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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 第二幕 殿の兵士

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第61話 ん?(怒り)

「なるほど……『認識阻害(ジャミング)』か」


 ジャンヌはスメラギの気配が掴めなかった原因を即座に看破する。

 闇魔法『認識阻害(ジャミング)』。

 主にマイナスな効果を相手へ一方的に押し付ける闇魔法において、ジャンヌ程の実力者へ効果を及ぼす者は早々にお目にかかれない。


「スメラギ」

主様(マイマスター)。何も言わずに、この場はスメラギにお任せを」


 スメラギから放たれる圧は殺意と言うにはあまりにも強大過ぎた。

 周囲の小動物は逃げ去り、草木はざわめきを止める。まるで、一帯の支配者がスメラギと言わんばかりの雰囲気であるが、ジャンヌは僅かにも怯まない。


 これが【烈風忍者】か。【魔弾】と同じく生半可ではないな。


 座った状態で背後を取られていても、剣の届く間合いにいる限り、ジャンヌにとっては不利ではない。彼女は剣を抜かずとも“斬る”事が出来る。


『スメラギ、ここはマスターが引き受ける場だ。ワタシ達はイレギュラーな存在である事を理解しているか?』

「その主様が狙われたのだ! 許しがたい……」


“貴方の伸ばした手が届くまで、(わたくし)が側にいてあげる”


 主を失い、後悔と罪悪感に時を過ごしていた時、主様は手を差し伸べてくれた。

 チャキ……とスメラギはクナイを取り出す。殺……とジャンヌへ攻撃を仕掛けようとした時、笑顔を向けてくるゼウスを見て停止する。


「スメラギ」

「……」


 ゼウスに名を呼ばれスメラギは汗を流す。

 そして、チャキッ、とクナイを仕舞うと滑らかな動きで後退し、そのまま正座から土下座へ移行した。


「申し訳ありませんっ! 主様!」


 スメラギの渾身の土下座に対してもゼウスはニコニコしている。そして、ん、と『星の探索者』のキャンプを指差した。

 帰りなさい、と言う意図が明確に伝わる。


「し、しかし! 某は主様の無事を思い――」

「ん?」


 ゼウスは相変わらず笑顔だが、少し影があり、ゴゴゴ……と凄みがある。


「……」

「ボルック、連れて行って」

『了解。スメラギ、帰還するぞ』

「承知……」


 項垂れて立ち上がるスメラギは、ボルックに背中を軽く支えられて、トボトボと歩いて行った。


 次にゼウスはニコニコしたままサリアの方へ視線を向ける。


「サリア」


 音魔法で彼女へ声を飛ばす。






「クロエ、退きなさいよ」

『ダメよ、サリア。マスターがソレを望んでないわ』


 サリアの言葉をクロエは音魔法で拾い、こちらの声は飛ばして遠距離で会話をしていた。


「マスターが驚異に晒されるのを黙って見てろって言うの?」

『この状況はマスターにとって危険でも何でもないからよ。貴女がマスターを慕う理由は良く解るわ。ずっと近くで聞いてきたから』


“処分? 彼女は物でも道具でもないわ。(わたくし)達の家族よ”


 孤独に死ぬと決めた時、マスターは助けに来て家族と言ってくれた。


「家族を守る事の何が悪いのよ」


 森の中では音を立てて移動する必要がある為にクロエからは逃れられない。


『サーリーアー』


 サリアとクロエの会話にゼウスの声が割って入る。それにサリアはびくっとした。


「マ、マスター……あ、あたしは――」

『クロエとキャンプに帰りなさい。ここは(わたくし)一人で大丈夫だから』

「で、でも……」

『大丈夫。後、(わたくし)怒ってるからね』

「うっ……」


 ゼウスの口調は穏やかに聞こえるが、逆にそれが罪悪感を強める。


『クロエ、サリアをお願いね』

『はい。それと、マスター。周囲をギリスの兵士が囲んでいます。手は出していませんが一応報告を』

『知ってるわ。ありがとう』


 クロエはライフルを抱えて気落ちするサリアと合流すると、プリンでも作って帰りを待ちましょう、と手を差し伸べて繋ぎ、共に歩いて行った。






「ごめんなさい、ジャンヌ大佐。(わたくし)の家族が騒がしくして」

「いや、気にしていない」


 【魔弾】も来ていたか。偵察部隊からの情報が無い所を見るに、最初からこちらの動きを読んでいたのか?

 【千年公】の指示では無さそうな所を見るに個々で判断して動いたと言うところだろう。


「ジャンヌ大佐」


 と、ゼウスはポケットから一つの石をジャンヌへ差し出した。


「……これは?」


 ジャンヌは手に取らず差し出された石について問う。


「これは『記録石』。『創生の土』と(わたくし)の力を持って作り上げた魔道具よ。触れる者が魔力を流す事で記憶を“記録”し、見る事が出来るわ」

「我々の過去を見ると言うことか?」

「違うわ。見せるのは(わたくし)があの子を迎えに行った時の記憶」


 あの子。それはきっと、【オールデットワン】の事だろう。


「手を重ねて。それで見せる事が出来るわ」

「……何故、ここまでする?」


 前に『ゼウスの雷霆』で吹き飛んだ時の様に【千年公】ゼウス・オリンはいくらでも事実をねじ曲げる事が出来るハズだ。


「ジャンヌ大佐。(わたくし)は貴女とお友達になりたいの。それなら、歩み寄る一歩は偽り無いモノでなければならないわ」

「……」

「それでも、(わたくし)を信用出来ないと言うのなら日を改めましょう。今日は……うん。あの子達が騒がしくしちゃったから、今度は(わたくし)が貴女の陣営に行くわ」


 と、ジャンヌはゼウスの小さな手に乗る『記憶石』に手を重ねた。


「信用したワケではない。だが意味の無い時間と言うのは非効率だからな」

「うん。それでこそ、ジャンヌ大佐ね」


 ゼウスは、コロン、と微笑むと、ローハンを迎えに行った時の記憶をジャンヌへ見せる――






「なぁ……キキア。いつまで俺たちは手を上げてりゃ良いんだ?」

「下ろしたら【魔弾】に殺されるわ。死ぬ気で上げてなさい」


 【魔弾】サリア・バレット。

 古代兵器『銃器』の扱いに長ける『エルフ』の殺し屋。その眼に狙われた者は決して逃れられない。


 いいか? 何があっても自分達の命を優先しろ。私は放っておいて良い。【オールデットワン】が現れるかもしれん。


 大佐の命令は絶対だ。コレを違えて感情のままに動くことは部隊全体の衰退に繋がる。故にキキアとボルスは堅実に従ったのである。


「キキア、ボルス」

「! 大佐!」


 その二人の元へジャンヌが現れる。


「手は下ろしていい。【千年公】は帰った」

「会談は終わったのですか?」

「ああ。陣営に戻るぞ。今回の件は全員に決を取る」


 既に全部隊の撤収指示を出したジャンヌは、キキアとボルスが最後なので迎えに来たのだ。


「全員に、ですか?」

「私一人の判断では今後の動きを決めるには不確定でな。皆の言葉が欲しい」


 そう告げるジャンヌの手にはゼウスとローハンが再会した時の記憶が入った『記録石』が握られていた。

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