第600話記念外伝7『His After Story』無能な男
「肋骨は折れてるけど、安静にしていれば治るわ。他の傷も手当てしておくわね」
「すまないな……頭もぼーっとする……」
選手控室に戻るとマスターが横になるスカーレットを診ていた。
既にサリアとクロエも帰ってきており、クロウはマスターの補佐をしている。ボルックはスカーレットを挟んで反対側に座ってるな。スメラギの姿だけ見えない。
「この薬を飲んで。解熱作用があるわ。後、この種も一緒にね」
「なんだ……これは?」
「『再生の種』。身体の代謝を大きく引き上げて回復を促すものよ。同時に発熱も起こるから解熱剤と一緒に飲む必要があるの」
「よくわからんが……くれ」
「とうぞ! 水です!」
クロウから差し出される水と、二つの薬をスカーレットは呑み込む。
「腹が減った……」
「一旦、眠って構わないわ。起きる頃には食事を用意して置くから」
「ありがとう……名前は……なんだっけ?」
「私はゼウス。こっちの子はクロウ。あっちの壁際にいるのがサリアとクロエで、今入ってきたのがローハンね。ボルックの事は――あら」
と、マスターが簡単に自己紹介してくれる声を子守唄にスカーレットはzzz……と眠りに着いた。多分オレの名前は聞いてなかったな。
「! ゼウス先生!」
「これは……」
スカーレットが眠りに着いてすぐに、炎が舞うように彼女の身体から発生し始めた。ソレは傷口で燃え、癒すように消えて行く。
「ふむ。簡単な外傷はコレで治るのね」
「例の『加護』でしょうか?」
「ええ」
「マスター、みんな。ここらで色々と情報のすり合わせをやらない?」
オレが提案する。
この世界に関する情報や法則を共通認識としてこの場で共有しておかなくてはならない。それに――
「…………」
ボルックの件もある。スカーレットを挟んで座っているボルックの位置は会話として良いタイミングだ。こちらに攻撃を加えようとしても一呼吸先に斬れる。
俺は『霊剣ガラット』を腰に携えたまま警戒。その意図を察したマスターが先にボルックへ尋ねた。
「ボルック。正直に応えてくれるかしら? 貴方は私達の知らない能力を持っているんじゃない?」
さて……どんな返答が帰ってくる?
『『ケミカルフィーバー』の事でしょうか?』
偽ること無く即座に質問に応えて来たか。
「『ケミカルフィーバー』……化学的膨張可変と言った所かしら?」
『その解釈で間違いはありません』
「私達に情報を共有できる?」
『了解。『ケミカルフィーバー』は基本的に発動するまで、ワタシの中で無数のパーツの様にバラけているのです』
「と言うことは、発動した瞬間に組み上がったと言うことかしら?」
『正確には変換の特性に合わせて適したコードが組み替わるのです。パズルピースの様なモノだと認識して頂ければ』
普段はなんてことの無いプログラムの中に存在し、必要なタイミングのみ寄せ集まり、形となる能力……か。なるほど。だからマスターが調べても分からなかったのか。
『現時点では本来のマトリクスが欠損してる事もあり、変換の幅は極端に制限されています』
「今の状態だと、どんな事が出来るのかしら?」
『主に同定義のモノが限定です。エレメントはエレメントへ変換が可能。物質は無機物が限定です』
「つまり、エレメントから無機物や、有機物に触る事はできないと言う事ね?」
『肯定。マトリクスが修復されれば、その限りでは無いと思われますが』
「ボルック、オレからも質問を一つ良いか?」
『構わない』
オレは『霊剣ガラット』の柄を握りつつ前に出ると、回りくどい事はせずにストレートに尋ねる。
「『ケミカルフィーバー』を何故さっきまで隠してた?」
『隠していたつもりはない。だが、そう思わせてしまった事は信頼関係の低迷に繋がると記録しておく』
「モノは言い様だな」
『ワタシの現在の視点から状況を見て欲しい。君達に危害を加えた事によるワタシへの優位性は“0”だ』
「…………」
理にかなってる。ボルックの視点からもここで敵対する事は意味が無いだろう。だが……オレとしてはラナヤの件もある。
味方だと思っていたヤツが突然、大切に人に刃を向けた。
もう、家族を失うのはゴメンだ。護れなかったと後悔するくらいなら……少しでも不穏な動きを見せたら始末しておくべきなのだろう。
「ロー、ボルックは元の世界に帰りたいだけ。それに彼を輪に迎え入れたのは私の判断よ。だから、もう少しだけボルックの事を信用してあげられないかしら?」
「…………」
それでも渋るオレにマスターは向き直ると自身の胸に手を当てて告げる。
「家族の元に帰りたいと思うのは誰だって同じ。貴方ならボルックの気持ちが分かるでしょ?」
「……ボルック、お前には娘が居るんだよな?」
『その様だ』
「マスターと娘に感謝しろ」
ボルックへの警戒は続けるとして、この場で剣を抜くのは余計な手間がかかるだけか。
オレが『霊剣ガラット』の柄から手を離した様子にマスターは、コロン、と微笑む。緊張した空気が一気に和らいで行く。
「皆も、ボルックの件は私とローに委ねてくれるかしら?」
「マスターがそう言うならあたしは異存なし」
「僕もです!」
「私も二人が見ているのならそれで構いません」
てな感じで、この件はオレとマスター持ちか。
「それじゃ、次はこの世界の“魔法概念”に関して、皆の情報を開示して頂戴」
マスターが話題を切り替えた。
次は特に死活問題だ。何故なら現時点で魔法の発動が著しく小規模なのである。
「オレが感じたのは魔法の出力が全然出ないって事ですね」
オレは闘技場で感じた事を率直にこの場で告げた。
「魔力が無いワケじゃないんですが……掌握がし辛い……って言えばしっくり来ます。クロエ、お前の『音魔法』はどうだ?」
「普段から限りなく魔力消費を抑えて使ってるからか、周囲を把握する程度なら普段と変わらないわ。でも、攻撃に転用するとなると少し難しいかも」
小規模の魔力で発動する魔法なら問題ないが、中規模から大規模の魔法には大きく制限がかかるってトコか。
「身体強化の線はどうかしら?」
マスターに言われて、オレは普段通りに『雷魔法』で身体機能にブーストをかけると、投げナイフを壁に向かって投げる。
ビシッ! と刃は壁に容易く突き刺さった。
「問題なさそうっす」
「あたしも、『消命』はちゃんと機能している様に感じました」
サリアも狙撃ポイントに移動する際に自らの気配を絶つ『消命』が問題なく機能していたと語る。
「皆の確認をまとめると……外で起こる魔法事象だけに強い制限がかかっている、と言う事ね」
身体強化は自分の魔力を使って内側で完結するモノだ。『闇魔法』で阻害されない限りは安定して発動が出来るだろう。
「それと捕捉情報として。この世界の奴らは魔力を殆ど持って無いです。そこで寝てるスカーレットも含めて」
故に、どうやってあれ程の高火力を生み出しているのか全く不明だ。
「なんか……無理に魔力を寄せようとすると逆に逃げていくみたいよね?」
「あー、その感覚に近いな」
サリアの感覚にオレも同意する。事前に『遺跡内部』へ入った時は、魔力の少ないトコもあったが、ここまで露骨な不自然差は無かった。
「ふむ。この件に関しては私とクロウで話を聞いてきたわ」
「結構、当たり前の事らしいですよ!」
クロウが元気に告げる。
「この世界の人達は魔法の事を『加護』って呼んでるみたいです!」
「『加護』?」
すると、マスターがいつの間にか、スカーレットの眠る寝台に『極性魔法陣』を敷いていた様で、彼女のステータスと透過図を立体的に表示する。
傷の具合や、四肢と体内を結ぶような、複雑な魔法陣が構築されている様子まで細かに浮かび上がっていた。
ここまで詳細に把握できるのは『再生の種』との紐付けにより内部の状態も同時に観測しているからである。
「見て分かる通り彼女の体内には外からでは感じられない程に僅かな魔力で魔法陣が練られているわ。おそらく、これが『加護』ね」
「つまり、この世界では魔法の発動に必要な魔法陣があたし達のと違うってこと?」
「他の人も診てみないと解らないけれど……共通した術式ではないと思うわ」
『極性魔法陣』はクロエでも認識出来る様に魔力仕様。しかし、それにしても……
「これがスカーレットの魔法陣ね」
マスターが分かりやすくスカーレットの魔法陣を色分けしてくれる。
ソレはあまりにも複雑に入り組んだ毛細血管の様な仕様だった。幾重と線や点が重なり、部分部分を解析するだけでも、ゲボ吐きそうな程に複雑化している。
「彼女の『加護』は私でもこの場で再現するのはコレが精一杯。本来のモノはまだ倍は複雑よ」
「マジっすか……」
短時間でコレだけ展開再現出来るマスターも流石だ。
「皆さんは、祈りを捧げることで『加護』を強めると言っていました。多分……ソレが自分の中の魔法陣をより強くする為に必要な行為なのだと思います!」
「つまり話をまとめると、この世界の住人は『加護』=魔法を潜在的に発動する為に毎日祈ってる……って事か?」
「私とクロウも最初はそう思ったわ。でも、それなら魔法を理論的に理解してる私達が自在に出来ないのは違和感があるの」
「では、どう言う事でしょう?」
ここまでの話で、なぜオレたちが十全に魔法を発動できないのかの説明が立っていない。
「これからの私の“仮説”を話すわ。ある程度は自分で噛み砕いて納得して頂戴」
マスターはまとめるように告げる。
「この世界の魔力には一定の“意志”があると思うの」
その言葉にマスターとクロウを除く全員が驚愕する。
「恐らく、一人一人が持つ『加護』の属性はそれなりに固定されているのでしょう。私達の魔法適性みたいにね。そして“祈る”事は自分の適性となる『加護』を練る事に繋がり、本人の資質で使えるエレメントが強く作用する」
マスターは一呼吸置いてから簡単な例えを交えて説明する。
「簡単に言えば『加護』は夜道を照らす“光”の様なモノ。それが強く照らされれば照らされるだけ、遠くからも多くの人達――魔力が集まってくる」
「つまり……この世界では魔法を行使する際に“魔力の支配権を得る”のではなく、寄ってくる様に仕向けなきゃいけないって事ですか?」
「感覚的な捉え方はソレで間違いないわ。でも、その捉え方自体が私達と彼らにとっての大きな齟齬だと思うの」
マスターはスカーレットを治癒する『炎の加護』へ視線を向けた。
「きっと、この世界の人達は『加護』に心から感謝しているのだと思うわ。だから、『加護』もソレに応えようと力を与えてくれている。スカーレットを助けようとする『加護』のこの動きを、当然なのか、希少のか、そのどちらかを決める場合、私は後者だと思うわ」
きっと、この世界の住人は魔法の発動が当然だと思ってはいない。祈り、感謝しているからこそ『加護』も力を貸すのだろう。
「だから魔力に意志があるって事ですか」
「ええ。もし、別の要因があったとしても、そうであった方がロマンがあるでしょ?」(キラン★)
「あー、だから“仮説”なんですね」
「全てを解明するには10年は滞在する必要があるわね」
コロン、と笑ってそんな事を言うマスター。
流石にそんなに滞在しようもモノなら『シャドウゴースト』に叩き出されるな。
すると、パン、とマスターは手を合わせるように叩く。
「短い滞在になるかもしれないけれど、私達も、この世界に倣って祈りを捧げましょう。魔法を使わなかったとしてもね」
郷に入って郷に従う、だな。何が起こるか解らないし、少し意識をしておくか。
「そう言えば、スメラギはまだ戻らないんです?」
「外の調査が難航しているのかもしれないわ。あの子は『ドラゴンソウル』があるから、何かしらの危機に陥ってる可能性は低いと思うし」
アイツには『白炎』もあるし、『ドラゴンソウル』の魔力で基本的な能力は自分の中で循環する。
サリアも銃器が中心で火力や技量は魔法に殆ど異存しない。
クロエも普段から省エネだし……あ、もしかして魔法使えないと一番足手まといな戦闘員……オレか?!
「クロウ、後でここの市場に行ってみるか?」
「わぁ! 行きます! 行きます!」
ちょっとでも『加護』を得る情報を集めねぇと……オレが足手まといなのがバレるワケには行かねぇ! マスターは、ふふ、と察してる様子だが。
「みんな、解散する前にちょっといい?」
すると、サリアが手を挙げた。
「あたしが狙撃位置に着いていた時に、視線を感じる違和感があったの。その件に関して皆に意見が欲しいわ」
『…………』
「急にVIP待遇で呼び出したと思ったら、今度はお前からの依頼か? ケルス」
「早急な呼び出しに応じてくれて礼を言うぞ。カント」
【崩】と【爪】からボルックの情報を聞いていたカントは、その場に呼びに来た近衛兵から丁寧に案内されてケルスの元へやって来ていた。
王族しか入れない特別な庭園。
月の光に照らされ、その光によって色を変える花々は神秘的な雰囲気を生み出している。
そこに設けられたテラス席。カントはそこに設けられた椅子――ではなく、近くの木の枝に寝そべるように座り、足を伸ばして楽にしていた。
対するケルスはテラス席に座り、“火茶”を一口飲んでいる。
「ルージュの件は聞いている。無事にスカーレットを痛めつけてくれた様だな」
「クッカッカ。あの女は普通に良い線を行ってるぜ? ボコボコにしてやったんだが……ギリギリでお仲間と『加護』に邪魔されて逃がしちまったよ」
「お主の口から“逃がす”と言う言葉まで出てくるとはな」
「殺して良いなら秒だったけどな。暴れる犬……いや、狼を殺さずに無力化するのは誰だって難しいぜ? それに、逃げる瞬間まで俺に向かって来てたからな。クッカッカ」
「アレは“戦”そのものだ。生まれながらに戦地で命を果てるまで“炎”として燃える存在。平時こそ、毒となる程に『加護』に愛され過ぎている」
「クッカッカ。戦争の英雄も平和なら異常者の類だしな」
「何を思ったのか……『炎王』に成るなど、戯言も良いところだ」
「だが、器はあるんだろ?」
上機嫌に木の上で笑うカントはどこか遠くを見るように冷めた笑みを浮かべながら告げる。
その問いに関して、ケルスは無言を貫いたがカントの位置からは表情までは見えなかった。
「まぁ、そっちの事情だしな。俺はこの世界で得られる“強さ”が無くなってきた所だ。次の依頼を最後にするぜ? 報酬は『炎王の門』以外には受けつけねぇ」
「構わない。俺が『炎王』となった暁には即座に『炎王の門』を開き、お前を送り出そう」
「クッカッカ。そんで、俺は何をすればいい?」
「二回戦目の“勝利”だ」
「なに? おいおい……本気で言ってるのか?」
「ああ。既に一つ取られた。万が一にも次まで取られるワケには行かない。それに、スカーレット側には『異来者』が味方についている。しかしお前ならば問題はあるまい?」
カントは木の上から飛び降りると、ポケットに手を入れながら庭園の出口へ歩いて行く。
「楽すぎて逆に内容を疑いたくなったわ。報酬の件はよろしくなぁー」
この世界で誰一人として“倒す”事さえも出来なかった『最強』は、承諾する様に片手を上げながら庭園を後にした――
「お姉ちゃんの“炎”はどこからでも見えるね」
ああ。だからこそ、私はここに来たんだ。
「でも、わたしの事は気にしないで。しょうがないから」
そんな事はない。今は『北の魔物』によって多くの事柄が割かれているが……私が終わらせる。
「終わらせて……どうするの?」
お前たちを救う。その瞬間までお前に対する涙はとっておく事にするさ。
「……うん、お姉ちゃんらしいね。ねぇ、お姉ちゃん」
なんだ?
「お姉ちゃんが、わたしのお姉ちゃんで良かった。わたしはずっと一人で死ぬんだと思ってたから……最後にお姉ちゃんに会えて……」
この縁を最後にはしない。お前を通じて私は多くの道を切り開く。私が歩む道はお前が作った道だ。
だから私は誇らしく“理想”を征く。見ててくれ、レト――
「――――」
「あら。おはよう」
スカーレットは目を覚ますと涙を拭こうとしてくれたゼウスと視線が重なった。
「辛い夢を見たの?」
「……いや、大切な家族と会っただけだ」
そのまま身体を起こし、腕を動かし拳を握る。眠る前の気だるさと身体の傷が殆ど無くなり、力が戻っている。
「私はどれほど眠っていた?」
「大体、12時間くらいよ」
「12時間……丸一日か?」
「あら、そうなの?」
どんな治療法でも、あれ程の重症はここまで早く回復しない。本来の治療と違う点と言えば……
「あの、『再生の種』か?」
『部分的なエネルギー活性にもよる』
と、反対側に立っているボルックがスカーレットをキュイ、とスキャンしながら告げる。
『ワタシが生体エネルギーの流れを逐一スキャンし、ゼウス殿が低下する箇所を重点に活性化させた。結果、本来の80%まで身体能力を回復させる事に成功している』
「よく解らんが……治療に尽力してくれたのだな。ありがとう」
「どういたしまして。私達にとっても『炎王の扉』は是が非でもくぐりたいモノなの。簡単に言えば打算目的ね♪」
ゼウスはそう言うが、スカーレットは彼女からそんな雰囲気は欠片もない様子に改めて頭を下げた。
「私が『炎王』になった暁には貴女達のあらゆる要望に応えると約束しよう」
スカーレットの言葉にゼウスは、コロン、と笑う。
「スカーレットさん」
「スカーレットで良い」
「スカーレット、一つ確認なのだけれど、この世界は12時間で一日なのよね?」
「ああ。だから――」
『スカーレット陣営は第二戦目の選手の出場をお願いします!』
近くの『音量石』から司会の声が響いた。
スカーレットは室内を見るが、ゼウスとボルックの他にメンバーの姿は無い。
「まずいな……二回戦目は陣営の“協力者”同士の戦いだ。1人から2人選出する必要がある」
『どう言う意図でその様な形になっている?』
「『炎王』として他者を惹きつける素質も問われる。協力者が実力者であればあるほど、己の器を証明する事となる」
「そうなのね。ふむぅ……」
ゼウスは考える。サリアは市場に出ててすぐには戻れない。スメラギもまだ戻らないし……となれば――
「ボルック、無線を中継してローとクロエに繋げられるかしら?」
『可能です。繋ぎました』
「ありがと」
ゼウスはカチリ、と耳につけた無線をONにする。
「二人とも聞こえる?」
『……聞こえてる』
『なんでしょう? マスター』
ローハンは元気が無く、クロエは剣を振っていた為に少し息が切れている様だ。
「次の戦いは“協力者”同士らしいわ。2人まで出れるそうよ。2人は行ける?」
『私は行けます』
『……相手の情報は無いんすか? ていうか、もう二回戦目が始まるのコレ?』
「この世界の一日は12時間だそうよ。相手の情報は解らないわ」
『どうりで……時計の表示が6までしか無いワケだ……』
「ローは出れる?」
『確認なんですが、この戦いに勝てばもうスカーレットは『炎王』なんですか?』
「スカーレット、次で勝てば貴女は『炎王』なの?」
「無論だ!」
「そうみたいね」
『なら、オレがクロエと出てて終わらせて来ますよ。そんで……ちゃちゃっと、この世界から抜けましょう……』
「ふふ。わかったわ」
『星の探索者』でもゼウスを除けば正面戦闘では最高戦力の二人。
どんな相手でも勝ちは揺るがない様子にゼウスは通信を切った。
その時、ぐぅぅぅ〜とスカーレットの腹が鳴る。
「食事はあるか?」
「作ってあるわ。後は温めるだけにしてあるの」
と、スカーレットは改めて控室を見ると、手際よく道具などが展開されており、そこには鍋もあった。
「麻婆豆腐って知ってる?」
「なんだそれは?」
「気に入ると思うわ」
火を着け、温め始めた鍋から漂う匂いがスカーレットの空腹を更に誘った。その時、ワァー!! と歓声が響いてきた。
「対戦相手は凄い人みたいね」
「もし、間に合っていれば、恐らく相手は“カント”だろう」
『カント? 個人名か?』
ボルックの問いにスカーレットは答える。
「ああ。ヤツも『異来者』だ。現れたのは三週間ほど前だが……今だに靴の底以外に奴を地面に着けさせたヤツはいない」
オレはスカーレット側の入場ゲート裏で待っていたクロエと合流した。
「ん? ふふ。ローハン、貴方……なに? それ」
「祈祷だ祈祷」
「姉ちゃんすごく眠い……」
オレは市場で祈りの効果を高める(と言われる)道具を買い漁り、装備するモノも可能な限り装備して、『加護』をより強く発現する為に休まずにずっと祈祷していた。
二人だと効果があると言う情報も買って、クロウと12時間耐久祈祷だぜ!
なんか、『加護』が宿ったらキラキラした軌跡が見えるんだと。
少し金が飛んだが、これは必要経費だ! まぁ……マスターからの補助は下りない思うけど……しかし! 足手まといにならない様に努力するのは当然のこと! まぁ……スカーレットが『炎王』になれば即座にオサラバだけど……いや! オレは妥協しない! 何が起こるか解らないのが『遺跡内部』! 手札はあればあるほど良い! それに……気づかれるワケには行かねぇ! 魔法が使えないオレが一番の足手まといと言うことに! ブツブツ……
「姉ちゃん。僕応援したいけど……ゼウス先生の所に戻ってるね」
「その前に、ローハン。その変な道具は全部クロウに預けて頂戴」
「なに?!」
「羽根とかバンダナとか、長い布は戦いで不利になるわ。貴方も分かってるでしょ?」
「オレとしてはギリギリまで……」
「もしかして……貴方、魔法が――」
「クロウ! これ全部持ってけ!」
「合点承知です!」
オレは身につけている祈祷グッズを全て脱いでクロウに渡す。危ねぇ……無能である事がバレるトコだったぜ……
「ふふ。クロウ、貴方はご飯を食べて休みなさい。マスターが麻婆豆腐を作ってるわよ」
「はーい。姉ちゃん、ローハンさん。頑張って!」
クロウはそう声援を残して去って行った。何処となく……クロウにキラキラした軌跡が見える気がするが……オレにはねぇな? なんでだ?
「ローハン、行きましょ」
「待ってくれ。念の為あと一回だけ祈祷を……」
『スカーレット陣営は先に入場をお願いします!!』
「ほら、行くわよ」
「あぁ〜」
『加護』が宿らねぇ! クソッ! 『霊剣ガラット』でお茶を濁すしかねぇか!
『スカーレット陣営の選手は二人です! さぁ、対するケルス陣営も同数でしょうか?!』
バトルフィールドに入ると、美麗なクロエへ一気に視線が向く。いい感じにクロエの注目度を隠れ蓑にして上手く立ち回るか。どんな相手でも『霊剣ガラット』が通れば勝ちは確定。とっとと終わらせて……
『ケルス陣営の選手は入場をお願いします!!』
ザッ、と地面を踏みしめる音ともに、対戦相手が入ってきた。
中年の男で、武器は持たず鍛えた腕がよく見える様子から格闘家の様だ。ポケットに手を入れての堂々とした入場。少し面倒だな……『霊剣ガラット』の初撃で仕留めたい所だぜ。
「クロエ、前衛は任せるぞ。仕留められるならそのまま行っていい。難しそうならヤツの意識を引きつけろ。オレが隙を突く」
「…………」
「クロエ?」
「クルカント様……」
「え?」
オレはクロエの口から出た名前に思わずそんな声が出た。何故ならその名前は――
「よう、クロエちゃん。ヤキューでは大活躍だったな。それと隣のはゼウスのガキか。クッカッカ」
【武神王】の二番弟子――【義手】クルカントだったからである。




