第60話 お前は殺す。ジャンヌ――
ギリスの偵察部隊は使い魔にて空から『星の探索者』のベースキャンプを監視する。
中央の見える場所には【魔弾】が銃を整備し、【烈風忍者】は胡座を掻いて瞑想していた。
少し離れた水場では【機人】と【水面剣士】が布類を洗って干しており【銀剣】と【黒蹴球】は一つのテントに入ったきり出てこない。
問題は唯一姿の見えない【オールデットワン】。
奴の存在を確認するまで監視の眼は緩められない。しかし、現状を見るに【千年公】の元へ駆けつける者は皆無と言って良いだろう。
【千年公】がどれ程、非常識な“魔法”を使ってきても、魔法が発動しなければなんの意味もない。
魔法阻害陣。
ジャンヌの率いる第五騎士中隊の魔術師達は特定の配置につく事で、範囲内の魔力を封殺する事を可能としていた。
唯一の欠点は身体強化系には作用しにくい点だが【千年公】は小柄な身体で身体能力も見た目相応だ。
至近距離でジャンヌが遅れを取ることは万に一つも無い。
「貴女は【オールデットワン】の生みの親か?」
全てを入念に準備しての会談。自分達に取れる選択肢は少ない故に、出来る限りの備えはしたつもりだ。もし、ここで自分が死んでも後の事はジルドレに任せてある。
【千年公】がどの様な返答をしたとしてもこちらの意思を通させてもらう。
「私が? 【オールデットワン】の産みの親?」
「ああ。前に我々と交戦したローハン・ハインラッド。奴の事を貴女は“私の眷属”と言った。つまり、それは――」
と、状況を改めて整理する意味でもジャンヌはローハンとゼウスの関係から【オールデットワン】との関連は浅くないと告げる途中で、
「むー」
「…………」
何故かゼウスは腰に手を当てて怒っていた。思いもよらないリアクションにジャンヌは次の行動に戸惑う。
これは……どういう考えから出た表情だ?
「心外よ、ジャンヌ大佐。私が【オールデットワン】なんて作るワケ無いじゃない」
失礼しちゃうわね! とぷんすか頭から湯気を出す。
演技ではない……? 本気で私の発言に対して怒っているのか?
「でも……貴女達にそんな誤解をさせてしまった私の言い方も悪かったわ。ごめんなさい」
今度は謝ってきた。この女の感情の変化の意図が掴めん。
「では、我々が納得する説明してくれるのか?」
「ええ。まず、大前提として【オールデットワン】となる術式を開発したのはオズウェル・ハイマーよ」
「誰だ?」
「ベルファストの技術研究長ね。私も全部終わってから気づいたの。まさか、人が“禁忌”に片足を突っ込んで正気を保っていられるなんてね」
「…………」
ゼウスは困った様に肩を竦めるが、ジャンヌとしては今理解できない事を追求するつもりはない。
「ベルファストは最初にグリーズアッシュ砦を制圧した国だ」
「そして、最初に攻め滅ぼされた国でもあるわね」
根の椅子に座るゼウスは自分のココアを手に取ると膝に抱えた。
「私の兄と息子の故郷だったわ」
「貴女に兄が居たことに驚きだ」
「私の素敵な思い出よ。聞く?」
「いや、それはどうでもいい」
「酷いわ」
そう言いつつも、ゼウスはココアを飲む。うん、美味しい。と自画自賛した。
「質問の整理をしたい」
「クッキーもあるわよ」
「……【千年公】。質問を――」
「クッキーもどうぞ」
ニコニコするゼウス。ジャンヌは仕方なく一つ取って口に運ぶ。
「【千年公】。もう一度だけ確認させて欲しい」
「何かしら?」
「貴女の近くに居る【オールデットワン】は今、誰と敵対している?」
ザァ……と風が流れる。
ゼウスはココアを飲むと一度、ふぅ、と息を吐いた。
「ジャンヌ大佐。もう、貴女達はそんな事は考えなくて良いわ」
「答えになっていない」
「答えが必要?」
「ソレを求めてここに来たのだ」
ジャンヌは剣の柄に手を置く。出来ることなら刃を見せずに終わらせたいモノだが……
僅かでも鯉口を切ればソレが攻撃開始の合図――
「止めなさい」
「……武器の持ち込みを禁じなかったのはそちらだ」
「違うわ、大佐。貴女じゃない」
「なに?」
そして、ゼウスはもう一度告げる。
「止めなさい。サリア、スメラギ」
大樹の影から尾を引くようにスメラギがジャンヌの背後に現れる。気配をまるで感じなかった。
その身に纏う殺意はジャンヌでさえも選択を誤れば殺されると感じる程である。
『スメラギ、そこまでだ』
その本気の殺意を纏うスメラギの背後へ更にボルックが現れた。
『マスターはジャンヌ殿と二人での会談を望まれた。マスターの意に反するとは貴殿らしくない』
「……」
スメラギとボルックが会談の場に現れる前に、ゼウスの口元を読唇術で読んでいたキキアは、ゆっくりと身体を起こした。
「キキア?」
「ボルス……武器を見える位置に出すわよ……」
キキアの言葉に観測者のボルスは自分達が狙われてる事に気がつく。
しかし、どこから狙われているのか全く解らない。次の瞬きの間に殺されているかもしれない。両手を上げて武器を行使しない事をアピールする。
キキアもその場でライフルを上に掲げ、放る様に手放すと同じ様に両手を見える位置に掲げた。
「チッ……」
森に侵入し、ゼウスを狙う二人を容易く見つけたサリアはキキアを射殺する寸前でトリガーから手を離した。
正当防衛以外の射殺はマスターに固く禁じられている。そのまま狙い続けてくれたら殺す事が出来たものの。勘がいい。まぁこっちの素人はどうでもいい……
「お前は殺す。ジャンヌ――」
次にスコープはジャンヌの頭を捉える。
マスターへ剣を抜こうとしたな? それは絶対に許されない行為だ。
トリガーに指をかけ、撃つ――
「…………なんの真似よ。クロエ」
するとスコープの先にクロエが割って入る。彼女は首を横に振って、止めるように言っていた。
『星の探索者』のベースキャンプを監視していた偵察部隊は眼を疑った。
動きの少ない【魔弾】と【烈風忍者】は最初から変わり身の人形だった。
【水面剣士】は次の瞬間には水に変わり、【機人】は『加速』で消えた。
「!! 全員居ない! 大佐に伝えろ! 『星の探索者』のメンバーは全員、【千年公】の所だ!」




