げる。


「ローハン……ありがと」

「お礼を言われる意味がオレにはわからねぇなぁ。痛てて……」


 どことなく笑い合う雰囲気で会話をしていると、『星の探索者』の面々が部屋へ入って来た。






「クロエ、目を覚ましたのね」

「姉ちゃん!」


 オレとクロエが目を覚ました様子を診にマスターが寄ってくる。クロウも(クロエ)の側に寄り、サリア、スメラギ、ボルックもマスターの後ろからオレらの様子を覗き見る。


「クルカント様は……どうだった? 何か話をした?」

「少しだけ、現状確認をしてもらったわ」

「何か言われた?」

「ええ。『ターミナル』に帰ってこいって」


 クロエの発言にクロウは少し考え、決心した様に言う。


「その時は僕も一緒に帰るからね!」

「ふふ。大丈夫よ。いつ帰るか(・・・・・)までは言及がなかったもの。ね、ローハン」

「まぁな」


 物は言い様だが、今回はコレでゴリ押せるだろう。

 そんな姉の言葉に、このまま一緒に旅を続けられる事を理解したクロウは、ぱぁ、と嬉しそうな表情を作る。

 そんな弟の頭をクロエは優しく撫でてあげた。


「クロエ。ローには話したけど、あなた達は重傷よ。後12時間は絶対安静にして頂戴ね」

「言われなくても寝てますよっと」

「わかりました」


 寝てる間に簡単な手術もして、オレの肺から骨を抜いてくれたらしい。現時点でも『再生の種』とピンポイント魔力活性で治癒を進めてくれてるのだ。


『見立てでは8時間後には二人とも起き上がれる』


 キュイ、とボルックがオレとクロエを生態スキャンして診断してくれる。

 ボルックの事を疑ってる手前、助けられると気まずさがハンパねぇな……

 まぁ、コレもオレの甘い考えが引き起こした結果か……


「クルカントは噂通りの化け物だったってワケね」

「一回戦目のお前の狙撃にも気付いていたぞ」

「あの視線ってやっぱり、そう言う事だったのね……」


 ちょっとだけ『原始の木』の前でユキミ先輩と話をしたのだが、本来のクルカントは超攻撃タイプの『壊し屋』であり、使える魔法はなんと『身体強化』のみらしい。

 圧倒的な“自己強化(バフ)”で相手の技量ごと圧殺するのが、クルカント本来の戦闘スタイルなんだとか。


「恐らく、クルカントはあなた達相手に力を半分どころか三分の一も出してないわね」

「マジですか……」


 直にユキミ先輩VSクルカントを見たマスターはヤツの全力を知っているので、怪我の具合からそう判断したのだ。

 しかも、ソレは過去の話。今は技巧も加わって実力は更に洗練されてるだろう。


「彼を通過点にします。でしょ? ローハン」

「……ま、オレが言い出した事だしな……」


 それぐらいの心得って解釈に今からでも……変えらんねぇか。


「【義手】クルカントは恐るべき相手。ですが、主様(マイマスター)。このスメラギはどの様な相手でも、主様(マイマスター)と我らが『星の探索者』に危害を加える輩は……確実に始末して見せましょう!」(クワッ!)

「その、クワッ! は一旦置いてて良いわ。スメラギ、このメモのモノを買ってきて頂戴」

「承知!」


 マスターからメモ紙を受け取ったスメラギはシュバッと消える。よく見ると天井に穴が空いてやがらぁ。


「マスター、すみません。負けてしまいました」

「気にしなくて良いわ、クロエ。何よりも、貴女とローが無事でよかったもの」

「ヤツ相手は……命があれば“無事”判定ですか……」

「両手両足も揃ってるわね。クルカントも昔に比べて少しは落ち着いたみたい」


 この会話は肝が冷え続けるので話を戻す。


「結局、オレたちは負けちゃいましたけど、スカーレットは何か言ってました?」

「その事に関しては彼女から伝言を預かってるわ」


 マスターは、おほん、と一度咳払いして声質を整えると、


「“二人の戦いに敬意を! 負けた事に責を感じる必要はない! むしろ、良き“風”をもらった! 後は私に任せてくれ!” だ、そうよ」


 その時、銅鑼が鳴り響く音が聞こえてくる。『炎王』継承戦、最終戦が始まったようだ。


「二人の仕事はとにかく安静よ。不便な事は他の皆でサポートするから」

「ローハンさん! 姉ちゃん! ご飯あるよ!」

「二人とも、クルカントに関して色々と聞かせてよ。どこで撃てる隙があるのか……ロジックを組まないといけないからさ」


 オレとクロエは食事を貰いながら、実体験と考察を交えつつクルカント戦の反省会を行う。

 あの野郎……次に戦うときは見てろよ……


 寝台の横に立てかけた『霊剣ガラット』は、目指すに値する道だと告げる様にその場に有り続けた。






 『炎王』継承戦。それは、『星の探索者』ではなく、スカーレットの物語。

 故に、その決着の行方は彼女の物語で語られる事となる。

 そして……時は、『炎王』継承戦より2日(24時間)後に進む――






 闘技場『ノヴァ』は静寂に包まれていた。

 三回の激闘が行われたバトルフィールドにはただ一人の男だけが佇む。


「“『炎王』の権限”により、ここへ異界を繋ぐ炎を扉と成さん」


 ケルスがそう告げると、彼の腕から発生する蒼炎が巨大な一つの門を作り上げた。


「ご苦労さん」


 そこへ、ポケットに手を入れながら現れたのはクルカント。悠々とした足取りでケルスへ話しかける。


「この炎を抜ければ違う世界へと行ける。だが、お前はこの世界なら『炎王』も容易いだろう」

「興味ねぇよ。俺の目的はこの右腕を失った時から一つだけなんでね」


“後悔させてください。クルカント”


「クッカッカ」

「待ち人かいるのか?」

「とびっきりの美女で、とびっきりの強さを持つ、最高の師だ。人生を充実させてもらってる」


 クルカントは、あばよ、と言いながらケルスの横を抜ける。


「機会があればまた会おう。友よ」

「――クッカッカ。機会があれば、な」


 ボォッ、とクルカントの姿は蒼炎の向こう側へと消えた。

 その背中を見送るように微笑んでいたケルスは、バトルフィールドの門に感じる気配に表情を戻し、視線を向ける。


「まだ歩くとキリキリ痛むぜ……」

「姉ちゃんは大丈夫?」

「ええ。マスターのおかげね」

「いくらクルカントが相手だったからって、リスクヘッジくらいは考えなさいよ」

「ローハンよ、問題なく痛がるが良い。某が主様(マイマスター)より荷物移動の任を授かったゆえ」

『あれが『炎王の扉』か』


 荷物をまとめて次の階層へ向かう為に現れた『星の探索者』。中でもボルックが目の前に出現している『炎王の扉』を、キュイ、と分析する。

 ゼウスは皆に少し止まるように告げてから代表で挨拶を行う為に前に出た。


「ドゥンケルス殿下。此度の『炎王』継承戦、お疲れ様でした」

「スカーレットより、貴殿たちの事は聞いている。『炎王の扉』を抜ける条件は、本来ならば我が『ノヴァロ』へ多大な貢献をした者のみである」

「それなら、クルカントはその条件を満たしていたのです?」

「彼は『北の魔物』の中でも元凶とされる“四凶魔”の一体を仕留めた。僅か1週間でだ」

「“四凶魔”ってなんすか?」


 ローハンが手を挙げる。


「国を三つ飲み込んでも止まることのない魔物だ。今は東西南北にて休眠しているが、その内の“北凶魔”を【義手】クルカントは叩き起こし、単独で始末した」

「わぁお……」

「今は残党となる『魔物』共との戦争に入ったが、時をかければ駆逐できるだろう。まぁ、それはこちらの事情だ。貴殿達は行くのだろう?」

「ええ。でも、最後に挨拶をしたいのですが、彼女はどこへ?」


 スカーレットの性格からして、この場に立ち会っていてもおかしくない。


「スカーレットは北の戦線へ赴いた。『炎王』継承戦が終わったらどっちにしろ、戻る予定だったそうだ」


 まったくもって落ち着きがない……とケルスはこの場に居ない妹に対して嘆息を吐く。


「良き、ご兄妹ですね」

「半分ではあるが、血を分けてはいる。気にかけぬ方が無理という話だ」


 ケルスは話を切る様に『炎王の扉』へ視線を向ける。


「スカーレットより貴殿らに伝言がある」

「彼女はなんと?」

「また会おう、だそうだ」


 その言葉に『星の探索者』の面々は各々思うところがあった。

 彼女との関わりは一週間も無かったが、それでも寝食を共にした間柄である以上、繋がりは生まれている。

 ソレは世界を隔てても失われる事はないと、スカーレットが言っている様だった。


「ドゥンケルス殿下、彼女に伝えてください。また会いましょう、と」

「ああ。伝えておこう」






 『星の探索者』は『炎王の扉』を抜ける。

 この地で出会った繋がりは決して深くは無かったが、失われるモノではないと強く理解した故に、その歩みに躊躇いは無かった。






〜『遺跡内部』下層“秋”【新たな炎】〜 完





 『遺跡内部』――


「っと――ってうお?!」

「うわ?!」

「え? なによ、これ?!」

「ぬぅ!? これは……」

「ローハン、もしかして私たちは浮いてる?」


 『炎王の扉』を抜けた『星の探索者』一行が次に見た光景は広い一室。そして、即座に感じたのは不自然な浮遊感だった。

 圧迫感のない水中に居る様な奇妙な感覚に戸惑う。


「全員、一旦壁際の物に掴まれ。クロウ、クロエの手を引いてやってくれ」

「姉ちゃん! こっち!」


 しかし、ゼウスとローハンには経験のある空間だった。故に慌てずに適切に対処する。


「マスター、ここって……」

「ええ。宇宙空間に造られた施設みたいね。月と違って無重力よ」






〜『遺跡内部』??層“??”『ワタシのたった一つの望み』〜






「管制室へ。【コールマン】にて出撃準備完了」

『中尉、【ダークブルー】は現在別動部隊がこちらに追い込んでいる。【コールマン】は理論上、【ダークブルー】と同速が出せるように設計されている。意味はわかるな?』

「【ダークブルー】に声を届けます」

『かつて、【ダークブルー】に育てられた君だからこそ、説得の声が届くと上層部も考えている』

「……はい」

『人類の命運がかかっている。【ダークブルー】の持つ情報は我々の母星再生には必要不可欠な代物だ』

「もしも、説得が通じぬ場合は父を捕らえます」

『君からその言葉が聞けて、我々も安心だ』


 ピピピ……と目の前の端末に情報が入る。


 “【ダークブルー】、廃コロニーベースへ接近”


『出撃を許可する』

「トリエル・レイヤー、【コールマン】。出撃します」


 暗黒の宇宙を高速で移動しながら縦横無尽に敵の追撃を回避し続ける(ダークブルー)

 それに追いつく様にもう一つの(コールマン)が高速で迫る――

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